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 屋敷に着き、風呂に入って夕食を取る。今日はリアンの日なので、食後に応接室で、もう少しフローネル嬢と打ち合わせをする。

 地図をテーブルの上に広げて、改めてみると。帝都は帝国の北にある。そして、王都は王国の南東だ。

「帝都と王都ってこうみると意外に近いんだな。」

「そうですね、王国は北の方へ行くと雪が降りますので、どうしても南側に人が多く集まります。」

「帝国はどうして、帝都を北に持って来たんだ?」

「これは、帝国だけの理由になりますが、昔から貴族は北、庶民は南と言われて居ます。いわゆる風習みたいな物だと思うのですが、それが帝都の位置にも現れているのだと思います。」

 なるほど、実を取った王国とプライドを取った帝国か、それが国柄にも表れているのだろうか?

 まあ、実際に行って見れば解るだろうが、国王が馬鹿でも成り立っているのは有能な家臣が居るのだろうな。

 翌日は『鈍色の刃』と拠点で合流する。今日は狩りに出る日らしい。今日は南に向かうそうだ。

 道すがら、明日から10日程休ませてくれと皆に言う。

「10日とは長いな。帰省でもするのか?」

 レモーネに聞かれた。

「まあ、そんなもんだな。うちの田舎は帝都から4日は掛かるからな。」

「なんと言うか、エイジは帝都の人間だと思って居たよ。」

「いやいや、南から来たんだよ、たまたま帝都で冒険者登録しただけで、帝都の人間って訳じゃない。」

 間違った事言って無いよね?

「解った。帰省するなら、別に止める気は無い。」

 僕はレモーネにマジックバッグを渡した。

「僕が居ない間はこれが必要になるでしょ?あ、自作なので返さなくても良いですよ。お金は掛かって居ません。」

 レモーネは、自作と言う言葉に驚いていた。アデルはお見合いですか?と意味不明な事を聞いて来た。

 狩りを終え、自宅に帰る。夕食の時間にリアンに明日から暫く留守にする事を告げる。

「長くて10日だな。場合に寄っては途中で一旦帰る可能性もある。」

「フローネル様も連れて行かれるのですか?」

「ああ、国の仕事なんでな。」

「危なくありませんか?」

「こう見えてもフローネルは帝国騎士団よりも強いんだぞ。」

 そう言ったらリアンが目を丸くしていた。

 あ、そう言えば、フローネルに王国のお金を入手する様に頼んで置いたのだが、首尾はどうだったのだろう?

「フローネル。商業ギルドはどうだった?」

「無事換金出来ましたよ。白金貨1枚分換金したのですが、金貨2枚も手数料を取られましたけどね。」

 換金手数料が2%って思ったより安いんじゃないかな?そう思うのは僕だけ?

 まあ、この世界、銀行のシステムが無いからなぁ。ハンターギルドも商業ギルドもお金についてはサービスみたいな部分があるからね。

 商業ギルドが投資をしてるって聞いた事無いし。融資も行って居ない。金貸しと言う職業があるから、借金=金貸しなんだよね。多分、商業ギルドが金貸し業務を行うと困る貴族がかなりの数居るんじゃないかと推測される。

 フローネルから王国金貨100枚を受け取った。麻袋に入っているのだが、ずしりと重い。
 
 開けてみると帝国の金貨より一回り小さいがその分厚みのある金貨が出て来た。ほう?これが、王国の通貨か。まあ、ストレージを使えば出す事も可能なのだが、それをすると、フローネル嬢に説明するのがややこしくなる。

「これで、準備は出来たな。明日の朝には出発するので、フローネルは準備をして置くように。」

 ちなみに、帝都の北門から王都の南門までは直線距離で120キロしか離れて居ない。自動車なら2時間の距離だ。馬車でも、休みを入れて10時間程度で着く距離だ。

 だが、僕もフローネル嬢も王都には行った事が無い。なので転移は使えない。そこで、僕がフライで飛んで場所を確認してから、転移を使ってフローネルを運ぶと言う手はずになっている。

 夕食後フローネル嬢は自分の部屋で何やらどたばたとやっていた。早く寝ろよ。

 翌朝、フローネルが騎士の姿で現れたので、着替えさせた。とりあえず平服を着させて、その上から軽い皮鎧を装備させて、ハンターらしく仕上げる。

「大丈夫か?きつくはないか?」

「大丈夫です。騎士の格好に比べれば楽ですね。」

「じゃあ、ちょっと王都を偵察してくる。少し部屋で待っていてくれ。」

「解りました。気を付けて。」

 僕はこの間ヒュドラと戦った場所に転移する。そこからフライで王都を目指す。最近は古龍が飛ぶので空への監視も厳しい、なので若干高めの場所を飛ぶ。

 街道を目印に北に向かうと意外にも人通りが多い事に気が付く。どうやら交易は盛んな様だ。

 暫く飛んでいると、門が見えた。恐らく王都の南門だろう。国境から王都までの間に町は無い。村らしき集落が幾つかあった程度だ。なるほど、王都の南側から帝都の北側までの100キロは魔物にとっては住みやすそうだ。Sランクの魔物が居てもおかしくない。

 門番に見つからない様に王都の真上まで飛んで、適当な降りられそうな場所を探す。低空飛行をするとみつかりそうなので、遠見の魔法が役に立つ。

 人気の少ない路地を見つけて、そこに転移した。

 なんだろう?王都って独特の匂いがするな。もしかして、これって醤油か味噌では?

 屋台が多く出ている場所を発見する。間違いないこれは醤油の匂いだ。向こうで溜まり醤油と味噌の合いの子みたいな調味料は見つけたが、醤油はまだ見つけて居ない。これは是非持って帰りたい。

 とりあえず、串焼き屋の屋台を覗いてみる。明かに醤油の焦げる香ばしい匂いがする。

「2本貰えるか?」

「銅貨4枚になります。」

 あ、金貨しか持ってないや、屋台で金貨は使えないよな。しょうがないのでストレージから銅貨を4枚出して、渡す。

 食べると焼き鳥の様な味がする。何の肉かは考えない様にしよう。しかし、甘みがあるが、砂糖の甘みでは無い。これはもしかしたら、みりん?

 と、興奮している場合じゃ無いな、フローネル嬢を迎えに行かなければ。

 一旦帝国に戻り、フローネル嬢を連れて、王国へ転移する。

「なにやら、変わった匂いがしますね。」

 お?やっぱり気付くよね。

「王国と帝国の食文化の違いが匂いに表れているんだよ。暫くこっちで暮らしてから帝国に帰ると、帝国の匂いが判るよ。」

「へぇ、そう言う物なんですか?」

 まあ、フローネル嬢は帝国を出た事が無いって言ってたからな。かくいう僕も前世では海外旅行とかした事無かったし。

「とりあえず、宿を取ろう。拠点が無いと動きづらい。」

「解りました。でも、どうやって決めるんですか?」

「まず、ハンターギルドの場所を確認する。そこから近い場所で飯の美味い宿を探すのがハンターのやり方だ。覚えなくても良い知識だが、飯が不味いのは嫌だろう?」

「確かにそうですね。」

 僕らは屋台のおじさんに声を掛け、ハンターギルドの場所を教えて貰った。

 ハンターギルドは王都の東に位置する。これは王城がほぼ中央に位置するので、相対的な位置関係で西に貴族街、東に商業施設が連なる形になっている。南は農村地帯。北は貧民街となっている様だ。あくまでもざっと表現するとだが。

 ハンターギルドに向かい歩いて行くと、少しずつハンターらしき人達とすれ違うようになる。

 適当にベテランっぽいハンターを見つけて声を掛けてみる。

「済みません。地方から来たんですが、安くて飯の美味い宿屋ってありますか?」

「それなら、子熊亭がお勧めだな。ちょっとばかし古いが飯が美味いのは保証するよ。この道を15分程歩いた右っ側にあるぞ。」

「子熊亭ですね。ありがとうございます。」

 子熊亭ってなんか、随分まともな名前だな。

 15分程歩くとそれらしき建物が見えて来た。なんか鈍色の刃の拠点に似ている。こう言う店は食事が美味いんだよね。

 中に入ると幼女が出迎えてくれる。宿屋ってのは幼女率が高いのか?

「2人で一部屋食事付きだと1泊幾らになる?」

「食事が2食付いて銀貨2枚です。」

 僕は金貨を1枚取り出して、これで5泊頼むと言った。

 金貨を見た幼女は満面の笑みを浮かべていた。

 宿帳に名前を書いて、部屋に案内して貰う。宿屋はどこも大抵同じ作りだ。1階が食堂と受付になっていて、2階に部屋がある。

 部屋を確保したら次はハンターギルドだ。
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