上 下
189 / 308

189

しおりを挟む
「なら、私。探して来ます。」

 アデルが勢い込んでそう言った。

「でも、居場所は解らないんじゃなかったのか?」

「私は斥候ですよ。情報収集は得意なんです。今日中にある程度の居場所は特定して見せますよ。」

 そう言って駆けて行った。まあ、まだ時間は3時前だ。アデルの能力なら3時間もあれば本当に見つけて来るかもしれない。

 明日には何らかの報告があるだろう。僕は家に帰る事にした。

 翌日、本当にアデルはミリアの居場所を見つけて来たと報告して来た。

「本当にミリアの眼を治せるんですよね?」

「ああ、それは大丈夫だ。」

「では、一緒に来て下さい。」

 僕はアデルに連れられて拠点の食堂を後にした。

「何処に向かうんだ?」

「南エリアです。」

 帝都の南は農村地帯だが、その手前にある南エリアと言うのは貧民街の事だ。

「南エリア?目をやられたと言っても片目だろう?魔法使いなら片目でもそれなりの仕事があると思うが?」

「なんでも治療院を開いて、南エリアの住民の治療をしているそうです。」

 ほう?ハンターを引退後に回復魔法を覚えたのか?しかも貧民街で治療院とは、はたから聞けば美談だな。

 僕とアデルは南エリアに向かいながらミリアの現状を話して置く。

「一つ気になるのだが、ミリアはメンバーを恨んでいないのか?」

「それは、判りません。状況的には回避できない物でしたが、私に責任が無いとも言えません。レモーネやバレッタはともかく、私は恨まれて居るかもしれませんね。」

「会いに行って大丈夫か?」

 アデルのメンタルを心配したのだが。

「私は恨まれても構いません。実際、あの時私がちゃんと気配を感じて居れば避けられた事故ですから。それにミリアの眼が治るのなら、何を言われても大丈夫です。」

「意外に芯は強いんだな。」

 南エリアが近づくと建っている家の様子がだんだんと変わって来る。みすぼらしい家や壊れかけた家、長屋等が増えて来る。

「北エリアとは天地の差だな。」

 北エリアとは貴族街の事だ。

「この南エリアには、病気や怪我で働けない人が多く住んでいますからね。」

 アデルが、憐れむような声で言った。

「ここで、治療院を開いても、大して儲からないだろうな。」

「そうですね。多分、自分と同じ境遇の人を放っておけなかったのではないかと思います。」

 暫く歩いていると、人だかりが見えた。何事かと思ったら。どうやら目的地らしい。

「あれが、ミリアの治療院ですね。」

「ほう?かなりの人が押しかけているが、あまり金を持っている様には見えんな。」

 繁盛している様だが、金を貰っているのかどうか疑わしい。

「この人の多さではミリアに会うのは難しそうですね。」

「出直すか?」

「少し待ちましょう。」

「何なら手伝うか?」

「手伝うと言っても皆が何の治療に来ているのか判りませんよ?」

 えーと、冗談なので突っ込んで欲しかったのだが。

「中を覗いてみればどんな治療をしているのか判るんじゃないか?」

「治療を覗くと言うのは倫理的にどうなのでしょうか?」

 あれ?意外にアデルって常識人?

 そんな話をしていると徐々に人が少なくなって来た。これならあと15分も待てば列が消化されそうだ。恐らく回復魔法を掛けるだけの治療なのだろう。

「しかし、時間を潰そうにも、店とか無さそうだな。」

「そうですね。この地域はお金を持っている人は近づかないですからね。」

 仕方が無いので大人しく治療院の外で待っている。

 およそ20分程で人の出入りが途絶えた。このタイミングを逃すと、また人が来てしまうだろう。

「行くぞ。良いか?」

「行きましょう。」

 思い切って治療院に足を踏み入れる。

 治療院には待合室等は無く、入るとすぐそこにミリアらしき女性が居た。右目に眼帯をしている。

 アデルがその姿を見てはっとする。と、同時にミリアもアデルを見てはっとする。

「何しに来たの?私の姿を笑いに来たの?」

 そう言ったミリアの声は震えていた。

「違う。あなたに用があって来ました。」

 あら?なんか雰囲気が悪いな。

「悪いな。僕があなたに会いたくてアデルに無理を言って連れて来て貰ったんだ。」

 そう僕が言うと、ミリアは初めて僕の存在に気が付いた様だ。

「あなたは一体?」

「『鈍色の刃』の新しいメンバーだ。今日はあなたの眼を治しに来ました。」

「私の眼を?冗談はやめて。」

「冗談ではありませんよ。こう見えてもSランクの魔法使いです。」

 Sランクと聞いて一瞬だけミリアの眼に希望の光が見えた。

「眼を治す前に話を聞かせて貰っても良いですか?」

「何を聞きたいの?」

「まず、何故ハンターを引退したのですか?隻眼のハンターは珍しくありません。辞めたのは目のせいではありませんよね?」

 これは事実だ。長くハンターをやって居れば、怪我を負う事は珍しくない。中には隻腕の戦士も居る。

「私は、あの一件以来、魔物に対する恐怖心が拭えないのです。魔物を見るだけで体が硬直して動けなくなります。」

 やはりメンタル面の問題か、現代風に言えばPTSDだな。

「それでも、魔法使いとしては普通にやって行けたのでは無いですか?わざわざ、ここに治療院を開いたのは何故でしょう?」

「それは、ここが私の故郷の村に似て居たからです。私が生まれた村は非常に貧しい村でしたが、皆、良い人ばかりでした。」

 なるほど、彼女はここに安心感を求めて依存している訳だ。

「ちなみに、この治療院ではどんな治療をしているんですか?」

「私は、ハンターを引退した後、少しの蓄えで回復魔法を会得しました。ヒールと状態異常回復の2つです。」

 2つとも初級の魔法だな。それだけでは、ここ以外では治療院は難しいだろう。帝国は医学が進んでいる。魔法に頼る治療院は最低でもハイヒールを求められる。

「上級の回復魔法を覚える気は無いか?なんなら教えるぞ?」

「いや、悪いが時間が無い。この治療院には1日に3回ピークがある。今は一回目が終わった所だ。またお昼を過ぎれば人が押し寄せる。」

 なるほど、3部制にして患者を捌いている訳か、確かに一気に押し寄せられたら休む暇も無い。

「じゃあ、お昼になる前に君の治療を終わらせよう。眼を見せて貰って良いか?」

「構わない。恥じ入る物でも無いしな。」

 僕はミリアの右目にパーフェクトヒールを掛ける。欠損をも再生させる最上位のヒールだ。

「眼が、熱い。」

「大丈夫だ。すぐに収まる。」

 ミリアの眼が再生した。僕とアデルは確認している。だが、当の本人はまだ、動転している様だ。

「ミリア、君の眼はもう見えるはずだ。ゆっくりで良いから確認してみてくれ。」

「眼が、私の眼が。本当に、治るなんて。」

「眼が治った今でも、ハンターに戻る気にはならないか?」

「済まないが、私は私の生きがいを見つけた。ハンターに戻る気は無い。」

「それは、本当に生きがいなのか?ただ逃げているだけでは無いと言い切れるか?」

 ミリアはその言葉に動揺する。

 毎年、帝都だけでも1000人近い新人がハンター登録をする。だが、それと同じ位の数のハンターが辞めて行く。けがや病気、年齢もあるだろうが、一番多い理由はハンターに限界を感じると言う物だ。

 ハンターは資格が要らない上に登録すれば誰でもなれる。だが、続けて行くのには努力と気力が必須だ。挫折して辞めて行くハンターは想像以上に多い。

「別に君を虐めるつもりは無い。ただ、ハンターに戻ると言う道もあると言う事を提示しただけだ。それと、アデルに責任は無い。その事は解って欲しい。」

「アデルに責任が無い事は解って居る。誰も恨むつもりは無い。」

「そうか?なら、後は自分の人生だ、自分で決めてくれ。ハンターに戻りたいなら協力するし、上級の回復魔法を覚えたいなら教える。」

「優しいのだな。アデルに惚れているのか?」

「いや、そう言うのとは違う。」

 あれ?なんでアデルががっかりした顔してんの?

「なら、私と結婚して、ここで一緒に治療院をやらないか?あなたの力があれば、救える人は大勢いる。」

 いや、ちょっと待て、何言ってるの?って言うか、ミリアさんってこう言う人なの?

 横を見たらアデルが固まっていた。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...