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 ベルたち4人を扱いて、そろそろ王国へ帰ろうかなと思った時に、その男は現れた。

 見た目は何処にでも居そうなおじさんだが、雰囲気が違う。気を隠している所からそれなりの力を持っているのも判る。男の後ろには2人の男が従っているが、こちらもそれなりに強そうだ。まあ警戒するほどでは無いが。

「うちの者が迷惑をかけたようだな。引き取りに来た。」

 10人以上転がってますが、3人で持って帰れるかな?中には目が覚めている者も居るが、痺れて動けない様だ。

「堂々とうちの者って言ってますが、これで圧力を掛けるのを止めて頂けますか?」

「圧力?なるほど、侯爵の仕業ですかな?」

「あれ?貴方は知らないのですか?」

「ふむ、私は道場を預かっているだけで経営には参加しておりません。この度の襲撃に関しても知らされていませんでした。どうやら雇い主にあまり信頼されて居ない様だ。」

「知った今、どうします?」

「ふむ、1勝負行きますか?私は剣しか使えませんが。」

「では、こちらも剣でお相手しますよ。」

「ほう?剣も使うのか?」

 ベルたちが下りた武舞台に上がる。木刀を用意させ、準備をする。

「木刀を常備している魔法道場か、面白い。」

 おじさんが静かに剣を構える。うん、綺麗な形だ。僕も剣を構えて対峙する。

 特に強い殺気は感じないが、動作で判る。この男は強い。僕はごく軽く殺気を飛ばしてみた。

 全く動じない。さて、どうする?一撃で仕留めたら、他の2人が納得しないだろうな。じゃあ、相手に攻めさせるか?

 僕は木刀をぶらりと下げた。瞬間間を詰められるが、想定内だ。鋭い撃ち込みを躱す。思った以上に強い。僕が今までに会った剣士の中では一番強いかもしれない。

「やりますね、避けられるとは思いませんでした。」

 一旦仕切りなおして、今度は僕から仕掛けて行く。まだ様子見なので木刀をターゲットに剣を振るう。振り下ろしから切り上げと一連の動作で流れる様に剣を動かすが木刀には当たらなかった。

 それどころか、僕の空振りを読んでいたかのようにおじさんの剣が首に飛んで来た。剣技だけならSランクだな。こんな人材がまだ居たのか。まあ薄皮一枚掠らせないけどね。徐々にスピードを上げながら木刀で打ち合う。

 知らない間に武舞台の周りが見学者で一杯だ。

 さて、模擬戦とは言え、真剣勝負だ。正直常人なら5分が限度だろう。それ以上は体力も精神力も切れて来る。

 現在30%位の力で戦っている。何時でも勝負は決められるが、さて、どのタイミングが良いだろう?

 あまり速いと魔法を使ったと思われるかもしれないしな。

 不自然にならない様にカウンターを決める感じでおじさんの手首を跳ね上げた。木刀が舞台に転がる。

「参りました。」 

「って事で侯爵によろしく!」

「今の勝負、まだ余力を残していたように見えたのだが?」

「ああ、その辺はあまり深く考えずに。」

「不思議な御仁だ。圧力の件は私が何とかしよう。」

「それは助かる。あと、そこのゴミは適当に持って行ってくれて構わない。もしかしたら何人か死んでるかもしれないが。」

「うちの道場も質が落ちた物だ。」

 そうぽつりとつぶやきおじさんは2人の従者を従えて、倒れている男たちを荷馬車に運んでいた。なるほど、そう言う手があったか。

 翌日から嘘の様に入門希望者が増えた。師範志望者も見つかったらしく、面接をして2人ばかり雇った。これで僕の自由な時間が増えるぞ。

 こうなるとタイムテーブルも見直さないとイケない。道場の時間を朝10時から夕方5時までに延ばした。更に僕の出勤時間を朝10時から2時までの4時間にした。まあ、実際には9時半には来て子供達に教えているんだけどね。

 それから、週に1日は休みを貰う事にした。これでアスアスラに会いに行ける。

 ちなみに現状では師範とベルたち4人が同等の強さだ。しかし、師範にはもう少し頑張って貰い。リリと対等に戦える位にはなって貰うつもりだ。

 と言う事で最近は門下生より師範を鍛えている。なんか順番逆じゃね?

 まあ、なんとか道場は軌道に乗った。これで帝国の魔法使いの底上げになれば良いのだが、結果はすぐには出ない。

 今度は魔道具でも売ってみるか?最初は王国の利益を考えていたのだが、最近では帝国の再建を考えている。僕の行動は合っているのか?

 自由時間が増えたので家族との触れ合いを増やした。嫁たちは今の所安定している。子供達も元気だ。いや、元気過ぎる。現在ルシルが7か月。アリアナが5か月、セリーが3か月だ。自然と子供たちの面倒はメイドか僕が見る事が増える。子供ってなんであんなにパワーがあるんでしょうか?

 休みの日、久しぶりにアスアスラの家を訪ねた。

 アスアスラに今までの経緯を話し、これからは週に1日位は来れると伝えると嬉しそうにしていた。

 そう言えばルーラの姿が見えない。

「あれ?ルーラは?」

「今日は教会に行ってます。」

「教会?」

「同年代の友達が居ないのはどうかと思いまして。教会に行くとあの子と同じくらいの子たちが30人位集まるんですよ。」

「なるほど友達か、それは考えなかったな。」

 そう言えばエルやリアーナはどうするんだろう?貴族には貴族の友達が必要なのかな?後でセリーに聞くか?

「あと30分位で帰ってきますよ。」

「教会って何をするんだ?」

「教会の掃除とか勉強ですね。なんでもおやつが出るそうで、皆、それが目当ての様です。」

 なるほど、保育園の様な役割なのかな?子供たちが居ない間に親が用事を出来るもんな。

「ところでSランク試験には受かったのか?」

「いえ、ここの所受けて居ません。」

「ん?Sランクが目標だったのだろう?」

「色々と状況が変わり目標も変わりました。今は家族が暮らして行けるだけ稼げれば満足ですね。」

「じゃあ、今の目標は?」

「2人の子供を育て上げる事ですね。」

 ん?2人?1人はルーラだよな?もう一人は、僕との子か?

「一つ問題があります。私はエルフです。子供たちが居なくなっても私は生き続けるでしょう。」

「それなんだがな、これは秘密にしておいて欲しいのだが、僕も長命種なんだよ。もしかしたらエルフの君より長く生きるかもしれない。」

「人間なのに長命種?良く解りませんが?」

「ああ、事情があって話せないのだが、僕は人間より神に近い存在らしいぞ。」

「ん~。やっぱり良く解りません。」

「まあ、今のまま行くとルーラが一番早く死ぬって事だ。」

「70年位先の話ですね。考えない様にはしているのですが。」

「幸い、ドラゴンの素材があれば若返りの秘薬が作れる。僕にはその知識もある。」

「ルーラは長生きが出来ると言う事ですか?」

「本人が望めばだがな。全ての人間が長生きを望む訳では無い。」

「そうですね。それに寿命とは関係ない死に方をする場合もあります。エルフでも若くして命を落とす者が居ます。」

「まあ、そう言う事は直面してから考えれば良いんじゃないかな?」

 そこへルーラが帰って来る。

「ただいまなのだ!」

 ああ、なるほど、教会の誰かがその喋り方をするのを覚えたんだな。

「お帰り。ルーラ。」

「あ、パパ―!!」

 幼女の弾丸が僕に襲い掛かった。

「さて、今日は久しぶりに皆で買い物に行きましょうか?」

 アスアスラさん、なんでスルー?

「じゃあ、商店街に行くか?2人の洋服でも買おうか?」

「良いんですか?」

「ああ、王国の縫製技術の進歩も見たいしな。」

 3人で仲良く手を繋いで商店街まで歩く。最初に洋服屋に寄って、30分程色々と見て、2人に2着ずつ服を買った。やはりミシンが導入されて、縫製がしっかりとして来ている。更に値段も若干だが下がっている。

 その後夕食の買い物をして、家に帰る。購入した物はアスアスラのマジックバッグに入っている。綺麗に使ってくれている様で嬉しい。

 夕食はルーラのリクエストでハンバーグになった。やっぱ子供はハンバーグ好きだよな。

 その後部屋の中でルーラと遊んでいたら、だんだん稽古っぽくなって来てアスアスラに怒られたりしながら、団らんを楽しむ。

 喉が渇いたのでアイスティーを飲む。ルーラにはホットミルクに少し砂糖を入れた物を渡した。

 やがてルーラの目がとろんとして来たので寝かしつけスリープをかける。その後は大人の時間だ。
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