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 翌日は帝国の闘技場で訓練をする。

「ドラゴンは食べたか?」

「はい、家人と使用人全員に食べさせました。美味し過ぎて吃驚しました。」

 使用人に食べさせたのは正解だな。メイドのネットワークは侮れない物がある。おそらく、子爵家の評判が上がるだろう。

「まあ、肉だけでも数トンはあるから、特別な日に大勢で食べる事をお勧めするよ。もしくは結婚披露宴に使うとかね。」

「結婚披露宴ですか?」

「クラ―ネルの場合婿入りだからな。やらない訳には行かないだろうな。まあ、それまでにせいぜい稼いで置くんだな。」

「まだ稼がないと駄目ですか?」

「そうだな、クラ―ネルが子爵を継いで、子供が2人居るとしよう。国からの支援金を含めて年間、白金貨100枚あれば裕福な生活が出来る上に貯金も出来る。子供の事を考えると60年分の貯金があれば、クラ―ネルの役割は終わりだ。」

「白金貨6000枚貯めれば隠居出来ると言う事ですね?」

「まあ、数字の上ではそうだな。」

 白金貨6000枚は普通の人には莫大な金額だが、今のクラ―ネルなら、数年で稼げる金額だ。そんな有能な人材を見逃してくれる程この国は甘く無いぞ。

 まあ、変な輩に捕まる前に国王陛下に紹介して置くのが良いだろう。

 さて、このレベルになると、人間の領域を超えてしまうのが怖い。そこでクラ―ネルに、人の領域神の領域の事を詳しく説明する。そして、人間のままでも強大な力を得る事が出来る事を伝え、その方法も教える。

「まあ、クラ―ネルなら心配は無いと思うが、力に飲み込まれると、人間の領域を簡単に超えてしまう。そうならない様に精神もキッチリと鍛えていくぞ。」

「解りました。でも、そこまでの大きな力が必要になって来るのでしょうか?」

「今のままでも十分と言えば十分だ。だが、この世界には理不尽とも言える存在がいる。守りたい物があるのであれば、力は持っていた方が良いと僕は思っている。」

「理不尽な存在ですか?」

「ああ、例えばある日突然魔法が使えなくなったらどうする?」

「覚えた体術と剣術で戦うしかないですよね?」

「僕は、ある日突然全ての力を100分の1にされた経験がある。」

「そ、それはどんな状況ですか?」

「いずれ、詳しく話すよ。今は内緒だ。」

 この話をするには、僕が神である事を話せる状態にならなければならない。

 勢いでクラ―ネルの体に封印された精霊の話もしようかと考えたが、まだちょっと早い様だ。

「さて、体術を覚えて、武術もある程度出来る様になって来た。次のステップとして『気』と言うのを教えたいと思う。」

「『気』ですか?」

「そうだ、闘気とか殺気とか聞いた事は無いか?」

「聞いた事がありま」

 クラ―ネルが、突然身構えた。僕が強めに発した殺気に反応した様だ。

「今のが殺気だ。反応出来たのは誉めてやろう。冒険者でも下位の者なら失神するレベルだ。」

「どう言う時に使うのでしょうか?」

 クラ―ネルが、体の力を抜きながら言う。

「全ての生物には基本この気と言うのがある。まず、この気を捉える事で探知能力が上がる。また、相手の気でその相手に敵意があるがどうかが判るぞ。高位の魔物の中には僕が使ったような殺気を放って来る者も居る。逆にこっちが使う場合は、弱く放てば相手の気を引けるし、強く放てば相手の動きを止める事が出来る。」

「なるほど、結構便利なんですね。」

「まあ、便利な点もあるが、不便な点もある。気を操る魔物等はこの気を察知して奇襲を掛けたり逃げたりする事がある。なので、気を知り、覚え、気を消す練習をする事を勧める。」

「気の正体は何なのでしょう?」

「生物に限って言えば、気とは生命力だな。生命力が強い者程、気も強い。だが、アンデットにも気はある。負の生命力とでも説明すれば良いのかな?」

「なるほど、生命力ですか。でも、殺気の様に強く発するには技術が要るんですよね?」

 相変わらずクラ―ネルは理論派だな。

「武術の技術の中に気を練ると言う物がある。これを覚えればある程度気をコントロール出来るようになるぞ。」

「今日はそれを練習すると言う事ですか?」

「まあ、そう言う事だな。」

 前置きが長くなったが、この日から気のコントロールも訓練に取り入れた。気のコントロールが上手くなれば、精神面のコントロールも上手くなるだろうと言う目論見なのだが、さて、どうなる事やら。

 最近、帰りは転移を使うので、以前の様に帰り道に話をする機会が減った。まあ、その分狩りの時は色々と話をするのだが、子爵家でクラ―ネルは割かし馴染んでいる様で、子爵やその夫人、マリーカ嬢の妹の話などもちらほらと出て来る。

 最初は心配したのだが、今は仕事も家庭も上手く行っているせいか、クラ―ネルの表情が明るい。このまま行ってくれれば怒りの精霊が出て来る事も無いだろう。

 そう言えば、子作りは上手く行ってるのか?流石にそれを聞くとおっさん化してしまうので自制した。

 どうもクラ―ネルとマリーカ嬢のそう言うシーンは想像出来ないのだが、2人共貴族の子供だからなぁ。そう言う事は解って居ると言っていたし。

「さて、明日は休みの日だ。魔道具屋のお婆さんにドラゴンの素材を見て貰ったらどうだ?もしかしたら高く売れるかもしれないぞ。」

「そうですね。明日は特に用事も無いので久しぶりに行って見ようと思います。」

 僕は転移でクラ―ネルを家に送ってから自分の家に飛ぶ。

 家に着くと5時を回っていた。急いで風呂に入ろうかと思って居たら、セリーに声を掛けられた。

「あなた。明日は時間が取れますか?ちょっと付き合って貰いたい場所があるのですが。」

「ああ、明日は休みの日だから大丈夫だぞ。何処へ行きたいんだ?」

 セリーが外出とは珍しいな。国王の所かな?

「実は増築部分にもお風呂を付けたいと思いまして。家に来ている職人さんに頼んだらお風呂は別の職人に頼んでくれと言われてしまいました。」

「なるほど、って言うか、あの増築部分は何に使うんだ?」

「あちらの増築部分に家族の寝室やお風呂を持って行こうと思っています。今、私たちが使っている場所は、改築して使用人を少し増やそうと考えています。」

「ん?使用人を増やす?家の使用人は既に40人を超えて居るぞ?侯爵と言う身分から言えば十分では?」

「実は家庭教師を雇いたいのです。出来れば子供達1人に1人ずつ。」

「家庭教師か。そう言えばセリーは家庭教師にずっと貴族の事を学んでいたんだったな。」

「はい、子供達がいずれ学院へ行くとしても、小さい内から教育をして置くのは決して無駄では無いと思うんです。」

 確かにそうだな。この世界には幼稚園も小学校も無い。いきなり12歳から高校へ行くような物だ。現にクラ―ネルはこのシステムのせいで魔法学院で劣等生扱いを受けていた。

「解った。明日は風呂を作る職人と打ち合わせか?商業ギルドに行けば良いのかな?」

「そうですね。まずは商業ギルドに行きましょう。」

 翌朝、稽古を済ませてから、セリーと馬車で商業ギルドに向かった。

 ギルドで職人を紹介して貰い。その足で職人の元へ向かう。

 職人に、大人5人が入れる位の大きな風呂が欲しいと言ったら。工期に3か月、値段は白金貨4枚だと言われた。日本円で4千万円の風呂ってどんなん?

 どうやら工事には水回りの工事やお湯を出す魔道具の代金も含まれるので高いらしい。平民が大衆浴場に行くのはこう言う理由で家に風呂を作れないからである。

 そう言えば増築の費用がやけに高いと思って居たら、風呂や今住んでる家の改築費も含まれてたって訳ね。

 まあ、普段無駄遣いしない、セリーやルシルの為にその位は出しましょう。

 折角外に出たのだからと言って、馬車を家に帰し、僕とセリーは2人でデートをしながら帰る事にした。商業ギルドから直接家に向かうと何も無いが、少し迂回すれば、商会が並ぶ商業地帯があるので、そっちに向かう。

 2人で並んで歩きながらウインドウショッピングをしていると、向こうからクラ―ネルとマリーカ嬢が並んで歩いて来た。

 そう言えば、この先には例の魔道具店がある。お婆さんに婚約者を紹介したのかな?

 知らない振りをして素通りしようとも考えたが、マリーカ嬢とセリーが先に声を上げてしまった。

「マリーカさんにクラ―ネルさんじゃないですか?」

「あ、ゼルマキア夫人。ご無沙汰しております。」

 僕とクラ―ネルはなんとなく気まずい顔になっている。

 毎日会ってるのにね。


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