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 ここのところクラ―ネルが自主的に動いてくれるので、僕は結構楽が出来ている。別に手を抜いている訳では無い。毎朝の訓練は欠かさずやっているし、困った事が起こればアドバイスはしている。

 一緒に行動する事が減っただけで弟子と言う立場は変わりが無い。むしろクラ―ネルの成長が早いので次々と課題を考えるのに苦労している。

 そう言えばクラ―ネルは異常に欠損を治す事に執着しているが、叔父さんの事が原因なのだろうか?帝国でも医学に興味を示していたが果たして結論は出たのだろうか?

 あれから結構経つが詳しい話は聞いていない。帝国での商売は上手く行っていると言って居たので、万能薬の販売も含まれているのだと思うが。

 まあ、僕に相談に来ないと言う時点で、トラブルは起こって居ないと言う事だろう。

 そう言えば、うちの改装工事が終わった。もっと時間が掛かる物だと思っていたのだが、実質10日程で済んでしまった。

 この改装部分、元は家人の寝室だった場所は、家庭教師や使用人の個室になる。使用人の個室は、シンプルな物なので、それ程手間がかからないらしい。その分改装の手間が省け、時間短縮につながった様だ。

 クラ―ネルの家の改築はまだ数週間かかる様だ。

「そう言えば、家庭教師は何時から来るんだ?」

「改装工事が思ったより早く終わったので、来週になると思います。」

 セリーが答えた。

「来週か。上の子達はともかく、下の子達は何を教わるんだ?」

「基本は礼儀作法ですね。それから生活魔法も教えてくれますよ。」

 生活魔法って事はあれか、トイレトレーニングだよな?家庭教師と言うよりベビーシッターだな。メイドでも良いんじゃ無いか?そう思わないでも無いが、セリーには言わない方が良いよね?

「そう言えば、あなた。マリーカさんが帝国に遊びに行くような事を言ってましたが、あなたが連れて行くんですか?」

「いや、現在帝国での商売はクラ―ネルに任せているから、クラ―ネルの判断じゃないかな?」

 って言うか、マリーカ嬢を連れて行くとはクラ―ネルも余裕があるな。あれ?でも何でそれをセリーが知っているんだ?

「マリーカ嬢に会ったのか?」

「見合いをした時から毎月1回はマリーカさんは家に来てくれてますよ。知らなかったんですか?」

 え?マリーカ嬢が毎月?何をしに来てるんだ?レンツェル子爵の差し金か?

「マリーカ嬢とはどんな話をしてるんだ?」

「基本はクラ―ネルさんの話になりますね。最近特にクラ―ネルさんがあなたに似て来たと言う話で盛り上がりました。」

「クラ―ネルが僕に似て来た?僕には判らないけど、そんなに似て来たか?」

「外見はともかく、行動や思考が似てきましたね。」

 僕の様になりたいと言う願望が態度に出て来たのかな?

「で、マリーカ嬢は帝国に遊びに行くと言って居たのか?仕事ではなく?」

「仕事と言う感じではありませんでしたね。それにマリーカさんは帝国語を話せないですよね?」

 確かに言葉は話せないが、クラ―ネルのサポート位は出来ると思うのだが。

「で、セリーはマリーカ嬢が羨まいしと?」

「まあ、ありていに言うとそう言う事になります。結婚してからは2人だけで出かける事は滅多にありませんからね。」

「子供も居るしな。そう簡単には2人で遊びには行けないと言うのは解る。まあ、帝国ぐらいなら連れて行っても構わないが、言葉が通じないのは結構苦痛だぞ?」

 18歳になったセリーが、15歳になったばかりのマリーカ嬢に嫉妬するのもどうなんだ?とは思いつつ。まあ彼女も15歳ですぐに結婚して、子供を産んだから、そう言う普通に憧れる気持ちも解らないでは無い。

「言葉がどうのではなく、あなたと2人切りと言うのが良いのではありませんか。」

 と言う事で、なんとなく帝国行きが決まってしまった。後になって不味かったかなとも思ったが、屋敷に近寄らなければ大丈夫だろうと高を括っていた自分が居る。

 そして1週間後、僕とセリーは王都に立っていた。

「で、何処に行きたいんだ?商店街でも見て回るか?」

「そうですね。まずは、あなたのおすすめコースで行って見ましょう。」

 おすすめコースと言う訳では無いが、クラ―ネルにも紹介したコースを回る。王都と帝都の違いが判るコースだ。

 最後に軽食屋に入ってコーヒーとお菓子を頼む。

「やはり、帝国は色々な意味で進んでいますね。マリーカさんがはしゃいていたのが解ります。」

「あれ?マリーカ嬢は、もう帝都を堪能したのか?」

「クラ―ネルさんから聞きましたよ。なんでもお土産もあるそうなので、マリーカさん用のお土産も用意しないと行けませんね。マリーカさんが絶対知らない物を選んで貰えますか?」

「そう言う事なら下着を買うと喜ばれるぞ。これはクラ―ネルにも教えて無いが、帝都の縫製技術は進んでいる。洋服の出来も良いが、下着のレベルが王都とは段違いだぞ。」

「それは良い事を聞きました。家人の分だけでなく、使用人の分もまとめて買っておきましょう。」

 普段あまり買い物をしないセリーが、下着を大量購入していた。機嫌が良いって事で良いんだよな?

「さて、買い物もしたし、そろそろ戻るか?」

「あと一か所行きたい所があるのですが、駄目ですか?」

「いや、駄目って訳じゃ無いが、何処へ行きたいんだ?」

「侯爵家です。リアンにも久しぶりに会いたいですし。」

 え?それは不味いぞ。いや、リアンに会うのは大丈夫なのか?問題はフローネル嬢の方か?

 僕が慌てて頭の中で色々と計算していると、セリーがどうかしました?と言う顔で覗き込んで来た。

 どうする?ここで断るのは最悪の判断だ。だが、連れて行ってフローネル嬢と鉢合わせしたらどう誤魔化す?

 意を決して侯爵家に転移する。幸い、フローネル嬢は出かけている様だ。

 セリーはまるで我が家の様に、リアンを探している。大丈夫かな?

「奥様!」

 先に気が付いたのはリアンの方だった。

 え?話し合い?何を話すの?あ、僕も参加、え?駄目?何で?

 あたふたしている間にセリーとリアンが2人切りで部屋に閉じ籠ってしまった。

 何だろう?最悪の事態しか思い浮かばない。

 およそ40分程で2人が出て来た。

「あなた。リアンから全て聞きました。公爵ってどう言う事ですか?」

「いや、公爵ってのはあくまでも、産まれた子供が男児だった場合の話だ。」

「そう言う問題ではありません。その皇女様に会わせて頂けませんか?」

「あー、家に居ないみたいなんだが、リアン何か知ってるか?」

 セリーの剣幕に押されて、誤魔化す事を忘れている。

「皇女様ならお散歩です。もうそろそろ戻られるかと。」

 リアンの言葉にハッとする。セリーとフローネル嬢を会わせて大丈夫か?喧嘩とかならないよね?セリーさん瞬殺されますよ?

 と、そこにフローネル嬢が産婆さん軍団を引き連れて帰って来た。だいぶお腹が目立つ後2か月も経たずに生まれる所まで来ている。

 フローネル嬢はセリーの顔を見て、誰?と言う顔をしている。

「あなた、リアン、そして皇女様の4人で話がしたいんだけど?」

 セリーが王国語で話すのを使用人達が不思議な顔で見ている。

 僕はフローネル嬢に通訳して聞かせる。

「ところで彼女は誰?」

「王国での第一夫人って奴かな。」

「あれ?もしかして修羅場?」

「まあ、そんなもんだな。」

 と言う事で僕の部屋に4人で集まる。他の者は入らない様にときつく言って置いた。

「ご希望通り4人集めたけど、どうするの?」

「亡命しましょう。」

「亡命?何処に?」

「我が家に。」

「それは、リアンとフローネルを王国に連れて行くって事?」

「皇女様はフローネルと言うの?何かクラ―ネルさんと似てるわね。」

 セリーの口から自分の名前が出てフローネル嬢が吃驚している。

「問題は言葉だな。リアンは大丈夫だが、フローネルは王国語を話せないぞ。」

「言葉は何とでも出来るんでしょ?それより亡命に賛成かどうか聞いて下さい。」

「フローネル。セリーが王国に亡命しないかと誘っている。君はどうしたい?」

「亡命ですか?事実上存在しない国から国への亡命ですよね?私の立場は人質ではありませんよね?」

「ああ、そんな事になるなら亡命は勧めないよ。」

「でしたら旦那様に任せます。私は子供が居ればどこでも生きて行けます。」

 僕はセリーに向き直って話を続ける。

「セリー、OKが出たぞ。ただし、政治的な利用は許さないぞ。」

「これは女としての矜持の問題です。政治利用はしません。」

 セリーの言葉に頷き、4人で王国の侯爵家に転移する。
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