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 翌日からまた、追いかけっこと狩りを再開する。だいぶ僕の動きに反応出来る様になって来ているが、僕はこれが本気じゃないってクラ―ネルは解って居るのかな?

 早朝の稽古でもクラ―ネルとの狩りでも基本、封印の腕輪は付けたままだ。もう暫く外していない。竜王の爺さんに言わせると、付けている時と外した時では15倍位の差があるらしい。

 最初に付けられた時は100分の1まで下がったのだから、だいぶ封印されたままでも動けるようになっている様だ。

 もし、クラ―ネルが暴走したとして、外さずに抑え込めればそれに越した事は無い。神の力で無理やり抑え込むのはどうかと思う。まあ、師匠の意地と言うのもあるが。

 そう言えばクラ―ネルの見合いまであと数日だ。クラ―ネルはこの結婚をどう受け止めているのだろう?

「そう言えば、ドラゴンソードはどうなった?」

「ああ、あれはまだ研究中ですね。正直剣を作るのは初めてですし、魔道具と言っても武器としての性能が良く無ければ意味がありませんから。」

 あ、そうか、剣を作るのを先に教えないとイケないな。でも、錬金魔法の使えないクラ―ネルにどうやって剣を作らせよう?

 ふと思い出した。僕が錬金魔法を使える様になったのは、古龍に貰った指輪のおかげだったはず。

 右手の中指の指輪を見る。これって、今でも効果あるのかな?って言うか、僕はストレージがあるし、錬金魔法もマスターしているから、付けてる意味無いんじゃないかな?

 そう思って指輪を外してみた。特に変わった気はしない。試しに錬金魔法を使ってみる。拾った石が金属に変わる。速度も問題無いし、引っ掛かりも感じない。確か、この指輪って魔法の効率を10倍位上げているはずなんだが、外しても10分の1になった感じは無い。

 もしかして、意味が無い物をずっと付けていたのか?

「クラ―ネル。この指輪をやろう。」

「指輪ですか?えっと、結婚指輪に使うとか?」

「いや、魔法が上手くなる指輪だ。ついでに錬金魔法が使えるようになるらしい。」

「錬金魔法ですか?」

「知らないのか?無から有は作り出せないが、素材を違う素材に変換したり、魔法で剣を作る時等に使う魔法なのだが。」

「それは、古代の錬金術を魔法で再現すると言う事でしょうか?」

「錬金術は知っているんだな。なら説明が楽になる。」

 そう言って、錬金魔法について、少し詳しく説明する。

「そんな魔法があったんですね。この魔法があれば鍛冶の技術が無くても剣が作れると言う認識で大丈夫ですか?」

「そうなるな。イメージさえ出来るのならば、聖剣を作る事だって可能だ。」

「聖剣ですか?あれは神が創造した物では無いんですか?」

「神が創造した物を人間が作れないと何故決めつけるんだ?魔法はイメージだ。イメージ出来る物なら全て再現出来るぞ。」

「でも、僕は聖剣を見た事がありませんので、イメージ出来ませんよ?」

 あ、普通そうだよね?まあ、正式に弟子にしたら聖剣の1本位プレゼントするよ。

「ところで、クラ―ネルは鑑定魔法は使えるか?」

「はい。それはお婆さんに習いました。」

「なら、その指輪を鑑定してみろ。」

 そう言って、渡した指輪を指さした。クラ―ネルが、じっと指輪を見て魔法を発動している。

「万物創世の指輪ですか?」

「正解だ。まあ、騙されたと思って暫く付けていろ。」

 クラ―ネルが、左手の中指に指輪を通す。指輪はクラ―ネルの指に合わせて縮んだ。

「この指輪自体が魔道具なんですね。これもエイジさんが作ったんですか?」

「いや、貰い物だ。なんでも古代の魔道具らしいぞ。」

「それって、アーティファクトなんじゃ?」

「そこまでは判らん。知りたければ、お婆さんに聞いてみると良い。」

 さて、それから2日後、やって来た見合いの日。クラ―ネルには正装して来るように言ってある。

 時間は12時からだ。侯爵家ではセリーが仕切って、セッティングが行われている。僕は、軽食としてショートケーキとパウンドケーキをオーダーして置いた。パウンドケーキはお土産用として使うつもりだ。

 今日のお見合いは、婿入りなので、レンツェル家側の両親が来る。リドリル家はクラ―ネル一人だ。通常の見合いなら両家の両親が揃ったり、当人同士と言う事もありえる。

 クラ―ネルは既に10時には我が家に来ている。アリアナとセリーに貴族のお見合いについてみっちりと説明を受け、既にHPゲージがだいぶ減っている。それで大丈夫か?

 11時半を回った所で1台の馬車が、庭に入って来た。おそらくレンツェル家の馬車だろう。

 時間より早めに来たのは、ここが侯爵家だと言うのが大きい様だ。

 何時も使っている応接室が見合い会場になるので、第二応接室にレンツェル家の3人を通す。応対は僕がする。

「初めまして。エイジ・フォン・ゼルマキア侯爵です。」

「ご丁寧にどうも。マクガイヤー・フォン・レンツェル子爵です。」

 レンツェル家の当主はまだ40歳前の、スタイルの良いイケメンだ。娘のマリーカ嬢と同じ、青みがかった銀髪をしている。対する夫人は金髪で、思ったよりも質素な感じだ。失礼だが、この当主ならもっと美人の嫁さんでもおかしくない。なにか政治的な物が絡んでいるのかな?

「もうすぐ、見合いが始まりますが、事前に言って置きます。お相手のクラ―ネル君は少し特殊な見た目をしています。これはおそらく、書類にも記載されていたと思いますが、見た目では無く、その資質を見てやって下さい。」

「問題ありません。かなり優秀だとも書類には記載されていました。ゼルマキア侯爵が目をかけていると言う事は、将来性もあると見て宜しいのでしょう?」

 ほう?レンツェル家の当主は貧乏子爵とは思えない、知的な人柄らしい。でも、その才能がありながら、何で貧乏子爵に甘んじているんだ?

 確か、借金は無いと書類には書かれていた。国王派ならば上納金も無いはずだ。仕事は王城で役人をしているとの事、普通に暮らしていれば、貧乏になる事は無さそうなのだが?

「マリーカ嬢も納得の上と考えて宜しいのでしょうか?」

「はい、我がレンツェル家は跡取りに恵まれませんでした、その事で娘には苦労をさせています。娘のマリーカは、自由に結婚相手を選択できる立場に無い事を理解しています。しかし、その中でも最大限の選択肢を用意したつもりです。」

「マリーカさん、御父上の言葉は事実ですか?」

「はい、父に結婚を強制された事はありません。今回の話も自分で考え決めた事です。」

 見た目に反して強い言葉が帰って来た。意外に芯は強いのかもしれない。

 そのタイミングで、準備が出来たとメイドが呼びに来た。

「では、見合いを始めましょう。こちらへどうぞ。」

 いつもの応接室へ移動すると、セリーとクラ―ネルが待っていた。

 クラ―ネルは緊張でガチガチだ。

 皆が席に着くと、見合いの開始だ。

「では、見合いを始めます。まず、こちらが、マリーカ・フォン・レンツェルさん。」

 と、爵位の高い方から紹介する。続いてクラ―ネルを紹介する。ここ数週間でかなり鍛えたので、クラ―ネルもだいぶ逞しくなっている。だが、少年っぽさはどうしても否めない。

 レンツェル家の3人はクラ―ネルの見た目に、一瞬だけ驚き平静を装っていた。

 両家の紹介が終わると、メイドがケーキと紅茶を配る。初めて見るお菓子にマリーカ嬢とクラ―ネルが、驚いている。

「まずは、寛いで下さい。その後、各々質問などあれば、話し合って貰います。」

 結論から言うとこの見合いは形式上の物で、結婚は既に決定している。顔合わせの意味が強い。本来なら、この後、レンツェル家へクラ―ネルも一緒に帰るのだが、マリーカ嬢がまだ未成年なので、来月の成人を待って、クラ―ネルはレンツェル家に入る事になる。

 僕的に言えばレンツェル家はかなり得をしたと思うのだが、レンツェル家の当主はどう判断したのだろうか?

 まあ、数か月後には答えは出るのだが、クラ―ネルが歓迎されれば良いなと思わずには居られなかった。
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