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 帝国の闘技場で訓練をする様になってから2週間。クラ―ネルの動きがかなり実戦的になって来た。まだ、僕に当てる事は出来ないが、時々、お!と感心する様な動きを見せる事がある。

 これは、そろそろ竜王の爺さんに会わせても大丈夫かな?その前に、ドラゴンを狩らせてみるか?

「クラ―ネル。明日はドラゴンを狩りに行こうと思う。」

「いよいよ、ドラゴンですか?」

「ああ、だがドラゴンはそう簡単に見つかる物では無い。何色のドラゴンと当たるかも運しだいだ。黒竜に当たったら、今のクラ―ネルでは厳しいかもしれないぞ。それでも行くか?」

「行きます!」

 だよねぇ。クラ―ネルはドラゴンに異常に興味を持っているからな。

 僕がそうだった様に、クラ―ネルもドラゴンを狩る事で人生が変わるかもしれない。まあ、やらせてみるか。

「じゃあ、明日はギルド前で待ち合わせって事で。」

「解りました。」

 翌日、ギルド前に転移すると、既にクラ―ネルが待っていた。

 この時間のギルド前は混雑はしていないが、結構人通りはある。ベンチに座って待っているクラ―ネルはかなり人目を引いているのだが、本人はあまり自覚して居ない様だ。

 クラ―ネルと合流して、一旦東門を出る。ある程度歩いて、人通りが少なくなった所で横道に逸れ、フライを使う。

 ドラゴンを探すのに歩いていたのでは何日掛かるか判らない。空からなら、おそらく見つかる可能性が高いだろう。

 東に飛ぶと大山脈がある。これを迂回する様に飛んで行く。大山脈の近くは人が近寄らないので、王国でドラゴンが生息するとすれば、この辺りだろう。

「だいぶフライが上手くなったな。その状態で戦えるのか?」

「この状態だと、魔法1種類と剣術なら行けますね。それ以上はコントロールが難しいです。」

「まあ、十分じゃ無いかな。魔物と空中戦をやる事は無いし、人間が相手なら向こうもその程度だと思うぞ。」

 およそ、1時間程かけて、大山脈を回り込む様に飛んでいるがなかなかドラゴンは見つからない。

「探知魔法はどの程度使える様になったんだ?」

「地上なら半径1キロ位ですかね。空中だともう少し広くなります。」

「そうか、ならそろそろ何かが引っかかるぞ。前方を注意していろ。」

「ドラゴンですか?」

「それは判らんが、かなり大きい。」

 数分後、それはクラ―ネルの探知にも引っ掛かった様だ。

「掛かりました。確かに大きいですね。」

 その距離およそ1キロ強。僕たちは時速50キロ位で飛んでいる。これ以上早く飛ぶとなると風魔法で防壁を作らないと危険だ。

「この反応はおそらくドラゴンだな。200メートル位手前で降りるぞ。」

「大きいと言う事は黒竜ですか?」

「いや、大きさだけならレッドドラゴンが一番大きいぞ。」

 僕たちは徐々に高度を下げて行く。そして、200メートル手前で森に降り立つ。

 ここまで近づけば相手がドラゴンなのは確定だ。問題は色だな。

 ゆっくりと進み、ドラゴンの姿が見える位置まで近づく。木々の隙間から、ドラゴンの巨体が見える。色は赤だ。

「レッドドラゴンだな。大きさは70メートル級と言った所だ。ドラゴンと戦う時注意する点は?」

「ブレスですね?」

「いや、素材を傷つけない事だ。」

「魔法は使えないって事ですか?」

「攻撃魔法はなるべく使わない方が良いな。出来れば、首を跳ねるのがお勧めなんだが、難しいようなら、脳天にライトニングを叩きつけろ。」

「どちらも難しそうですね。」

「何の為のドラゴンソードだ?その剣ならドラゴンの首を跳ねる事は十分可能だ。後はクラ―ネルの剣術の腕前次第だな。」

「あれ?エイジさんは戦わないんですか?」

「僕は見ているから、頑張って来い。クラ―ネルがやられたら回復は任せろ。」

 と言う事でクラ―ネルが初のドラゴン戦デビューだ。

 今のクラ―ネルならば体術だけでドラゴンの首をへし折る位の芸当は出来るはずだ。だが、実際に目の前でドラゴンを見ると、若干委縮している感がある。

 負ける事は無いだろうが、怪我くらいはするかもしれない。

「まだ、ドラゴンはこちらに気が付いていない。今がチャンスだ。行け!」

「はい!」

 クラ―ネルが果敢にドラゴンの前に飛び出す。

 虚を突かれたドラゴンの反応が1テンポ遅れる。その隙をクラ―ネルは逃さない。転移でドラゴンの左側面に飛び、首に思いきり蹴りを叩き込む。

 しかし、空中と言う事もあり、足場が十分でなかったのか首をへし折るまでには至らなかった。

 うーん、転移からの攻撃なら剣の方が良いのだがな。蹴りを放つなら瞬動を使わないと駄目だぞ。

 だが、全然ダメージが無い訳では無い。レッドドラゴンは危機感を覚えたらしく、ブレスの準備に入る。

 ドラゴンを退治する時、ブレスを吐く瞬間が一番無防備になる。ここで首をスパッと跳ねられれば、ドラゴン退治は簡単だ。

 クラ―ネルにもそれは教えてある。だが、ブレスを直撃すれば怪我では済まない。これを克服できるかが勝負だ。

 ドラゴンソードを握る手に力が入る。覚悟を決めたか?

 クラ―ネルが瞬動でドラゴンの懐に飛び込む。ブレスを吐こうとしたドラゴンが首の下に入られ、ブレスを吐こうにもクラ―ネルには届かない事に苛立つ。チャンスだぞ。

 クラ―ネルが渾身の力でドラゴンソードを振り切った。

 完全では無いが9割は首が切れている。まあ、一応合格点かな。

「レッドドラゴンは見て解ると思うが、火属性の属性竜だ。切る瞬間にドラゴンソードに水魔法を纏わせれば100点だったんだがな。」

「頭では理解出来るんですが、身体強化を使っている状態で、咄嗟には魔法が発動できませんでした。駄目ですね。」

「駄目って事は無いが、惜しかったな。まあ、初めてならこんなもんだろう。」

 その後クラ―ネルが、ドラゴンをアイテムボックスに仕舞おうとしたので止めた。

「なあ、それをアイテムボックスに仕舞ってどうする?」

「え?駄目ですか?」

「ギルドに持って行っても売れないぞ。って言うか、そのままじゃ買ってくれる人は居ない。」

「そうなんですか?」

 僕は一旦レッドドラゴンをストレージに仕舞い、解体した。そして、解説しながらクラ―ネルのアイテムボックスに詰めていく。

「こうやって、素材にして置けば、買い取ってくれる人も現れる。肉なんかは自分の家で食べても良いぞ。まずは、魔道具屋のお婆さんに相談すると良いかもしれない。」

「そう言えば、公爵家のパーティーで食べたアースドラゴンの肉は美味しかったです。」

「レッドドラゴンはその倍位美味いぞ。正直売るのは勿体ない。まあ、アイテムボックスに仕舞って置けば腐る心配は無い。ゆっくり素材は売り先を考えろ。」

「解りました。」

「それから、クラ―ネルは酒は呑めるのか?」

「いえ、僕はアルコールは苦手です。」

「そうか、じゃあ、これは子爵にプレゼントしてくれ。」

 そう言って竜泉酒を小さい樽でクラ―ネルに渡した。

「ところで、ドラゴンをソロで狩れれば一人前って前に言ってましたね?訓練は終わりですか?」

「いや、クラ―ネルにはもう少し強くなって貰わないと困る。なので、訓練はまだ続けるぞ。」

 怒りの精霊の件が片付くまではクラ―ネルを独り立ちさせる訳には行かない。ブラスマイヤーや竜王の爺さんに相談したのだが、神の欠片は体外に取り出すと消えてしまうそうだ。

 消えてしまっては困る。何とか神の欠片をクラ―ネルの体内に残したまま怒りの精霊だけを取り除く方法を考えないとイケない。

「これ以上の力ですか?僕は冒険者として普通に稼げれば、それ以上は望みませんが?」

 いやいや、既に普通じゃ無いから。普通の冒険者はドラゴンをソロで倒せないよ。

「まあ、おそらくだが、僕が着いている間はクラ―ネルに手出しをする者は居ないだろう。だが、独り立ちをすればクラ―ネルを取り込もうとする輩や逆に排除しようとする者も現れる。そう言った者達から身を守る力と権力をクラ―ネルには持たせたいと考えている。」

「権力ですか?」

「ああ、少し先の話になるが、最低でも伯爵になって貰うぞ。」

「え?え~?」



 
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