上 下
190 / 308

190

しおりを挟む
「何を言ってるのミリア。エイジさんはSランクでも最強と言われているのよ。ハンターギルドが手放すわけないじゃない。」

 アデルが援護射撃をしてくれる。

「なるほど、アデルの方は彼に気がある訳だ。」

 その言葉にアデルは真っ赤になり撃沈した。戦力外早っ。

「そもそも何でそう言う話になるんだ?」

「だって、協力してくれるって言ったじゃない。協力を提示されて私が受ければそれは契約でしょ?どうせ契約するならより強固な結婚の方が確実じゃ無い?途中で逃げられても困るし。」

 どう言う理論だ?って言うか、この世界で結婚は死ぬまで解除できない呪いの様な物だぞ、解って居るのか?

「別に結婚しなくても、と言うか契約をしなくても、協力はするぞ?」

「この南エリアでは口約束は信用されないのよ。」

 なるほど、ようやく理解した。この貧民街では口約束より契約を重視している訳だ。お金が無いから、余計にそう言った事に敏感なんだろう。騙されない為の知恵って奴かな。

 逆にハンターと言うのはお金より信用を重視する職業だ、そんな事情が産んだ齟齬と言う奴かな?

 ミリアはハンターを止めて半年も経っていないのに、すっかり南エリアに染まっている様だ。余程深く関わっているのだろう。

「どうすれば信用してくれるんだ?」

「だから、結婚。」

「それは駄目!」

 お、アデル復活。

「ところで、何でここにはこんなに怪我人や病人が多いんだ?」

「北の王国からの亡命者だ。ここ最近増えている。」

 北の王国からの?何が起こっているんだ?

「どう言う理由で亡命して来るんだ?」

「なんでも、ここ最近小規模な内戦が頻発しているらしい。」

「ここ最近の話なのか?」

「正確には3か月ほど前からだな。反乱軍とやらが暴れているそうだ。」

 ほう?レジスタンスか、王国も物騒だな。

「その情報が知れ渡ったら戦争が起きるんじゃないか?」

「可能性はある。だから反乱軍も大規模な戦闘はしないらしい。」

 これはフローネル嬢に報告して、皇帝に伝えて置いた方が良さそうだ。

「これから、患者が押し寄せて来るんだろ?その患者全部完治させてやる。それで納得してくれないか?」

「けが人や病人は北の王国の者だけではない。これからもここにはたくさんの患者が集まって来る。出来れば定期的あるいは常駐して欲しい。」

 常駐は無理だ、かと言って定期的に来るのもなかなか難しい話だ。

「困ったな。不定期なら来れるんだが、定期的と言うのは難しいな。」

「私としては、あなたの様な有能な人材は是非とも確保しておきたい。その為ならこの体を差し出しても構わない。」

「でも、だからって結婚はやり過ぎだと思います。」

 ここでアデルが割って入った。

「私達のパーティーにもエイジさんは必要な人です。ミリアに渡す訳には行きません。体なら私だって差し出しますよ。」

 いや、張り合う場所が違う様な気がするのだが。

「別に体とか求めて無いから。こうやって知り合いになった縁を大事にした方が良いと思うぞ。」

「この南エリアでは、そう言う甘い考えでは生きて行けない。どうしても欲しい物があれば、お金を出すか、それに代わる代償を払わねばならない。私が差し出せるのはこの体だけだ。それで手に入らないのなら諦めるしかなくなる。」

「それは、この南エリアのルールですよね?僕らはハンターですので南エリアのルールは通用しません。僕もアデルも貴方を元ハンターのミリアとして見て居ます。思い出して下さい。ハンターだった頃の自分を。」

「口約束を信じろと?」

「アデルはあなたの眼を治すために必死であなたを探し、僕をここまで連れて来ましたよ。南エリアのルールではどうなるんでしょうか?」

「そうだな。アデルには返しきれない恩を受けた。私はこれに対して何か返さねばならないだろう。」

「だったら、エイジさんを信じて、エイジさんの言う通りにして下さい。」

 アデルがそう畳み掛ける。

「ふむ、それでアデルが納得するなら、そうしよう。」

 どうやら、何とか形になった様だ。

「具体的には、まず、今日来る患者を完全に治し、ミリアさんの時間を作りましょう。時間が出来たら上級の回復魔法を覚えて貰います。」

「なんか、私に都合が良すぎないか?」

「アデルは君に怪我を負わせた事に責任を感じているんだ。その重荷を解き放つには、こうするのが、一番だと判断した結果だ。」

 納得したのかどうかは解らないが、とりあえず提案は受け入れられた。

 午後になると朝同様、治療院の外に人だかりが出来る。

 治療院を開ける頃には50人近い患者が集まっていた。本来ならここで治療院を開き、治療が始まるのだが、今日は僕が治療院から外に出て、皆にエリアハイヒールを掛ける。

 今まではミリアがヒールで痛みを和らげるだけだった患者の傷や怪我が一瞬で治る。病気も深刻な物でなければ治るはずだ。

 集まった患者たちは自分に何が起こったか理解するのに時間が掛かった様で、数秒の間があってから、騒ぎ出す。

 まあ、これで治らない患者は後で個人的に診る事にしよう。

「次は何時に集まるんだ?」

「次の診療時間は夕方4時だ。それまでに急患が入る場合もある。」

「なるほど、急患が入る事もあるのか、そうなると魔法の練習場所を考えないと行けないな。」

「回復魔法だけなら、室内でも練習出来るのではないか?」

「まあ、通常の回復魔法なら室内でも構わないが、広範囲の回復魔法は室内で練習するのはどうかと思うぞ。」

「治療院で広範囲回復魔法は普通使わないだろう?」

「使わないのと使えないのでは色々と差が出る物だ。魔法使いなら解るだろう?」

「だが、治療院を留守にする訳には行かない。初めは普通の回復魔法から頼む。」

「解った。最初は理論だけにしよう。実際に使うのは後日だな。」

 明日は狩りに出る予定なので、明後日になるだろうと伝えて置く。

 4時まで、上級の回復魔法の理論を教えて行く。基本の回復魔法が使えるので、それ程難しくないはずだ。

 2度ほど急患が来たが、どちらもヒールで対処出来る物だった。

 アデルにもついでに回復魔法を覚えて貰おうと思う。僕が抜けたら、回復役が居なくなるからね。

 4時になると、また患者が集まって来る。これもエリアハイヒールで対処し、その日は帰る事にする。

 家に帰り、フローネル嬢に北の王国の情勢を伝える。これで、皇帝にも話が届くだろう。戦争にならない様に共和国の動向に注意してくれるはずだ。

 さて、実は、フローネル嬢には、大森林の先に国があると言う事をまだ話していない。本来なら話さなければイケないのだろうが、現在のフローネル嬢の力があれば大森林を超えて王国に行く事は不可能では無い。

 現状でフローネル嬢に王国へ行かれると色々と不味い事がある。僕が2重生活をしている事を話さないとこの話は出来ない。

 話すべきか話さないべきか悩むことろだ。

 リアンには口止めしてあるが、リアンは権力に弱いのでいずれバレるのではないかと不安だ。早めに話した方が良いのだろうか?

 翌日は狩りに出る。ミリアの件で時間が取れないので、実戦でアデルを鍛える事にする。まあ、ミリアが回復魔法を習得するまでなので、そう長い時間は掛からないと思うが、1か月位はこんな感じになるだろう。

 レモーネとバレッタは、自信が付いたのか戦い方を覚えたのかは判らないが、以前とは別人の様に強くなった。なんとなく、僕の剣術に似ている気もするが、以前戦ったSランカーと比べても、遜色が無い程度になって居る。現状でSランク試験を受けても受かるだろう。

 そう言えば僕に負けたSランクハンター、あれからどうなったんだろう?

 ハンターの世界では、勝った負けたがかなり重要なのだと、マルコスの一件で思い知らされた。僕は気にして居ないのだが、僕を倒そうと虎視眈々と狙っているSランクハンターが何人か居るとギルマスが言っていた。

 今の所、勝負を挑まれた事は無いが、いずれ、そう言った輩が出て来るだろう。

 まあ、最強には拘らないが、負けてやるつもりは無い。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...