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 暫く貴族街を歩き、魔物の反応を見つけた。魔物は屋内に居る。間違いない反乱軍のリーダーだろう。

 僕とフローネル嬢は、地図と反応地点を見比べて場所を特定する。

「おそらく、この家だな。」

 僕が地図の上に指を落とす。

「えっと、ベルフォネット子爵邸と書いてありますね。」

「子爵か、宰相とかだと面白いんだがな。」

「あ、確か宰相も爵位は子爵だったと思いますよ。」

「ん?そうなの?って事はひょっとするとひょっとするかな?」

 まあ、おそらく宰相はそこまで馬鹿では無いだろう。自分の家に匿って居たら見つかった時に言い逃れが出来ないからな。

「こう言う時に王国の貴族について詳しい人物がいると助かるのですが。」

「そこまでは期待してないよ。僕らは悪霊を退治できれば良いんだ。貴族の問題は貴族同士に任せよう。」

「帝国としては王国の弱みを握るチャンスなんですけどね。」

「フローネルはもう皇室の人間では無いんだ。そこまで責任を感じる必要は無いだろう?」

「いえ、責任と言うより、お父様に貸しを作って置くのも良いかなと。」

 意外にしたたかだな、フローネル嬢って。

 しかし、見つけたは良いが、どうやっておびき出す?流石に屋敷の中では戦えない。使用人も居るだろうし、被害が大きくなるだけだ。

 最悪押し込んで反乱軍のリーダーを連れて転移で何処か戦える場所に行っても良いが、それは最終手段にしたい。

 どうしようかと思案している最中。目標が動いた。

 部屋で大人しくしていた目標が、2階から降り、1階で何やら人と接触している。そののち、裏口と思われる場所から外に出た。チャンス到来かな?

 フローネル嬢に手で合図して、目標を追う。

 この時間、外を歩いている人間はそう多くない。すぐに目標を目視で捉える事に成功する。

「奴がそうだ。顔は覚えたか?」

「大丈夫です。」

 さて、ここで騒ぎを起こせば、こっちが反乱軍として捕縛される危険性がある。

 連れ去るのは簡単だが、まだ、王都の地理を把握していない。森は不味い、森には魔物が居る。最悪追い出した悪霊が魔物に取り憑いて逃げるのは避けたい。

 ふと、思い出したのはハンターギルドだ。あそこの周りは結構な広さがある。戦える場所としてはベストでは無いが、ベターだろう。

「フローネル。ハンターギルドの場所は覚えているな?あそこへ飛ぶぞ。」

「ハンターギルドで戦うのですか?」

「下手な場所で戦うと怪我人が出る。ハンターギルドなら一般人はあまり居ないだろう。」

「ここでも構わないのでは無いですか?ここも今の時間は人気が少ないですよ?」

「奴の強さはBランク相当だ。それに、反乱軍の仲間が近くにいる可能性もある。」

 僕は瞬動で奴に近づき、肩を掴んでハンターギルドの前に転移する。

「なんだ?ここは?いったい何が?」

 反乱軍のリーダーが動揺している。

「悪霊を退治しに来たと言えば解るか?」

 僕がそう言うと、初めて気が付いた様にこちらを向いた。

「お前は何者だ?」

「ん?そう問われると答えが難しいな。」

「ふざけるなよ。」

 あら、怒っちゃいました?

 遅れてフローネル嬢が転移して来た。

 2人で奴を挟む様に囲い逃がさないようにする。

「僕が用があるのは悪霊だけだ、大人しくしていてくれると助かるのだが。」

「知られた以上、お前らは殺す。周りの奴らも殺す。」

 周りの奴等って言っても、2~3人しか人は居ないぞ?

 まあ、こいつを殺してもあまり意味は無い。むしろ殺さずに悪霊だけを倒した方が後で色々と面白そうだ。

 僕は掌に巨大なファイヤーボールを作って見せた。

 反乱軍のリーダーは1歩後ずさった。

「フローネル。悪霊が現れたら、魔法障壁で抑え込め。逃がすなよ。」

 僕はファイヤーボールを反乱軍のリーダーに向かい飛ばした。

 すると、反乱軍のリーダーは手で顔を防御するしぐさをする。そして、その体から黒い物が滲み出て来る。当たる前に逃げると言うのは計算済みだ。

 ファイヤーボールが当たる直前に、奴の体から黒い物がぬるりと頭上に飛び出た、そして、逃亡しようとする。僕はファイヤーボールをキャンセルし、霧散させると同時に、魔法障壁で悪霊を囲う。

 フローネル嬢の魔法衝撃もほぼ同時に悪霊を捉える。僕は更に万全を期し、物理障壁も発動する。

 そして、障壁内でファイヤーストームを発動して、悪霊を焼き尽くした。

「これで、終わりかな?」

「どうでしょうか?なんか思っていたより悪霊が小さかった気がするのですが。」

 ふむ、言われてみればそうだな。ヒュドラの時の悪霊はもっと大きかった気がする。

 取り憑く物に寄ってサイズが変わるのだろうか?

 そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけてハンターたちが集まって来る。

「どうした?何があったんだ?」

 なんか職員らしき人まで出て来た。

「こいつが今巷を騒がせている反乱軍のリーダーです。捕縛して役人に突き出して下さい。」

 僕は、腰を抜かして茫然としている反乱軍のリーダーを指さしてそう言った。

 一際騒ぎが大きくなったので、その隙を突いて、フローネル嬢を連れてその場を去る。

 なんか、呆気なく終わったな。もし、悪霊が分裂していたとしても、コントロールする本体の方が死んだので、片方は自然淘汰される可能性も高い。

 それに、もう片方はクーデターに協力する頭脳は無いはずだ。

 さあ、王都でやる事はこれで終わりだ、家に帰ろう。この後どうなるかは判らないが、僕らが関与する事では無いだろう。

 フローネル嬢と一緒に帝国の伯爵家に帰る。

「思ったより早く終わったな。予定では10日のはずだったんだが、半分で済んじゃった。」

「悪い事では無いと思いますよ。明日にでも私は父に知らせてきますね。」

「僕はせっかくだから、残りの時間は休んでいようと思う。」

「宿屋のベッドは固かったですからね。」

 と、つかの間の平和を楽しむのであった。

 え?なんでつかの間かって?それは、この後大変な事に巻き込まれるからに決まってるじゃ無いですか。

 それは、3日後に訪れた。

 この大陸を定期的に飛ぶ古龍。それが帝都の真上で旋回している。古龍が帝都を襲う筈は無い。これは多分、僕に何か用事があるって事だろう。

 フライで古龍の元まで飛んで行くと、古龍が人気のない場所まで飛んで行くので追いかけた。

 ふっと、古龍の姿が人間の姿に変わり、真下に落下していく。僕も自由落下に身を任せて、10秒程。古龍が地上に降りたのを確認して、同じ場所に転移する。

「どうした?何があったんだ?」

「お主、ベヒモスを倒しただろう?」

「ああ、倒したけど、不味かったか?」

「あ奴はな、この大陸の主だ。」

 え?主?もしかしたら倒しちゃいけない奴だったのか?

「えーと、主が倒れるとどうなるんだ?」

「新しい主の候補が現れる。」

「それって、問題なのか?」

「1匹なら問題無い。だが複数現れると困った事になるぞ。」

「どうなるんだ?」

「この大陸を支配する為の戦いが始まる。」

 それって、怪獣大決戦みたいなのが起こるって事かな?

「ちなみに主ってのは何か条件があるのか?」

「条件と言うのは特に無いが、主と言うのはその大陸の魔物を統治する。そして、増えすぎた時などは個体数をコントロールしたりもする。なので、ある程度の強さと知能が必要だ。」

「あんたがやれば良いんじゃないか?」

 古龍ならば力も頭脳も申し分ない。我ながら良いアイデアだと思う。

「いや、我はここにずっと住む気は無い。ある程度の期間が過ぎたら次の大陸に行こうと考えている。」

 あ、そう言えばそんな事言ってたな。

「主って言うのはどの位の期間、この大陸を統治するもんなんだ?」

「まあ、種族によって多少のバラツキはあるが、大抵は数千年単位で統治する。この統治が上手く行かないと大陸が滅んだり、人間が滅んだりと色々な事が起こる。」

「人間が滅ぶのは困るな。じゃあ、ベヒモスは上手く統治できていたと言う事なのかな?」

「まあ、あ奴は知能があまり高くは無いが、それなりに上手くやっていたんじゃないかな?今度来る主がバハムートとかだったら大変だぞ。」

「ん?バハムート?」

「知らんか?見た目はドラゴンに似ているが非常に獰猛な魔物だ。奴が統治する大陸には人間は住めないと言われている。」

 あー、やっぱりベヒモスは倒しちゃ駄目な奴だったんだ。
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