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「どうなんだろうな?僕はどちらかと言うと貴族としてより冒険者として名前が通っているかもしれないな。」

「え?冒険者なんですか?」

 クラ―ネルが喰いついて来た。冒険者に興味があるのかな?

「君も冒険者に興味があるのかい?」

「はい、僕は次男なので家を継ぐ事は出来ません。出来るなら魔法で生計を立てて行きたいと思っています。」

「まあ、僕も魔法使いだが、剣も使う。そっちはどうなんだ?冒険者は体力勝負な部分があるぞ?」

「体力にはあまり自信がありません。剣も握った事は無いですね。」

「まあ、冒険者だけが、魔法使いの仕事とは限らない。例えば、この店で働くって言う手もある。」

 そう言ったらただでさえ大きい目を更に大きくして驚いた顔をする。

「あれ?君は魔法の付与は出来ないのか?」

「僕は魔法使いとしては器用な方では無いんですよ。」

 ああ、そう言えば初級魔法が苦手って言ってたな。

「なるほど、それで魔法陣に興味を持ったのか?」

「なんで、それを?」

「冒険者ギルドに魔法陣を仕掛けたのは君だろう?あれは何かの実験だったんじゃ無いか?」

「そこまで、知ってるんですか?」

「実験をするなとは言わないが、人の迷惑になるのは感心しないな。」

「済みません。でも、冒険者じゃないと効果が判らなかったもので。」

「で、魔法陣の実験は成功なのか?」

「いえ、あれはまだ実用的ではありませんね。」

 だろうな。魔法陣を大きくする意味はあまり無いと博士も言っていた。

「自分自身が強くなろうとは思わないのか?」

「僕、中級魔法も上級魔法も扱えるのに初級魔法が上手く使え無いんです。学院の試験では初級魔法の発動の速さや正確さを求められます。なので、僕は学院では劣等生なんですよね。」

「なるほど、それは不条理だな。」

「でしょ?僕も先生方に抗議したのですが、相手にされませんでした。このまま卒業しても魔法使いとしては最低ランクになってしまいます。」

「ふむ、実力主義の冒険者なら何とかなると思ったか?」

 クラ―ネルが我が意を得たりと大きく頷いた。どう見ても女の子なので、ドキッとする。

「その考えは甘いぞ。冒険者でも魔法使いは、初級魔法の繊細な運用を要求される。威力の大きな魔法より、小さな魔法を自在に操る魔法使いの方が需要が多い。」

「そうなんですか?では学院の評価は正当だと?」

「いや、今の魔法は遅れているんだ。だから、魔法学院に通っても自分の本当の力を引き出せずに終わる生徒が多い。君も恐らくその一人なのだろう。」

「僕の本当の力ですか?」

「ああ、君が初級魔法や細かい魔法を上手く使えないのには何か理由があるはずだ、それを魔法学院の指導者たちは見逃していると言う事になるな。そこを導くのが本来の教育者なんだがな。」

「それは、僕にもまだ可能性が残っていると受け取って良いのでしょうか?」

 僕はお婆さんが出してくれた高級なお茶を一口飲んでからその通りだ。とクラ―ネルに告げた。

「僕はどうしたら良いのでしょうか?」

「一つ提案がある。1か月間、僕の弟子にならないか?」

「弟子ですか?僕も冒険者になるのでしょうか?」

「まずは君がどの位の能力を持っているか確認したい。その後は冒険者になっても構わないし、魔道具の作り方を教えても良いぞ。」

 そう言うとクラ―ネルは少し考える素振りを見せる。なんと言うか男とは思えないな。小動物の様な動きをする。

「別に無理にとは言わないぞ。」

「いえ、是非お願いしたいです。ただ、そうなると暫く学院を休まないとイケないのかなと思いまして。」

「学院は楽しいか?」

「いいえ。正直きついです。」

「なら、休んでも良いんじゃなかな?どうしても休みたくないと言うのなら別の方法を考えるが?」

「いえ、教えを乞う立場なので、やはり僕の方があなたに合わせないとイケませんよね。大丈夫です。」

 ふむ、意外に常識的なんだな。冒険者ギルドに魔法陣を仕掛けるとか非常識な事を平気でやる癖に、こうして話をしてみると真面目だ。

「じゃあ、明日から始めよう。10時に西門で待ち合わせでどうだ?」

「僕は大丈夫です。」

 と言う事で1か月間だけの弟子を取る事になった。

「ちなみに、どんな魔法使いを目指しているんだ?やはり魔法師団とかに入りたいのかな?」

「別に魔法師団に拘ってはいませんが、僕には魔法しか無いんです。なので、魔法で生活をして行く術を持たないと野垂れ死にます。」

「それは、生計を立てられれば、どんな手段でも構わないと受け取って良いのかな?」

「そうですね。僕は貴族の子供として生まれ、何不自由なく過ごしてきました。ですので世間知らずです。正直、家から追い出されると聞いた時は絶望しました。」

「ふむ、では貴族になると言う事は考えなかったのか?」

「僕が貴族にですか?」

 クラ―ネルの顔が面白いようにクルクルと変わる。本当に男か?女子高生だと言われたら信じるぞ。

「跡取りの居ない貴族の家って意外に多いのは知ってるか?」

「僕に婿入りしろと?失礼ですが、僕の見た目をどう思いますか?」

 あら、意外とドストレートな質問が来たな。どうやら自分でも自覚はある様だ。

「正直、男には見えんな。」

「ですよね?そんな僕が、結婚できますかね?」

「ちなみに女性には興味があるんだろう?」

「一応、男ですので。」

「なら、問題無い。貴族の結婚とは、子孫を残すための手段だ。見た目がどうの以前に、家を存続する事に意味がある。それが優秀な魔法使いであれば、需要は当然あるに決まっている。」

 正直自分で言ってて不思議な感覚になる。この子が、女性と結婚すると言うビジュアルが浮かばない。

「貴族になる手段があるとは思って居なかったので、正直びっくりしています。でも、それには僕が優秀な魔法使いにならないとイケないんですよね?」

「そうだな。でも、僕は君が優秀な魔法使いになれると思っている。でなければ弟子にすると言う話はしない。」

 これは半分嘘だ。僕の力があれば、彼を無理やり貴族にする事も可能だが、それはあえて言わない。

「僕は魔法学院では劣等生ですよ?しかも初対面ですよね?何故、僕にそこまでしてくれるんですか?」

「理由は2つある。1つは、あの魔法陣だ。もう1つは、ここのお婆さんが君を気に入っていると言う事だな。」

「なんか、あまり理由になって居ない気がするんですが?」

「そうかな?まあ、実際に魔法を使ってみれば答えが出る。君が優秀でなければ僕の感が外れたって事だな。」

 そこに今まで黙って聞いていた、お婆さんが口を開いた。

「話はまとまった様じゃな。店を閉めるので、とっとと帰っておくれ。」

 少し長話をし過ぎた様だ。時間は5時を回っていた。

「続きは明日だな。実際に魔法を見てから、これからの事を考えよう。」

「解りました。よろしくお願い致します。」

 クラ―ネルが丁寧に頭を下げて、そう言った。

 その日は家に帰って、食後に早速『魔法の新解釈』と言う古代本を読みふけった。

 この本はどうやら、魔法改造の本らしい。今までの魔法を組み合わせたり、別のアプローチから発動する事で、本来の魔法の結果を違う物へと変化させる理論が書かれている。

 確かに新解釈の名の通りだ。これを翻訳して流したら、魔法界が変わるかもしれない。ある意味危険な本だ。僕が購入して正解だったかもしれない。

 もし、悪意のある誰かがこの本を利用したら、僕は対抗するのに手こずる事になって居た可能性が高い。

 この理論を知っているのと知らないのでは、魔法使いとしての次元が1桁変わって来るだろう。

 誰かで試したいと言う欲望が湧くが、下手をすれば、その魔法使いを闇落ちさせてしまう位の影響がありそうだ。

 ブラスマイヤーなら間違いなく、まだ早いと言うだろうな。

 あれ?そう言えば、ブラスマイヤーが言っていた厄介事って結局何だったんだ?
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