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「そうだな、男爵位と白金貨20枚って所かな。」

「爵位ですか?皇帝に会わないといけないんですよね?」

「いや、男爵位なら皇帝は出て来んな。宰相に挨拶をして終わりだ。」

「宰相ってのはどんな人です?あまり目立ちたくないんですよね。」

「良くも悪くも俗物だな。爵位で態度を変える様な男だ。男爵なら歯牙にもかけんだろう。」

 ふむ、それなら大丈夫かな?

「それで手を打った方が無難なんですよね?」

「そうだな、例えば金だけとか、他の物をねだると皇帝陛下が出て来るぞ。」

「何も要らないってのは?」

「それはそれで、色々と面倒だぞ。下級役人に事情徴収1か月とかな。」

「解りました。男爵位で良いです。」

 そう言うとアーベルシュタイン侯爵がニヤリと笑った気がした。

「私の方で話は進めて置く、君には極力負担が無いようにするので安心したまえ。」

「ご配慮感謝します。」

 その後はリリの家庭教師を真面目にやる。リリは飲み込みが早いので教えていて面白い。既に時空魔法の付与も覚えていて小さなマジックバッグなら作れる様になっている。もう少し時空魔法の理論を教えれば、バッグの大きさも大きくなるだろう。

 家に帰ったら竜王の爺さんと嫁たちが何やらワイワイと騒いでいる。

「おう?小僧帰ったか?このクレープとやらは美味いのう。」

 あれ?爺さん意外に甘党なの?ドラゴンと言えば酒のイメージがあるんだけど。

「そう言えば竜王の爺さんって名前無いの?」

「名前か?昔はあったんだがな、忘れてしもうた。」

 おいおい適当だな。

「ところで酒は飲まないんですか?」

「酒を呑まないドラゴンは居ないぞ。空の樽を3つばかり用意できんか?」

 確か厨房に空の樽があったはずだ、見に行くと1つだけしか空じゃない。あれ?補充したの?まあ良い。ストレージで空の樽をコピーする。

 戻って空の樽を3つ出すと竜王の爺さんがポンポンポンと一つずつ叩いた。

「竜泉酒じゃ。美味いぞ。」

 ストレージに帝国のグラスが入っていたのでそれを出し、皆で竜泉酒を味見した。美味い。アルコール度数高めなのにすいすいと入って行く。これはある意味危険だな。ついつい飲み過ぎてしまう。

「爺さん、これって何時でも出せるの?」

「ああ、何時でも出せるぞい。もっと欲しいのか?」

「ちょっとお世話になって居る人にも飲ませたくてね。」

 そう言って、コピーした樽を更に3つ出す。爺さんがポンポンポンと叩く。

 僕は3つの樽をストレージに仕舞った。王様と公爵に渡さないとね。もう一個は誰に渡そうか?

 アルコールが入るとつまみが欲しくなる、唐揚げやポテトフライを注文する。そのまま宴会に突入して、夕食代わりになった。

 子供達には悪いが粉ミルクで我慢してもらった。リアーナは既に離乳食も食べられるのでミルクがゆを与えた。

 母親たちもたまには羽目を外さないとね。

 翌朝、稽古をする。竜王の爺さんは相変わらず強い。が、見えない訳では無い。

 ただ、老練さと言うか、戦いなれていると言うか、そう言う部分で負けてしまう。

「ふむ、小僧と白竜は、既に完成形に近い。後は戦いなれすれば良いだろう。だが、お嬢ちゃんはまだまだ伸びしろがあるぞ、ブラスマイヤー、儂に預けんか?」

「この空間の中なら何をしても構わんぞ。外ではやるなよ。」

「解った。嬢ちゃん、あの二人より強くしてやる。楽しみにしていろ。」

「はい!ありがとうございます。」

「それって、僕とベルクロスには教える事は無いって事?」

「いや、毎日乱取りはするから安心しろ。戦いと言う物を教えてやる。」

 ああ、地獄は続くのね。

 稽古の後はスローライフ時間だが、その元気が無い。しょうがないので、竜泉酒を届けに行くか。まず公爵の家に飛ぶ。

「お、今日は早いね。何かあったのかい?」

「いや、そう言う訳では無いんですが、『竜泉酒』って知ってます?」

「ああ、古龍が作ると言う幻の酒だね。実在するとかしないとか。」

「手に入ったので持って来ました。何処に置きます?」

「え?竜泉酒が手に入ったのかい?」

「はい、で、王様にも献上したいのですが、今から行っても大丈夫ですかね?」

「私に任せたまえ。」

 公爵に連れられて王城の裏手から中に入る。

「本当は使用人の門なのだが、私は何時もここを利用している。」

「兄上居ますか?」

「おお、もう少しで書類が片づく少し待っておれ。」

 僕と公爵は何時もの応接室で紅茶を飲んで待っている。15分程で陛下が現れた。

「お?ゼルマキア卿も一緒とは何かあったのか?」

「いえ、竜泉酒が手に入ったので、献上に来ました。」

「竜泉酒とはあの幻の酒か?」

「幻かどうかは知りませんが、竜泉酒です。飲んでみます?」

 僕はストレージからグラスを3個取り出し、竜泉酒を注いだ。

「昼間ですから1杯だけですよ。」

 僕が先に口を付け飲み干す。続いて公爵、陛下と続く。

「これは、まさに天上の味。」

 ここに置いて置きますねと樽を床に置いた。ワイン樽だから多分250リットル位あるんじゃないかな?床抜けないよね?

「これ、全部竜泉酒か?何処で手に入れたんじゃ?」

「竜泉酒ですから、ドラゴンに貰いました。」

「つくづくお主が敵じゃ無くて良かったと思うぞ。」

「そうですか?思えば、公爵さまや陛下に会ったのもドラゴンが縁でした。」

「ああ、そうじゃったのぉ。」

「僕の人生はドラゴンと縁が深いようです。なら、ドラゴンとの縁を大切にして行こうと考えています。なので、お2人に竜泉酒をお持ちしました。ドラゴンは敵とは限りません。味方のドラゴンも居ます。」

「味方のドラゴンか心強いな。」

「はい。」

 午後は帝国へ向かう。家庭教師だ。

「先生。時空魔法と言うのは具体的にはどんな事が出来るんですか?」

「まず、時空魔法とは時間魔法と空間魔法の2つに分けられる。例えば敵の動きを遅くする補助魔法スローなんかは時間を操っているよね?また、僕が以前見せた転移なんかは空間を操る魔法だ。」

「では何故、時空魔法と言う風に合わせて呼ぶんですか?」

「うん。実は時間と空間と言うのは密接な関りがあるんだ。今現在リリが居るこの空間は時間が流れているよね?例えばマジックバッグの中はどうだろう?基本的なマジックバッグの中は時間が止まっている。けどね、意識して時間を流れる様にする事も可能だ。もっと言えば時間を早くしたり遅くしたりも可能なんだ。」

「良く解りませんが、マジックバッグに時間を付与する事に意味があるんですか?」

「マジックバッグに生き物が入らないってのは知ってるよね?実は時間を付与する事で生き物を入れる事が出来るんだ。」

「そうなんですか?それは初めて聞きました。」

「まあ、人間を入れるのは止めた方が良いけどね。例えば、海鮮等を入れれば生きたまま海から帝都へ持って来れる。」

「なるほど、輸送革命が起きますね。」

「他にも時間が流れる事で、加工食品を大量にマジックバッグの中で作るなんて事も出来る。」

「マジックバッグについては解りました。他にも時空魔法の使い方ってあるんですか?」

「ここから先は危険なのであまり実践して欲しく無いんだが、理論は覚えてくれ、A地点からB地点まで走って10秒かかるとしよう。空間魔法で距離を半分にすれば5秒で着くよね?」

「はい。」

「では空間魔法を使わずに時間魔法で自分の速度を倍にしたらどうだろう?」

「やはり5秒で着きますね。」

「じゃあ、空間魔法で距離を限りなくゼロにして、時間魔法で速度を最大にしたら?」

「それは、転移ですね?」

「そう、転移は時間と空間を両方操っているんだ。だから時空魔法なんだよ。まあ、空間魔法だけでも転移と似た様な事は可能だ。だけど、距離を縮める時間、移動する時間はやはり掛かってしまう。それでも十分と言うなら構わないんだけどね。やはり時間魔法を合わせて使った方が便利だ。」

「解ります。理論が解れば私にも使えると言う事でしょうか?」

「うん。使えるよ。ただ、最初は危険なので目に見える範囲で練習する事。約束だよ。」

「はい。」

 やはりこうなるよね。転移の理論を知ったら使いたくなるもんね。それが魔法使いの性って奴だよね。

「もう一つ、重要な事を教えてあげよう。時間魔法で時間を進めたり遅らせたり出来るのは知ってるよね。それを転移に応用するとどうなるだろうか?」

「遅れる方は解ります。ワンテンポ遅れて転移するんですよね?進める方が解りません。どうなるんですか?」

「時間を進めると言っても自分だけが進む訳じゃない。答えは転移の速度が速くなる。これは近くでは実感出来ないだろうが、距離が長くなると実感できるよ。」

「要は補助魔法のクイックの様なイメージですか?」

「そうだ、ただ、あまりに速度を上げると脳の処理速度が追い付かなくなるので注意が必要だ。」

 こうなってくるとマルチタスクも教えた方が良いかな?
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