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「あなた、なんで床に座り込んでるんですか?」

「いや、なんとなく。」

 セリーの迫力に負けてとは言えない。

「とりあえず、皇女様に会って下さい。」

「その皇女様だが、辞めた方が良いぞ。彼女はこの国の人間になったのだろう?それにこの世界に皇女が居ると言う事を知って居る者は少ない。誰が聞いているか判らないからな。」

「そうですね。私が迂闊でした。」

「この家ではセリーがトップだ。フローネルと呼べば良いと思うぞ。」

「どうも、その名前は聞くとクラ―ネルさんを思い出すんですよね。」

 フローネルの部屋に着き、ドアをノックする。どうぞと声が聞こえたので中に入る。

「どうだ、気分は?そろそろ生まれると聞いたが、何時頃になりそうだ?」

「産婆さんが言うには早ければ明日にも生まれると。気分は今の所問題ありません。自分の子供が生まれると考えるだけで幸せです。」

「帝国では皇女だった、フローネルだが、この国では一介の侯爵夫人だ。余計な事は考えずに元気な子を産む事だけ考えていれば良い。明日は僕も休みを取った。」

 会話にセリーが割って入る。

「こんな人でも一応父親ですからね。近くに居るだけで心強いですよ。」

 セリーさん、一応ってのは酷くありませんか?

 フローネルが吃驚した顔をした後噴き出した。

「仲が宜しいのですね。」

「まあ、15歳の時からの知り合いですからね。」

「私は年上なので、そう言った感じに接するのは難しいですね。」

 前世を計算に入れれば僕の方が年上なのだが。

「まあ、その内慣れるだろう。うちには色々な嫁が居るからな。」

「それは、あまり誇れた事ではありませんよ。」

「今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ、食事は部屋に運ばせよう。何かあったらすぐにメイドに言うんだぞ。」

「解りました。お言葉に甘えさせて頂きます。」

 翌日、稽古が終わってから母屋に戻ると、産婆やメイドたちがいそいそと動いている。

「出産が近いのか?」

「いえ、まだ時間はかかります。今のうちに準備をして、待機する時間を稼ごうと言う所ですね。」

 ふむ、まだ時間が掛かると言う事は午後、それも夕方近くかな?

 クラ―ネルは仕事があるとかで帰ってしまった。

 そう言えば、竜王の爺さんはそろそろ戻って来ても良いんじゃないかな?

 結局陣痛が始まったのが4時過ぎ、破水したのが6時過ぎと言う遅い時間だ。このまま行くと、産まれるのは真夜中か、下手をすれば朝だ。

 嫁やメイドたちに交代で仮眠を取らせる。僕は1日位は寝なくても大丈夫だ。

 生まれたのは朝の7時前だった。盛大に産声を上げたその子は男児だった。

「私の感が当たりましたね。やはり男児でした。」

 セリーと一緒に子供の顔を覗き込んでいる。フローネルは疲れ切って寝ている。

「名前はどうするのですか?」

「王国と帝国では名前の付け方も違うだろう。フローネルに付けさせようと思っている。」

「あなた、あなたは何故フローネルさんを嫁にしたのですか?」

「彼女は政治的に利用されそうになって居た。いわゆる政略結婚だな。それを彼女は自らの意思で蹴った。その時点で彼女には結婚と言う選択肢が無くなった。まあ、生まれた時点で女性としての幸せを奪われていた様な物だ、彼女は幼い時から平凡な幸せを諦めて生きてきたわけだ。」

「なんとなく解りますね。私も似た様な境遇でしたから。でも、あなたがそれを背負い込まなくてもよかったのではありませんか?」

「実はな、彼女が皇女である事を知る前に、彼女を鍛えた。クラ―ネル程では無いが、フローネルは強いぞ。そんな縁もあって、彼女には幸せになって欲しかったんだ。」

「あなたは貴族としては優し過ぎますね。いずれ自分の首を絞めるかもしれませんよ?」

「全てひっくるめて守れるだけの力を得たいと思っている。」

「ずるいですね。あなたはそれを実行してしまうのですから。」

「だが、時々怖くなることもある。もし、セリーの身になにかあったら、僕はこの世界を壊してしまうかもしれないとね。」

「それは、私は愛されて居ると理解すれば宜しいのですか?」

 返事の代わりにキスをした。

 フローネルが目を覚ましたのは昼過ぎだった。僕は名前の件をフローネルに告げた。

「では、ザクラスと命名したいと思います。」

「ザクラス・フォン・ゼルマキアか、響きも悪く無いな。よし、それで決まりだ。」

 ちなみにザクラスと言うのは初代皇帝の愛剣の名前らしい。

 これで、我が家の子供は男が4人、女が2人だ。最低でも、爵位がもう2つ位欲しい所だな。

 お父さんは頑張らないと。

 しかし、大騒ぎの出産だったのに、僕的には久しぶりにゆっくりと出来た気がする。普段が忙し過ぎるのかな?

 予定では3日位はのんびりとフローネルに付き添うつもりだ。暇すぎで死なないと良いが。

 付き添うのは苦にならないが、会話中に子供が泣くのが困り物だ、授乳になると部屋を追い出されるので、会話が途切れ途切れになる。

 よく考えたらなんで授乳時に追い出されるんだ?フローネルの胸は見飽きる程見てるぞ?

 仕方が無いので、他の子供達とも戯れる時間を作る。上の子はパパ、パパ、と寄って来るので可愛いが、下の子は僕が誰か解って居ない様だ。

 しかし、日本にいた時は子供なんてずっと先の話だと思っていたが、こうやって、いざ子供を持ってみると、やはり自分の子は可愛いと思ってしまう。

 これも異世界効果なのかな?それとも周りに流されている?

 授乳が終わったとメイドが知らせてくれたので、フローネルの部屋に戻る。

「なぁ、皇帝には子供が産まれた事を知らせなくて大丈夫かな?」

「父には知らせない方が良いと思います。まあ、父と言うより兄に知られたくありません。私はこのまま行方不明と言うのが、あの国にとっては良いと思います。」

「戦争が起こるとしても?」

「あの3国はいずれ戦争に突入します。我が子を戦争に巻き込みたくはありません。」

「まあ、この王国が平和過ぎるんだけどね。争う国が無いからね。」

「私は、亡命して正解だと考えています。この国では私は普通で居られますので。」

 まあ、皇女と言う身分が相当重かったんだろうな。

「話は変わるが、この屋敷では毎朝、4人が集まって稽古をしているのは知っているか?」

「毎朝何かをしているのは知って居ましたが、稽古だとは知りませんでした。」

「現状、僕より強い者が2人、僕より弱い物が1人居る。一番弱い者でも、フローネルより遥かに強いぞ。」

「旦那様レベルの方が4人もいらっしゃるのですか?」

「まあ、そう言う事だな。どうだ?参加してみたいとは思わないか?そして自分の息子にもその力を与えたいとは思わないか?」

「良いのですか?」

「今すぐと言う訳には行かないが、3~4か月もすれば体も元に戻るだろう。子供は、まあ5歳位になれば参加出来るかな?」

 フローネルは少しの間考えて、答える。

「将来帝国に戻る日が来るかもしれません。力は付けて置ていも邪魔にはならないと思います。」

「そうか。では参加する方向で考えて置くよ。」

 僕がすぐに居なくなる事は無いとは思うが、将来は判らない。ルシル一人でもそれなりの戦力はあるが、サポートする形でフローネルが居てくれると安心だ。

 ブラスマイヤーの話によると僕は既に神らしいからな。何時神界に呼び出されてもおかしくないと言う事になる。

 まあ、精一杯抗うつもりでは居るが、神が地上に居ると言うのは自然な形では無いと言う事も解って居る。

 現状、神を辞める方法も、地上に居続ける方法も見つかっては居ない。恐らく神格を砕けば神では無くなるはずだが、神格を砕く事=神の死だ。神として死んだ場合、実際の肉体がどうなるのかは解って居ない。

 確か、神竜のベルクロスが、神格を砕かれて死にかけていた記憶がある。寿命が短くなるだけなら良いが、力を失うのは怖い物がある。

 まだ、時間は十分ある。なんとか地上で暮らして行く方法を探って行こう。
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