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「レンツェル子爵家に婿入りする事になったクラ―ネルです。レンツェル子爵家はこれから伸びますよ。」

 陛下にクラ―ネルの名前を強調して置く。

「ふむ、我が派閥にまた一人優秀な人材が増えると言う事か、それは重畳。」

「で、ここからが本来の要件なのですが、大森林の定期討伐をこのクラ―ネルに任せたいと思います。」

「む、しかし、大森林の先にはアレがあるじゃろう?」

「はい、その事も伝えてあります。クラ―ネルは強いだけでなく、空も飛べますし転移も使えます。放っておいてもいずれは自力で帝国に辿り着くでしょう。ならば抱き込んだ方が得策かと。」

「その言い方だと、お主レベルの力を持っている様に聞こえるが?」

 ここが重要なポイントだ、国王陛下は僕が2人居たらどうするのだろうか?

「まあ、初めて陛下に会った時の僕と同じくらいのレベルと考えて下さい。」

「今のお主のレベルになるには、どの位掛かりそうじゃ?」

「1年ですね。1年で、今の僕のレベルに引き上げるつもりで弟子にしています。」

 国王陛下が何やら考え込んでいる。クラ―ネルは片膝をつき平伏したままだ。

「解った。1年後、レンツェル子爵がゼルマキア侯爵と同等の力を持つのであれば、伯爵位と領地を用意しよう。大森林については2人に一任する。」

「ありがとうございます。必ずや陛下のお力になる様育てます。」

「うむ、今日の密談は有意義であった。期待しておるぞ。」

 その後、仕事を済ませ合流した宰相と一緒に、何人かの人間とクラ―ネルの顔合わせをした。これは、大森林の魔物を国に買い取って貰う時の手続き上必要な人物との顔合わせだ。

「しかし、ゼルマキア卿と同等の力を持つ人物が敵にならなくて良かった。レンツェル卿、よろしく頼むぞ。」

 宰相が手を伸ばし、クラ―ネルがその手をしっかりと握った。

「若輩者ですが、この国の為に尽くす所存です。こちらこそよろしくお願い致します。」

 その日はそれで終わりにした。

 翌日はクラ―ネルを連れて帝国へ飛んだ。まだ言葉は教えていないので、クラ―ネルは肌で異国と言う物を実感した様だ。

 あちこち連れて回り、王国との違いが判る場所を案内して行く。

「ちなみに、この国では冒険者の事をハンターと呼ぶ。言葉を覚えたら登録すると良い。王国で狩り過ぎだと思ったらこっちで狩りをすれば良い。ただし、Gランクからのスタートになるけどね。」

「この国は王国より魔法が遅れているんですよね?ならば、魔法使いで登録しない方が良いですか?」

「その辺はクラ―ネルの判断でやってみろ。僕とクラ―ネルではこの国の見方が違うだろうしね。」

 その後、喫茶店に入り軽食とコーヒーを注文した。

「確かに、魔法以外の文化はこの国の方が進んでいますね。」

「ああ、おそらく魔法が進んでいないので、別の文化が発展したんだろうな。」

「2つの国はお互いの存在を知らないんですよね?それって商売になるのでは無いですか?」

 そう言う所に即座に気が付くところがクラ―ネルが僕に似ている点だ。

「ああ、実際に帝国の技術を僕は王国に流す仕事を国王陛下から仰せつかって居る。クラ―ネルにも手伝ってもらう事になるだろう。」

「既に行われているんですか?そう言えば、前に比べて王国の料理が進化していますけど、もしかして?」

「まだ、一部だがな。現在は公爵派の貴族のみが、この恩恵にあずかっている状態だ。クラ―ネルの入り込む余地は十分残って居るぞ。上手くすれば大きく儲かる。ポルト商会を上手く使いこなせよ。」

「そこまで計算してるんですか?エイジさんの凄さは戦闘力だけじゃ無いんですね。」

 まあ、僕の場合は前世の記憶と言う武器があるからね。純粋培養のクラ―ネルの方が凄いと僕は思うよ。

「ところで、もう一つ見せたい物があるんだが。」

 そう言って僕は帝都の郊外にクラ―ネルを連れて行った。この先には例の廃墟の闘技場がある。

 おそらく昔はこの辺ももっと栄えていたのだろうと言う形跡があちこちに見られる。何があったのだろう?

「ここって、え?僕は帝国で訓練をしていたんですか?」

「まあな、他に適当な場所が思いつかなくてな。さて、今ここには人が居ない。ざっと帝国を見た感想はどうだ?」

「面白いですね。僕は王国の他に国がある事を知りませんでしたから、異国と言うのは亜人が住んでいる物だと思っていました。」

「で、どうする?この国の言語を覚える気はあるか?」

 覚えると言っても脳の言語中枢に、僕の帝国語の知識をコピー&ペーストするだけなんだけどね。

「覚えたいです。もっとこの国を知りたいですし。帝国は知識も進んでいる様なので興味があります。」

 少しだけ動くなよと言って、魔法を使い、言語中枢に帝国語の知識をペーストしてやる。

「これで、日常会話には困らないはずだ。専門知識は自分で研究してくれ。一応文字も書けるはずだ。」

 クラ―ネルは何が変わったのだろう?と言う顔をしていたが、外に出ればおのずと解るだろう。

 闘技場を出て、今度は帝国城の見える場所に転移する。

「この帝国と言うのは、王国とシステムは似ているが、若干の違いがある。まず、国王と言う存在はこの国には居ない。代わりに皇帝と言うのが居る。基本的には同じ君主制で呼び名が違うだけと言う感もあるが、歴史上では王国を倒した者が皇帝を名乗り帝国を作る事が多い。つまり、王国より帝国の方が軍事的に優れていると考えるのが一般的だ。」

「それは、帝国がもし王国を発見したら、侵略する可能性が高いと言う事ですか?」

「あくまでも一般論ではそうだな。だが、実際はその時々の皇帝に寄って、その辺は変わって来る。これは王国も一緒だろう。また、現在この大陸では3つの国が対立して3竦み状態になって居ると言う事情もある。必ずしも、王国が見つかったからと言って即侵略と言う構図にはならないはずだ。」

 この辺の事情は、僕も実際に皇帝に会うまでは判らなかった事だ。

「それでは、大森林はあのまま2つの国を分断する形で存在した方が良いと言う事ですか?」

「まあ、暫くはそれが安全だろうな。ただ、現状、王国には僕とクラ―ネルが居る。この大陸の3国が同盟を結んで攻めて来ても、2人で十分対抗出来るだろうな。問題は、僕らが居なくなった後の話になる。」

「それもエイジさんの計算の内ですか?」

「いや、大森林をどうするかは国王陛下の判断に任せている。僕は帝国にも思い入れがあるので、もしかしたらどちらにも付かないと言う選択肢を取るかもしれない。その時はクラ―ネルが王国の守護神となるしか無いな。」

 僕は現状、王国でも帝国でも侯爵だからなぁ。もし、戦争になったら、クラ―ネル対フローネル嬢の戦いになりそうだ。勝つのはクラ―ネルだろうが。

 出来れば、国王陛下と皇帝陛下には冷静な判断をして貰いたい。理不尽な侵略をするならば滅ぼさなければならなくなる場合もある。

「場合に寄っては、僕とエイジさんが敵同士と言う事もあり得るって言う事ですか?」

「そうならない様に祈ってくれ。」

「エイジさんに勝てる未来が見えないので、頑張って祈ります。」

「ところで折角帝国語を覚えたんだから、本を買って行ったらどうだ?それから、マリーカ嬢以外にはこの帝国の話はしないで欲しい。いずれは周知させるつもりだが、今はまだ時期が早い。」

 と言う事で本屋が多い通りに向かって歩いて行く。

「解りました。でもマリーカには話して良いのですか?」

「もちろん、マリーカ嬢にも口止めはしておいてくれよ。あまり夫婦間で秘密を持つのも良く無いからな。そうでなくても話せない事が多いだろう?」

 クラ―ネルも全てをマリーカ嬢に話すのは無理だろう。だから、話せる事は話して置いた方が良い。夫婦円満の為にも。

「子爵に話すのは不味いですか?」

「あの子爵は少し頭が切れすぎるんだよね。まあ、正式に結婚して、爵位を譲って隠居した後なら構わないぞ。」

 レンツェル子爵に話して変に何かをされても困る。頭が切れる人物は時に野心に魂を奪われる事があるからな。

「解りました。では、帝国の本は子爵に見つからない様に隠して置きます。」

「そうしてくれ。」

 クラ―ネルは、本屋で30冊くらい本を購入していた。まあ、アイテムボックスに入れて置けば見つかる心配は無いよね?
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