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 とりあえず3人の弟子たちを実践の中で鍛える。僕が診察して、ヒールで事足りると判断した患者を弟子に回す。弟子は僕が書いた症状から最適だと思われる効能のヒールを掛けると言った感じだ。

 3日もすると、それぞれの得意不得意が見えて来る。治療院には1日60人程度の患者がやってくるが、その内の50人は弟子たちに回している。

 4日目からはケルビンに診察をさせてみた。ケルビンの判断でヒールで治せそうな者は、マリオンとランクスに、そうでない者は僕に患者を回すと言った感じだ。

 翌日はマリオンに、その翌日にはランクスに診察をやらせてみた。

 まあ、皆それなりにこなしている。たまに誤診もあるが、この診療所に来るような患者ならば問題無い。僕も居るからフォローも出来るしね。今のうちに沢山間違えて、身をもって覚えろよ。

 さて、そうこうしているうちに新店舗が開業できる状態になった。

 なったは良いが、まだ開けられるほど弟子たちが育って無い。そこで、新店舗は僕と弟子1名。治療院は弟子2名で暫くの間は回す事にする。
 
 新店舗の補佐は毎日違う弟子になる様にローテーションを組んだ。そして、僕は診療が終わった後に、ハイヒールとリカバリーを弟子たちに教える。理論から入り実際に魔法を見せて、イメージが出来る様になるまで1週間位かかった。

 そして、そろそろ実際に魔法を使用できると言う段階まで来たので、治療院を任せる弟子に患者に許可を貰ってからテストさせて貰う様に言う。

「ただし1人1日に2名まで。それと成功しても黙っている様に患者には念を押して置いてくれ。」

「宣伝はしなくても良いんですか?」

「まあ、宣伝しなくても噂は勝手に広まるさ。それにリカバリーはそれ程難しい魔法では無い。1,2回成功すればマスターしたも同然だ。3人がそれぞれリカバリーを覚えたら、新店舗の方でも欠損の治療を始める。」

 あ、ちなみに新店舗は『中央治療院』と名付けた。だいたい王都の中央に位置するからと言う適当なネーミングだ。

 これに対して、貧民街の治療院も『南治療院』と名称を変更した。

 中央治療院は基本僕が毎日いるので、様々な病気にも対応出来る。別に大した宣伝をしたわけでは無いのだが、思ったより賑わっている。まあ、弟子の練習も兼ねているので値段が安いと言う事もあるだろう。

 さて、弟子たちが一通りリカバリーをマスターする事が出来た。うちでは基本魔法は無詠唱だ。外から見ただけでは何の魔法を使っているのかは判らないだろう。

 素直に教えを請いに来た者には教えるつもりだが、技術を盗もうと言う者にはそれなりの対応をしようと思っている。

「では、明日からいよいよ欠損の治療を開始する。価格はどちらの治療院でも一律金貨5枚だ。これは全額前金で貰ってくれ、失敗したら返却するか、再度魔法を掛けて治す事。こう言うのは信用と実績が大事だ。」

 リカバリーは欠損と相性が良いが、余りにも古い傷や生まれつきの欠損は直せない。事前の診察も重要だと弟子たちに教えて置く。

 ちなみに弟子たちのテストに参加してくれた貧民街の人達は全部で12人だ。治すのに時間が掛かった者も居るが、全員が欠損を治せた。テストに参加しなかった者は後で金貨5枚と聞いて、参加して置けば良かったと嘆いていた。

 翌日から欠損の治療を始めたのだが、宣伝を一切していないのに何故か、初日から結構な数の患者が来た。

 おそらく南治療院の噂のせいだと思う。また、南治療院にもそれなりの人数が来たそうだ。この2つの治療院の院長が僕だと言う事が周知されている様だ。

 ケルビンに聞いてみたが、商会は一切動いていないとの事、噂と言うのは本当に恐ろしい物だと思った。

 1週間もすると、噂が噂を呼んで、2つの治療院は大変な事になっている。ほぼ8割の患者が欠損の治療だ。しかも順番待ちで中には診療を受けられない者も出始めた。

 人口60万人の王都で潜在的な患者数は20%、およそ12万人だ。それに対して1つの治療院の1日の対応患者数は60人前後、これは何らかの制限を設けないとパンクするな。

 基本欠損の治療には緊急性が無い。なので事前予約制度を採り入れる。予約を取り、指定された日に来ると言う形式だ。この為に僕は事務員を2人雇う事になった。

 治療院はどちらも朝10時から16時までと決めている。16時以降は弟子たちの勉強に充てている。実際の診療は勿論良い経験になって居るのだが、僕は、彼らに医学を少しずつ教えている。これによって助けられる命が増えているのも事実だ。

 彼らが使える魔法はヒール、ハイヒール、リカバリーの3つだけだが、これでも十分、治療院としてはやって行ける。本当に極稀に、手の施しようの無い患者も来るが、これは助けられなくても当然だ。この世界の回復魔法の限界を超えて居るのだから。

 まあ、僕が居る時は助けますけどね。ここは治療院であって救急救命センターでは無いのだから。

 しかし、考えように寄っては救命より助かる確率は高いのかもしれない。リカバリーは異常を正常に治す魔法だ。例えば、脳や心臓の病気でも、時間が早ければ治す事が可能だ。こうなると救急車が欲しくなる。

 死んでいなければ助ける事が出来るのだ。まあ、治療師としての欲が出て来たのかもしれない。

 僕個人なら死んでいても治せるのだが、流石に治療院で蘇生魔法を使ったら不味い事位解って居る。

 ここに居る時は一介の治療師だ。欠損の治療が出来るだけでも、この世界では奇跡なのだ。それ以上を望むのはどうかと思う。

 さて、噂が広まると、貴族の耳に入る。最初は興味のある者が喰いつくだけなので良いのだが、あまり噂が大きくなると、ちょっかいを出して来る貴族が現れる。

 まあ、金の匂いを嗅ぎつけるだけなら良いのだが、僕らの存在を疎ましく思う者が現れると厄介だ。今のうちに後ろ盾が欲しい所だ。

 最悪は僕の名前を出すが、ここ最近ちょっと悪目立ちをしているので自重している最中なんだよね。

 さて、誰か適当な貴族は居ない物だろうか?僕の知り合いって大貴族か貧乏貴族なんだよね。伯爵家位が望ましいんだけど。

 僕の知り合いで伯爵と言うとアリアナの実家位だな。クラ―ネルが早く伯爵に上がってくれると助かるんだけど。って、まだ正式に子爵にもなって無いんだよな。

 そう言えば弟子の3人は皆、魔法学院の卒業生だよな?まあ、貴族学院じゃないって事は跡継ぎでは無いって事だが、親は貴族なのだろうか?

 治療院が終わった後、勉強会の為に皆が中央治療院に集まる。その時に聞いてみた。

「なあ、皆の中で親が貴族って奴は居るか?」

 するとマリオンだけが手を上げた。

「なるほど、女性と言う理由で魔法学院を選んだのか?」

「そうですね。詳しく話すと長くなりますが、要約するとそうです。」

「ちなみに今の現状を親は何て言ってるんだ?」

「男だったら宮廷魔導士になれたのにと言われました。」

 んー、あまり親と仲が良く無いのかな?

「ちなみに爵位とか聞いても問題無いか?」

「うちは子爵家です。上に兄が2人居るので、私は兄が後を継いだら家を出る事になります。」

「それで、魔法使いになったって事か。」

「先生には感謝しています。これで家を出ても治療師として独り立ちが出来ますので。」

 まあ、欠損が治せる治療師なら、何処でも引く手あまただろうな。と言うか、リカバリーの真価は欠損の治癒以外の所にあるのだが、それは後々教えて行こう。

 今は欠損の治癒で忙しいが、いずれ欠損の患者は少なくなって来る、その時の為に、彼らにどこまでの知識を教えて置けば良いのか悩んでいる。

 治療魔法使いなのでポーションの知識はあまり必要無いだろうし、ドラゴンを狩れる訳でも無いので万能薬の作り方を教えても意味が無い気がする。

 だが、知っているのと知らないのでは、治療師としての腕に差が出るのでは無いだろうか?知識は武器だ。時間があるのなら、必要な知識は教えて置いても良いのかもしれない。
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