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 さて困った。現状では精霊王を治癒する術がない。全ての魔法を弾くんじゃ、治癒魔法は一切効かない。エリクサーはどうだろう?飲ませるにしても、この状態じゃ難しい。掛けても効果があるらしいが、ツルツルの外殻は液体も弾きそうだ。

 こう言う時はアイツに頼るしか無いよね。

「ブラスマイヤー。状況は見てたよな?どうすれば良い?」

 ブラスマイヤーと言う単語を聞いて、一部の精霊がざわついている。特に氷の女王ベレッサは驚愕の表情を浮かべている。

「お前はもう少し頭が良いと思っていたのだが、この世界に毒されて、思考が固くなっている様だな。」

「どう言う事だ?」

「外殻が魔法を弾くのなら外殻を壊せば良いだろう?」

「いや、それは中の精霊王の死に繋がるのでは無いか?」

「死んだら蘇生させれば良い。このまま放って置けば消滅するのだろう?消滅したら蘇生も出来んぞ。」

「この状況で精霊王を殺して復活させるのか?」

 周りの精霊たちには僕とブラスマイヤーの会話が聞こえている。精霊王を殺すと言う所で空気が変わった気がした。

「殺して蘇生し、時越えの魔法を掛ければ全て解決だ。後はお前の判断と精霊たちの意思に任せよう。俺は精霊界に興味は無い。」

 神の判断だ。確かにその方法が一番成功率が高いだろう。だが、精霊たちは納得しないだろうな。

 氷の女王ベレッサの方を向き問いかける。

「今の話聞こえただろう?どう思う?」

「その前に一つ聞きたい。ブラスマイヤーとはあのブラスマイヤーか?」

「あのって言うのが何かは解らんが、神の1柱のブラスマイヤーだ。」

「お主は神と交信が出来るのか?」

「交信とは少し違うが話は出来る。ついでに言うならこの体はブラスマイヤーから借りている。」

「なるほど、暗黒竜ルシルの言っていた事が理解出来たよ。」

「で、どうなんだ?さっきの提案受け入れられるか?」

「ふむ、良かろう。私が皆を説得してみる。」

 説得ってベレッサにそんな力があるのか?

 ベレッサが皆を説得している間にルシルに聞いた話では、精霊界にはおよそ600の精霊が居るらしい。その内の24体が上位精霊だそうだ。上位精霊は何かしらの特化した能力を持っているらしい。精霊王は光を司る精霊。氷の女王ベレッサは氷を司る精霊と言う事になる。他にも力の精霊や技の精霊等も居て、その24と言う数字がそのまま、地上の人間のステータスに影響を与えているのだそうだ。

 つまり、氷の女王ベレッサは氷魔法を司っており、全ての氷魔法を使える。逆に言えば、ベレッサが使えない氷魔法は人間にも使えないと言う事になる。上級精霊は地上に影響を持つほどの存在だ。それが制御能力を失えば異常気象にもなるって事だな。やっと異常気象の原因が判明した。後は精霊王を治せば精霊界も平穏を取り戻す事になる。

 体感で30分程、ベレッサが戻って来た。

「精霊王を復活させるのにどの位の時間が掛かる?」

「多分、数分で終わるよ。」

「そうか、ならやってくれ。正直全員を説得は出来なかった。半数以上は説得できたので時間は稼げる。我々が反対派を抑え込んでいるうちに、何とか精霊王様を助けてくれ。」

「解った。急ごう。」

 ルシルにはベレッサの援護に回って貰う。僕はまっすぐ精霊王の元へ向かう。

 金色の淡く光る球を右手で掴み、力を入れる。まるで卵の様に外殻にヒビが入る。そのまま完全に割れるまで力を籠める。物理攻撃に弱いのか僕の力が強いのかイマイチ解らないが、時間が無いので考えるのを止めて集中する。

 完全に外殻が割れると中身が見える。何だろう例えるなら人間の胎児が一番近いだろうか?かなり弱っているが死んでは居ない様だ。

 死んでは居ないが、これは不味い。胎児が未成熟で外に出たら確実に死ぬ。とりあえずパーフェクトヒールを掛ける。掌の精霊王の放つ光が強くなる。

 このタイミングを逃すと後が無い。急いで時越えの魔法を-1年で掛ける。光はますます強くなり。僕は眩しくて目をつぶった。

「君は?」

 声が聞こえて慌てて目を開ける。そこには美しい青年が立っていた。光は淡く抑えられていた。

「あなたが精霊王ですか?」

「どうやら君が私を救ってくれた様だね。感謝するよ。」

 周りでは精霊たちが茫然とした顔で立ちすくんでいる。

「暗黒竜ルシルが僕の妻なので、少しばかり出しゃばりました。地上に影響が出て来たので放っておけなかったと言うのもありますが。」

「そうか、地上にまで迷惑をかけたか。済まない事をした。」

「いえいえ、精霊王様が元気になれば元に戻ると聞いたので、なんと言うか、期待してます。」

「解った。期待には応えよう。しかし、暗黒竜ルシルの旦那か。只者では無さそうだ。神の匂いがする。」

「まあ、その辺はあまり詮索しないで貰えると助かります。」

「ふむ、了解した。」

 精霊王はゆっくりと移動し、精霊たちの元へと赴く。

「心配かけたな。消滅した者は居るのか?」

「いえ、消滅は免れました。手負いの者は多数居ますが、全員揃っております。」

 氷の女王ベレッサが代表して答えた。

「そうか、消滅していないのであれば、何とでもなる。暗黒竜ルシル、君にも礼を言わないとな。」

「いえ、私は何もしていません。掟に背き旦那をここへ連れて来ました。」

「ふむ、しかし、そのおかげで私は助かった。その件は不問にしよう。」

 少しずつ精霊たちの歓声が上がり徐々に大きくなる。

 どうやら精霊王はかなり慕われている様だ。そう言えば確かエルフだったよな。

 耳に目をやると、若干だが尖っている。そこだけではエルフだと判断し難い。人間との明確な違いはその美形な顔だな。

 さてと、精霊界と人間界の時間のズレが気になる。早く帰った方が良さそうだ。

「無事、解決したようなので、僕たちは帰りますね。」

 そう言って帰ろうとしたら、精霊王に止められた。

「少し待ってくれたまえ。君に礼と言う訳でも無いが、精霊の加護を与えよう。」

「精霊の加護ですか?」

「ああ、君の役に立つかどうか判らないが、一定時間精霊を使役する能力だ。上位精霊は無理だが、普通の精霊なら呼び出す事が出来る。」

 んー、これまた微妙な能力だな。役に立つときがあるのか?しかし、くれると言う物を断るのも失礼だよな?

「ありがたく頂戴します。」

 精霊王は何やら頭の上に手をかざし、数秒でそれは終わった。

「では、気を付けて帰るが良い。」

「お気遣い感謝します。」

 僕とルシルは地上に転移した。恐らくだが、感覚的には6時間程精霊界に居たと思う。果たして、地上ではどの位の時間が経過しているのであろうか?

 外はまだ明るい。家に駆けこみメイドを捕まえて時間を確認する。

 4時だった。僕らが出かけて4時間経過したと言う事だ。精霊界と地上の時間差は3分の2と言う事になる。思ったより少なくて安心した。

 あ、そう言えば異常気象はどうなった?僕は急ぎブレイルに飛ぶ。雪は残っているが雪は止んでいる。続いて帝国の帝都へ飛ぶ。あれ?寒い?いや、普段に比べれば若干暖かいのか?帝都は王国よりかなり北にある。なので冬のこの時期には寒くて当たり前なのだ。

 王国は基本温暖な気候だ。夏は若干暑く、30度を超える日が何日かある。冬は15度を切る事は滅多に無い。

 それに比べると帝都は夏が短く30度を超える事はまずない。冬は5度位まで下がる日が何日かあるそうだ。現在12月だが12月の平均気温は12,3度だそうだ。本格的な冬は年を開ける頃だ。

 そう考えると、帝国の現在の気温は例年並みと言う事になる。つまり異常気象は収まったと言って良いだろう。

 異常気象が収まると暖房の魔道具は売れ行きが落ちるだろうが、もうだいぶ売り切ったし、他の魔道具を投入すれば良いだろう。

 帝都とブレイル。もしかしたら僕の知らない場所でも異常気象は起こっていたかもしれない。もし、そこに何者かが住んでいたとしたら。そう考えれば異常気象を止められた事は悪い事では無いはずだ。

 そう言えば、北に行くほど寒いって事は帝国も王国も北半球にあると言う事になる。南半球には大陸はあるのだろうか?そこに人は住んでいるのだろうか?獣人の国や魔族の国って何処にあるんだろう?まだまだ、この世界には知らない事が多い。少しずつ探って行こう。

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