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 家に帰り、じっくりと作戦を考えるが、なかなか妙案が浮かばない。こう言う時にブラスマイヤーが居れば相談しながら考える事が出来るのだが、今は居ない。

 1人で1万人を相手に戦う。言うのは簡単だが、セッティングするのは難しい。現実的では無い。だいたい1万人の軍が1人を相手に戦う状況って、普通ではありえないだろう。

 さて、どうしたもんか。幾つか頭にアイデアは浮かぶが、どれも人は死なないが周りに被害が出る。フローネル嬢はそう言った被害の事は考えて居ないんだろうな。

 こうなったら、皇帝陛下にも作戦に参加して貰うかな?初めから無茶な作戦だし、この際無茶が1つ位増えても問題が無い気がする。

 皇帝と皇女、2人が芝居を上手く演じてくれれば、成功する作戦が1つだけある。

 駄目元で皇帝に会ってみるか。

 翌日、闘技場でフローネル嬢と合流し、皇帝陛下に会う事は出来ないか相談してみた。どうやら陛下は娘に甘い様で、彼女が頼めば会う事位は可能だそうだ。

「では、セッティングの方お願いしますね。今日は1万人を無力化する魔法を教えますので、覚えて下さい。難しい魔法では無いので理論さえ覚えれば、後は徐々に効果範囲を広げて行くだけです。」

 流石に、ここ数か月の訓練の賜物と言うか、1発で魔法を発動する事に成功した。ただ、現状では1000~2000人が良い所だろう。威力は十分なので効果範囲をどれだけ広げられるかの勝負になる。

 使う魔法はライトニングレインだ。彼女の現在の力ならば、相手を殺してしまう程の威力は出ないだろう。更に効果範囲を広げるので1人1人に与える効果は、数十秒程度の麻痺と言った所だろう。

 一見、意味が無い様に思える魔法だが。戦場で数十秒動けないと言うのは致命的な結果をもたらす。

 まあ、1日でマスターするとは思っていない。5日でマスターすれば良い方だろう。下手をすればもっとかかる。

 実際の現場では1万人全員を麻痺させられなくても8割動けなくさせれば成功だと考えている。これが本当の戦争なら半分でも足止め出来れば勝てる。

 後は皇太子の判断に掛かって来る。余程の馬鹿でなければ、それがどれ程の戦力なのか理解するはずだ。

 結局フローネル嬢は4日でマスターする事になるのだが、万が一の事を考えて、5日目も稽古を続けた。

 その翌日、皇帝陛下に会えると言う報告をフローネル嬢がしてくれた。どうやら僕は彼女の師匠と言う肩書で会う事が出来るそうだ。そう言えば、自分が子爵だと彼女には名乗って居なかったな。

 今日の午後1時に会ってくれるそうだ。午前中に魔法のおさらいをしてから、帝国城へ飛ぶ。ハンターの格好をしているが、王女様が一緒なので問題無く城に入れた。

 いくつかある応接室の一つで待たされる。フローネル嬢は着替えて来るそうだ。

 お茶を飲みながら15分位待っているとフローネル嬢が戻って来た。入れ替わりにメイドが出て行く。多分陛下を呼びに行ったのだろう。

 それから10分程で陛下が現れた。

「待たせたかな?」

「いえ、お時間を取って頂き感謝します。」

「娘の師匠と言う話だが、何を教えているのかな?」

「剣と魔法、武術も教えて居ます。」

「ほう?多才なのだな。城に仕えたいと言うのであれば許可するぞ?」

「いえ、今日はお嬢さんの件で、お話が。」

「嫁に欲しいと言う話なら断るぞ。」

 この皇帝はボケてるのか真面目なのか判断に困るな。

「そう言う話ではありませんのでご安心を。」

「ふむ、では本題を聞こうか?」

「陛下の憂いを取り除くために、娘さんが色々と動いているのはご存じですよね?それに少しばかり協力して頂く事は出来ませんか?」

 そう言うと陛下の眉がピクリと動いた。

「私に何をさせたいのだ?」

「そうですね、ほんの少しお芝居をお願いしたいのですが。」

「芝居じゃと?」

「ええ、難しい話ではありません。ある計画を進めて居ますので、それを知っていて知らない振りをして貰えば良いだけです。」

「その計画とやらは教えて貰えるわけじゃな?」

「もちろん教えます。と言うか陛下の許可が無いと出来ません。」

「ほう?聞こうでは無いか。」

 まず、人払いをして貰う。まあ、メイドが一人なんだけどね。

「では、お話をする前に一つだけ確認をさせて下さい。この城に天災級のドラゴンが攻めて来たとします。一体どの位の戦力で迎え撃ちますか?」

「現在この城には5000人の騎士と2000人の魔法使いが常駐している。だが、天災級となると帝都の全兵力を投入せざるを得ない。騎士1万人、魔法使い5000人。そしてハンターが3000人と言った所かな。」

 だいたい思った通りの数字だな。これならイケるかも。

「解りました。では近く、ドラゴンにこの城を襲わせますので、陛下の力で全兵力を集結させて下さい。」

「ちょっと待て、ドラゴンに城を襲わせるとは聞き捨てならんぞ。」

「お芝居ですので、実際にはドラゴンは攻撃しません。せいぜい上空を旋回する程度です。ドラゴンに寄る被害は一切出ませんので安心して下さい。」

 あれ?陛下と皇女がポカンとした顔になってるぞ、なんかおかしな事言ったかな?

「色々と突っ込みどころが満載なのだが、まず、お主はドラゴンを使役出来ると言うのか?」

「使役と言うか、友達のドラゴンが居るので頼んでやって貰います。」

「それは真面目に言ってるのか?」

「いたって真面目ですが、変ですか?」

 また陛下の眉がピクリと動いた。

「お主一体何者じゃ?」

「ああ、そう言えば自己紹介してませんでしたね。僕はエイジ・フォン・フェリクス子爵。陛下の家臣です。」

「フェリクス子爵だと?む?聞き覚えがあるな。」

 陛下が何やら思い出そうとしている。

「おそらく、アーベルシュタイン侯爵辺りが何か噂でもしたのでは無いですか?」

「アーベルシュタイン侯爵の知り合いか?もしかして、私が倒れた時に助けてくれた男爵か?」

「ああ、そんな事もありましたね。おかけで今は子爵をやっています。」

 本当は子爵になりたくなかったとは言えないよね。

「医師が助からないと言うのを助けてくれた優れた魔法使いが居たと後で聞かされた。君は私の命の恩人だ。ずっと会いたいと思っていたのだ。」

「たまたま、タイミングが良かっただけの話です。お気になさらずに。」

「私の命の恩人が、今度は娘を助けると言うのか?」

 お、話が戻りそうだ。ここは畳み掛けよう。

「そうなりますね。ドラゴンは軍が準備を終えた時点でタイミングを見計らって消えて貰います。そこへ娘さんが、仮面で顔を隠して現れると言う趣向です。」

「何の為に娘は正体を隠すのじゃ?」

「ドラゴンを操っている黒幕だと思わせる為です。」

 陛下だけじゃなくフローネル嬢までが驚いている。

「そんな事をしたら、軍は娘を襲うのでは無いか?」

「そうです。それが狙いですからね。娘さんには1万人を超える軍隊と1人で戦って貰い勝って貰います。」

「それは幾らなんでも無理だろう?」

「いや、ちゃんと勝てる様に鍛えましたので問題無いですよ。」

「1万人を超える軍隊に勝てるって、娘はどれだけ強くなったのじゃ?」

「おそらくですが、帝都位なら1日で消し飛ばせる位にはなっていますね。」

「それが事実なら、ビルクロッツェはどう思うだろう?」

 ん?ビルクロッツェって誰だ?

「私の兄です。」

 今まで黙って聞いていたフローネル嬢が耳元で囁いた。

「皇太子が娘さんの縁談を諦めてくれれば良いのですが。」

「縁談は諦めるかもしれんが、今度はフローネルを使って戦争を仕掛けるかもしれんな。」

「皇太子を排除すると言う考えは無いのでしょうか?」

「確かにビルクロッツェは野心が強すぎる帰来がある。しかし、だからと言ってそれだけでは皇位継承から外す事は出来ん。」

 フローネル嬢も頷いている。

「まあ、その辺は皇族の話になりますので、僕は何とも言えません。とりあえず、僕の依頼はフローネル嬢の縁談の阻止ですので、それだけはキッチリとやらせて貰います。」

「ふむ、では私もその話に賭けてみるとするか。」

「お父様ありがとうございます。」

 フローネル嬢が頭を下げた。
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