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「セリー、相手の名前何だっけ?」

「マリーカ・フォン・レンツェル。レンツェル子爵の長女になります。」

 僕はどうも貴族の名前を覚えるのが苦手だ。その点セリーは記憶力が凄い。

「あれ?レンツェル子爵って今日のパーティーには来て無かった様な?」

「はい、レンツェル子爵は国王派の貴族ですので。」

 ああ、なるほど。セリーは、そっちも探してくれたわけだ。

「クラ―ネルはレンツェル子爵を知ってるか?」

「いえ、僕は次男なので貴族の事はあまり詳しくありませんので。」

「そうか?結構リドリル男爵家と近い場所にあるらしいぞ。」

「そうなんですか?では、もしかしたら、家を見れば解るかもしれませんね。」

 意外と貴族って近所付き合いが少ないのかな?まあ、派閥があるから、近所だからってだけでは仲良く出来ないのかもしれないな。現に僕の侯爵家の近隣も例の3侯爵の家や派閥だからな。

「まあ、家の事は置いておいて、そのマリーカ嬢と見合いをして貰う事になる。」

「えっと、侯爵の紹介で子爵家の令嬢と見合いですよね?それって絶対に断れない奴じゃないですか?」

「まあ、そう言う事だな。ついでに言うと、この見合いは決定した時点で結婚が確定する奴だ。」

「それは、僕にもマリーカ嬢にも拒否権が無いと言う事ですよね?」

「まあ、子爵が受けた時点で全てが決まったとも言えるな。クラ―ネル・フォン・レンツェル子爵が誕生する訳だ。」

「僕が子爵ですか?相手はそれで納得してるんですか?」

「納得しなければこの見合いはそもそも成立しない。決して圧力を掛けたりはしてないぞ。」

 今回の話はレンツェル家に最初に持って行った物では無い。セリーが各家に打診して、良い返事が返って来た物の中から選んだものだ。

 見合い話は貴族の間ではごく普通にやり取りされる物で、レンツェル家の様に跡継ぎが居ない家には特に多くの話が舞い込む。なのでレンツェル家が断っても何の不思議もない。

 ただ、今回の話を持って行ったのが公爵家の娘で、侯爵の嫁と言うのがちょっとばかり他の話とは違うって言うのがレンツェル家の当主の心を動かすだけの力になった可能性は無いとは言い切れない。

「結婚したらクラ―ネルには僕の派閥に入って貰うぞ。実質は国王派なんだけどね。」

「結婚は確定なんですよね?見合いする意味ってあるんですか?」

「物には順序ってのがある。まあ、そう言う形式を踏むのも貴族の役目だな。」

「ちなみに結婚したらすぐに貴族になれるんですか?」

「いや、レンツェル家の当主が引退するまでは正式な当主では無い。だが、実質当主扱いになるだろう。」

「えっと、どう言う事でしょう?」

「クラ―ネルが稼ぐからだな。見合いをすると、次は婚約だ。婚約期間は1年。その後結婚となる。結婚する頃には、クラ―ネルはかなり稼ぐ様になっているはずだ。そして、現在のレンツェル家はあまり裕福とは言えない。後は解るな?」

「僕がレンツェル家を支えるって事ですか?なるほど、そうなると、実質ってのはそう言う意味ですか。」

 賢い子は好きだよ。クラ―ネル君。

「クラ―ネルは貴族としての知識が足りない。暫くはレンツェル家の現当主に着いて学ぶ事だな。幸いマリーカ嬢も貴族学院に通っている。クラ―ネルの足りない部分を補ってくれるだろう。」

「ちなみにリドリル男爵家は男爵にしては裕福だと言われて居ます。年間白金貨10枚が国から支給されており、父と兄が白金貨20枚程稼いでいます。子爵になったら、どの位稼げば良いのでしょうか?」

 ほう?それは凄いな。貴族の半分以上が貧乏貴族と言われている中で、リドリル男爵家は子爵家以上の稼ぎを得ている事になる。

「おそらくレンツェル家はクラ―ネルの家より稼ぎが無いと思われる。まあ国から年間白金貨15枚が支給されるからトータルしたら同じ位かもしれないが、男爵家より子爵家の方が使用人の数も多い。使う金額はどっちが多いか解るな?まあ、借金が無いだけマシって所だ。」

「借金ですか、そう言えば、借金で貧乏な貴族が多いと言うのは聞いた事があります。」

「年に白金貨50枚だ。それだけ稼げれば伯爵になってもやって行ける。」

「白金貨50枚ですか?月計算だと4枚ちょっとですよね?あれ?その位なら一日で稼げませんか?」

 よしよし、良い加減にクラ―ネルの金銭感覚が狂って来てるな。

「言ったろう?冒険者は稼ぐって。その分稼げる期間が短いとも教えたはずだ。毎月白金貨5枚を家に入れて後は貯蓄しておけ。」

 おそらく今のクラ―ネルなら1人でも1日に白金貨5枚位は稼げるだろう。月に10日も働けば50枚だ。1か月で1年分の稼ぎになるだろう。そのペースで行けば、1年で12年分の稼ぎになる。

「冒険者は30代で引退する人が多いんですよね?その後は魔道具で稼げって事ですか?」

「まあ、そうだな。今から魔道具作りをやって居れば、冒険者を引退する頃にはベテランの魔道具職人になれるだろう。おそらく貯蓄もかなりの金額になっているはずだ。それを元手に魔道具屋を始めても良いし、例のお婆さんに弟子入りして、一人前になってから店を開いても良いだろう。」

「なんか、知らない内にどんどん僕の未来が決まって来ている気がするのですが?」

「いや、冒険者になるって決めたのはクラ―ネルだろう?それに魔道具職人になれとは言っていない。他にやりたい事があれば好きにして良いぞ。おそらくクラ―ネルが冒険者を引退する頃には一生遊んで暮らせるだけの貯蓄があるはずだ。」

 僕の予定ではクラ―ネルにはSランクを超える冒険者になって貰うつもりだ。そうなれば、稼ぐ金額も桁が変わって来る。

「好きな事ですか?そう言われると、僕にはやはり魔法しか無い気がします。」

「魔法使いにも色々なタイプがある。例えば、回復が得意ならそれを生かした職業で稼ぐ事も出来る。欠損が治せる回復魔法使いが、王都に何人いると思う?」

「そうですね。おそらく5人は居ないと思います。」

「だろうな。ならば、需要がそれだけあると言う事だ。やり方次第でかなり儲かるぞ。もっと上級の魔法を覚えたければ教えるぞ?」

 おそらく、この王都に欠損を治せる魔法使いは僕とクラ―ネルだけだろう。多分この件を知られたら、大勢の怪我人が押し寄せるだろう。注意をして置こうかとも思ったが止めて置いた。

 もしかしたら、あのお婆さんならエリクサーを何処かから引っ張って来る可能性もあるな。エリクサーって幾ら位で売れるんだろう?

「回復魔法で稼ぐと言う手段もあるんですね。魔法学院では魔法使い=魔法師団と言う教えだったので知りませんでした。もしかしたら、僕以外にも悩んでいる魔法使いが居るのかもしれませんね。」

「確かにそうだ。王都では優秀な魔法使いが不足している。だから優秀な魔法使いは魔法師団に持って行かれる。だが、実際は優秀な魔法使いを欲している所は色々とあるんだ。魔法学院はもっと多くの魔法使いをそれぞれの特性に合った場所に送り込むべきだと僕は思っている。」

「特性ですか?僕の特性って何でしょう?」

「特性と言うか個性だな。逆にクラ―ネルは何でも出来る魔法使いになれ。その素質がクラ―ネルにはあると思う。」

 クラ―ネルには他人に無い物がある。それは神の欠片だ。人よりも大きな神の欠片を持つクラ―ネルには魔法の才能がある。おそらく、それは僕にしか指導できない程の才能だ。

「何でも出来る魔法使いですか?それはエイジさんの様な魔法使いになれと言う事でしょうか?」

「まあ、身近にそう言うオールマイティーな魔法使いが居ないから、解り辛いとは思うが、何かに特化した魔法使いと言うのは意外と簡単になれる物なんだ。出来る事が増えてくればおのずと解って来るが、魔法は使い方次第で、まだまだ可能性が沢山残っている。そうだな、自分オリジナルの魔法が使える魔法使いになれれば、それが理想かもしれない。」

「自分オリジナルの魔法って、魔法を創るんですか?」

 ん?魔法学院って何を教えてるんだ?

「魔法はイメージだって教わらなかったか?イメージが違えば結果も変わる。と言う事は新しい魔法だってイメージ次第で作れるって事だ。」

「言われてみればそうですね。なんで気が付かなかったんだろう?」

 クラ―ネルが興奮している。そろそろ家に着くぞ。
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