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 見合いが終わり、クラ―ネルがレンツェル家に入る日にちなどを決めて、お開きになる。

 お土産のパウンドケーキを持たせて、レンツェル家の馬車を見送る。

 僕とセリー、クラ―ネルはホッと一息をついて、改めて第二応接室でお茶にする。疲れた時には甘いショートケーキが美味しく感じる。紅茶を飲みながら、レンツェル家の話題になる。

「クラ―ネルはマリーカ嬢とやって行けそうか?」

「思ったよりも貴族の子女って感じが無くて親しみやすそうでした。」

「そうか?彼女は見た目に反して、心は立派な貴族だと思うぞ。」

 僕がそう言うと、セリーが補足して話す。

「私もそう思いますね。今日のお見合い、主導していたのはマリーカ嬢です。ご両親は殆ど発言していませんでしたね。結婚を決めたのもおそらくマリーカ嬢なのではないでしょうか?」

「え?そうなんですか?僕は全然気が付きませんでした。それって良い事なのでしょうか?それとも?」

「良い事だと思うぞ。クラ―ネルは貴族の内情とかあまり詳しく無いんだろう?家の事を任せられる人物がいるってのは心強いぞ。」

 僕にとってのセリーみたいな感じだ。バランス的には問題無いだろう。

「ところで、クラ―ネル。貴族の婚約期間が何故1年あるか知っているか?」

「はい、子供を儲ける期間ですよね?兄から聞いた事があります。」

「解って居るなら良いのだが、今回の場合試されるのはクラ―ネルだぞ。子供の作り方は知っているな?」

「一応知識はあります。」

「そうか、なら頑張れ。それから、今回の見合いの件は家族の者には話してあるのか?」

「はい、近く婿入りして貴族になるので家を出て行くと言う話は父と兄には話してあります。」

「その反応は?」

「なんと言うか、厄介払いが出来て喜んでいる様でした。」

 なるほどなぁ。クラ―ネルの見た目で見合いが出来た事には驚かなかったんだな。って言うか、最近見慣れたせいか、僕も感覚が麻痺しているのかな?そう思うと、レンツェル家は良く受け入れられたな。

「なぁ、セリー。レンツェル家の当主をどう思った?」

「かなり頭の良い方だと見受けました。良く言えば察しが良い。悪く言えば抜け目が無いと言う感じですね。」

「だよな。僕もそう感じた。そんな子爵が、なんで貧乏貴族に甘んじているのか、気になる所だ。少し調べて貰えないかな?」

「言われてみればそうですね。解りました、調べてみます。」

「頼む。じゃあ僕はクラ―ネルを家に送って来るよ。」

 そう言って、2人で応接室を出る。クラ―ネルにもお土産のパウンドケーキを持たせる。

 歩きながら少し話をしようと言う事だ。セリーが居ては言えない事もある。

「父親とは上手く行ってない様だが、母親はどうなんだ?」

「別に両親と上手く行ってない訳では無いんです。親子関係は築けています。ただ、貴族としては僕は役立たずだと思われて居る様ですね。」

「なるほど、お兄さんはどうなんだ?」

「兄も優しいですよ。僕が家を継がないのが解って居ますので意地悪をする事もありません。」

「じゃあ、今回の見合い話を皆はどう受け取っているんだ?」

「おそらく失敗すると思って居るんじゃないでしょうか?」

「んー、僕が行って、説明した方が良いか?」

「大丈夫です。自分で説明しますから。父と兄は信じないかもしれませんが、母は喜んでくれると思います。」

 信じないってどうなんだ?ちゃんと家を出られるんだろうな?

「ちゃんと、レンツェル子爵家の事を話して置けよ、それからマリーカ嬢の事とか、家を出る日にちとかも。いざとなったら家を出られませんじゃ困るぞ?」

「はい、その辺はキッチリと説明して置きます。きっと父と兄は子爵と言うだけで腰を抜かすでしょうね。」

「信じない様なら僕の名前を出して構わないぞ。ゼルマキア侯爵が取り持ったので結婚は確定事項だと補足しておけ。」

「はは、侯爵なんて言ったら、泡を吹いて倒れてしまうかもしれませんね。」

「良いんじゃ無いか。この際使える権力は使って置け。公爵家のパーティーに出席した事も話して置くと良い。」

 兄が男爵で、弟が子爵と言うのは父親としてはどうなんだろう?クラ―ネルは実質居ない子として対外的に紹介されて居なかった訳だから、結婚して子爵になっても自分の息子とは言わないんだろうな。

 だが、クラ―ネルはそれでも両親との関係は悪く無いと言って居る。クラ―ネル君人が良すぎだよ。まあ、それがクラ―ネルの良い所でもあるが、弱点にもなりかねない。

 まあ、今回はクラ―ネルが婿入りするので、レンツェル家とリドリル家は親戚関係にならない。これはある意味良かったのでは無いかと思う。またリドリル家が裕福なのも助かる。クラ―ネルに金をむしんする様では困る。

 数年後クラ―ネルが稼いでる事を知った時にリドリル家がどう出るかは少し心配だが、流石に縁を切った爵位が上の息子に変な手出しはしないと思いたい。

「もう、この辺で良いですよ。家はすぐそこですから。」

「本当に僕が行かなくても大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。」

「解った。じゃあ明日は10時に西門で。」

 クラ―ネルの家から5分程離れた場所で別れ、僕は家に転移する。

 家に帰るとすっかり見合いの席が片付けられていた。メイド凄いな。

 セリーが気が付いて駆け寄って来た。

「あなた、お疲れ様です。」

「セリーこそ、疲れて無いか?」

「大丈夫ですよ。クラ―ネルさんはどうでした?」

「見合いに手ごたえを感じている様子だったよ。今日一日でだいぶ成長したんじゃないかな?」

「それは良かったですね。」

「そう言えば、セリーの誕生日がそろそろだったよな?」

「明後日ですよ。」

「これで、全員18歳になるな。」

 別に嫁全員が18歳になったからと言って特別な事は無いのだが、セリーが一番年下なのを気にしているのであえて言って置く。

 翌日、西門に飛ぶと、クラ―ネルが上機嫌だった。

「何か良い事でもあったのか?」

「いえ、見合いの件を家族に話したら、初めて褒められました。」

 え?今まで家族に褒められた事が無かったのか?

「何を言ったんだ?」

「子爵になる事と、侯爵の推薦である事、あと公爵家のパーティーに出た事を話しました。1か月後に家を出てレンツェル家に入る事もきちんと説明しましたよ。」

「その話の何処を褒められたんだ?」

「全部です。今まで、見合いの話は僕が家を出る為の口実だと思っていた様です。僕が自分の力で貴族になった事を家族は喜んでくれました。」

 なるほどな。家族は、クラ―ネルの事にあまり関心が無かったんだろうな。ついでを言えば、1か月後に家を出て行くと言うのはリドリル家にとっては厄介払いが出来て良かったとも言える。

「冒険者になった事は言って無いだろうな?」

「はい、それは言ってません。心配すると思いましたので。」

 良かった。冒険者になって稼いでいる事を知られると色々と不味いからな。

「冒険者になった事は言っても構わないが、ランクと収入は誰にも言うな。」

「ランクと収入ですか?」

「そうだ、特に収入は正式に結婚するまではレンツェル子爵にも内緒にしておけ。」

 まあ、杞憂だとは思うが、あの子爵は何となく何か隠していそうだからな。それに、子爵の口から何処に漏れるか解らないってのもあるし。今の所はクラ―ネルの収入は隠して置いた方が良いだろう。

「マリーカ嬢にも言わない方が良いでしょうか?」

「んー、2人だけの秘密に出来るなら話しても良いぞ。」

 そう言うとクラ―ネルがあからさまにホッとした顔をする。どうやら隠し事が苦手らしい。

「まあ、正式に結婚した後なら誰にはばかる必要も無い。それまでの辛抱だ。」

「解りました。エイジさんがそこまで言うと言う事は、トラブルの元になると言う事ですよね?」

「そう言う事だな。」

 クラ―ネルは賢いが、貴族の狡さをまだ知らない。これから嫌でも知る事になるだろうが。
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