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 クラ―ネルを表舞台に出す準備は整った。今まで、2日狩り、4日訓練だったのを2日狩り、2日訓練にして、残りの2日を魔道具の制作に当てる事にした。

 現状でもクラ―ネルは十分に強い。だが、封印されている精霊の事を考えると安心は出来ない。

 今のクラ―ネルの強さは魔法がベースになっている。もし、神の欠片が砕けたらどうなるだろう?全く魔法が使えなくなると言う事は無いだろうが、おそらく10分の1程度に落ち込むのでは無いかと想像する。

 剣と体術だけでもドラゴンを退治出来る位には鍛えたつもりだが、魔法が上手く使えなくなったら、精神的なダメージをかなり受けるだろう。それが、強さにどう働くかが怖い。

 本来ならばなるべく早く真実を伝えた方が良いのだろうが、伝えるには、ある程度僕の情報も言わなくてはならなくなるだろう。

 クラ―ネルは頭も良いし感も良い。嘘で誤魔化せる範囲は限られている。真実を語らなければ信じないだろう。

 どうするのが最善の策なのか、今の僕には判断が付かない。一度精霊界を見せた方が良いのだろうか?

 それから2週間ほど経ち、王都でリバーシが流行の兆しを見せた頃。

 僕とクラ―ネルは、竜王の爺さんの訓練を受けていた。もちろんルシルも参加している。

「この人達、エイジさんより強く無いですか?」

「ああ、現状では僕より強いぞ。」

「どう言う人達なんですか?」

「あの爺さんは、現存する最古のエンシェントドラゴンだ。女性の方は暗黒竜だな。まあ、僕の妻でもあるけど。」

「暗黒竜ですか?名前が物騒なんですが、大丈夫なんですか?」

 あら?そっちに引っ掛かるの?

「暗黒竜ってのは黒竜が精霊化した物らしい。名前は物騒だが、悪では無いぞ。」

「精霊ですか?火の精霊や水の精霊の様な物と考えれば良いのでしょうか?」

「僕も詳しくは知らないが、属性を持つ精霊は上級精霊らしいぞ。ルシルは上級精霊では無いが、力なら精霊王に勝てる実力がある。」

「精霊王ですか?実感が湧かないんですが、どの位強いのでしょう?」

「そうだな、現状ではクラ―ネルは精霊王には勝てないだろうな。僕やルシル、爺さんなら、余裕で勝てる相手だ。」

「精霊って事は最早人外ですよね?まさか、僕もそのレベルまで鍛えないとイケないのでしょうか?」

「ああ、そうだな。この人達には魔法が効かないぞ。さて、どうやって勝つか、頭を使って考えろ。」

 クラ―ネルをこの場所に誘うのはギリギリまで迷ったのだが、魔法が効かない相手と戦う術を持つには他に方法が思いつかなかった。

「戦闘中にお喋りとは随分と余裕があるようじゃな。もう少しレベルを上げるとするかのう。」

 竜王の爺さんは人が増えて嬉しそうだ。

 って言うか、初日なんだからお手柔らかにお願いします。

 まあ、結果的にはクラ―ネルは3度ほどボコボコにされて、その度に僕がパーフェクトヒールで治したんだけどね。

 その日はおよそ9時間程稽古をしてから外に出た。外に出た時にまだ明るい事にクラ―ネルは驚いていた。

 まあ、10時に入って、45分しか経過してないからね。

「どうなってるんですか?」

「時空魔法の応用だよ。外と中の時間の流れが違うんだ。」

「それって、余り中に長くいると早く年を取るんじゃありませんか?」

 あ、そうか。クラ―ネルは普通の人間だからそうなるな。これは、少し考えないと行けないな。

「で、どうだ?人外の者と戦った感じは?」

「あれで、手加減してるんですよね?」

「まあ、本気で戦ったら瞬殺だろうな。クラ―ネルがゴブリンと戦ってる感じだろう。」

「そこまでの差があるんですか?」

「ふむ、それが判らない内はまだまだだな。」

「エイジさんは僕をどうしたいのでしょうか?」

「1つは魔法に頼らない事。もう1つは精霊王に勝てる位の力を持つ事だな。」

「魔法に頼る事はイケない事なのでしょうか?」

「いや、魔法は使い方次第で色々と有用だ。だが、戦闘においては魔法が効かない相手もいるって言う事を知って欲しい。」

 魔法に頼らない戦いが出来る様になれば、万が一の時にもクラ―ネルは冒険者としてやって行けるだろう。

 この世界の住人は必ず魔法が使える。理論派のクラ―ネルなら一度その力を失っても、また取り戻す事が出来るはずだ。

 僕がクラ―ネルの神の欠片を壊さずに精霊を解き放つ方法を見つけるのが先か、それとも神の欠片が砕けて精霊が顕現するのが先か。どっちに転ぶか判らない現時点では最善の策を取って置く必要がある。

「ところで、販売する魔道具は揃ったのか?」

「はい、上級ポーションと、中級ポーション、それから万能薬を販売用に用意しました。それからマジックバッグと指輪もある程度の数を揃えました。ドラゴンソードと上級万能薬はオークションに回す予定です。」

 ふむ、悪く無いな。それだけでも売れれば白金貨100枚近くになるだろう。月の稼ぎとしては多すぎる位だ。

「家の改築はどうなっている?」

「まだ、時間が掛かりそうです。新築では無く改築の形を取っているので手間がかかるそうです。それでも日々、新しい家が出来て行くのは見てて楽しいですね。マリーカや義妹たちも嬉しそうです。」

「レンツェル子爵はどうだ?」

「子爵は派閥の上の者に何か言われるんじゃないかと心配していますが、やはり新しい家には期待している様子です。」

 どうやら子爵家は問題が無さそうだな。

 そう言えばうちの増築も毎日の様に、家人や手の空いたメイドたちが眺めているな。貴族で増改築って珍しい物なのかな?

 確かに貴族街で新築の家を見る事は滅多に無い。上級貴族が子供の為に分家を作る時位しか新築はされないからだ。

 今度、国王陛下に進言してみるかな?そろそろ貴族街全体が古くなっているから建て替えや新築の許可を出したら貴族の受けが良いよって。

 まあ、現状で家を建て替えられる程の資産を持っている男爵家子爵家がどの位あるのかって言うのが問題だけどね。

 下級貴族は貧乏な家が多いって言ってたしなぁ。上級貴族は建て替えは許されているんだよね。

 貴族って現代日本で言えば、公務員に当たる訳だよね?その過半数が貧乏って、国としてどうなん?

「そうだ、クラ―ネル。子爵は王城の仕事を辞める気は無いのか?」

「どうなんでしょう?現状、お金は十分入れているので子爵が仕事を続ける理由は無いのですが。」

「当主としての威厳かな?クラ―ネルの商売が安定して来たら、子爵に手伝って貰えないか聞いてみろ。子爵が商売を手伝ってくれれば、クラ―ネルは冒険者をする時間が増えるぞ。その方が収入も安定すると思うが?」

「そうですね。僕に子供が出来て、それが男の子なら、子爵は安心して引退出来るんじゃないかとマリーカは言ってました。」

 この世界では男児絶対主義がまかり通っているからな。跡取りと言うのは僕が考えるより重要なんだろうな。

 現代日本なら、女性でも公務員は沢山居たし、国会議員だって女性が居る。しかしこの世界に女性の貴族は居ない。まさに男尊女卑の典型だな。

 この風潮を僕一人で覆すのは難しいだろうな。

「正式に結婚して、子供が生まれるとなると、最低でもあと1年位は掛かってしまうな。」

「そうですね。しかも子供が産まれても男児とは限りませんから。」

「まあ、クラ―ネルはまだ若いからな。そう焦らなくても良いだろう。」

 焦らなければいけないのは僕の方だな。早くクラ―ネルの中の怒りの精霊を何とかする方法を見つけないと。

「エイジさんは男の子が3人居るんですよね?一番上が侯爵家を継ぐとなると、下の2人はどうなるんですか?」

「あ、そうか。これはクラ―ネルにも関係してくる話だから良く聞いて置けよ。もしクラ―ネルに男の子が2人生まれたとしたら、今のままでは下の子は平民になる可能性がある。だがな、貴族と言うのは功を認められれば爵位を貰える事があるんだよ。現に僕は侯爵の他に伯爵と子爵、男爵の爵位を持っている。」

「それは、子供に与える事も出来るんですか?」

「もちろんそうだ。子供に与えても良いし、功績のある人物に与えても構わない。僕がクラ―ネルに最低でも伯爵になれと言ったのはそう言う事だ。」 
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