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 翌日冒険者ギルドと王城に聖水を800本ずつ届けた。冒険者ギルドのギルマスによると既に下級悪魔を2体退治したそうだ。王城の騎士隊ではまだ、聖水の数が揃って居ないので本格的な活動はこれからだそうだ。今日預けた分で何とか数が揃った様だ。これで下級悪魔対策はOKだ。

 敵の思惑が読めない現状ではこれが精一杯だろう。ここから先に進むには敵の動向を探る必要がある。

 しかし、上級悪魔は影さえ現さない。この王都で何をしようとしているのだろうか?

「ブラスマイヤー、悪魔の侵攻とはこうも時間のかかる物なのか?」

「そうだな、悪魔も人間とは違う時間の流れの中で生きる物だ。以前、ある帝国を滅ぼした悪魔は実に400年の歳月を掛け。1国を支配した。」

「そうなると今回も一月や二月でどうこうなる話では無いと?」

「おそらくはそうだろうな。だが、人間が悪魔の存在に気付き、数を減らされれば奴らも行動を急ぐ可能性はある。」

「厄介だな。せめて悪魔の目的が解れば手の打ちようもあるんだが。」

「これは推測にすぎんが、新しい盟主の誕生と言う可能性がある。」

「新しい盟主?」

「ああ、デーモンロードが存在すると言う前提ならば、それが一番確率が高い。要は新しいデーモンロードが誕生して世代交代を行う儀式だな。奴らはその為に1国の人間を生贄にする事を厭わない。」

「それってさ、最悪デーモンロード2体を相手にするって事だよね?」

「そうなるな。」

 頭が痛い話だ。

「新しい盟主が誕生するとして、それは何時の話だ?」

「解らん。1年後かもしれんし、100年後かもしれん。」

「そこまで待ってる訳には行かないな。やはり見つけて潰すしか方法が無さそうだ。」

「賭けになるが、お主が1年、真剣に修行をすればデーモンロードを上回る力を得られるぞ。」

「だが、その前に悪魔が侵攻して来たら?」

「だから賭けになると言ったろう。」

 1年後には確実に勝てる。しかし、その1年で何人の人間が死ぬかだな。そう言えば、某国民的マンガで時間の流れの違う空間を作ってそこで特訓するって言うのがあったな。あれを再現出来ないだろうか?

「なぁ、ブラスマイヤー。空間魔法で、外と時間の流れの違う空間て作れるか?」

「不可能では無いが、幾つか制限があるぞ。」

「制限?」

「ああ、一つは時間を完全に止めると人間は入れない。もう一つは中と外の時間差で老化、もしくは成長の遅れが出る。そして最後に一度作った空間は壊せない。」

「ふむ、どれも大したリスクでは無いな。よし、作ろう。手伝ってくれブラスマイヤー。」

「どう言う事だ?」

「1か月で1年分の特訓が出来る空間を作る。そこで1年特訓すればデーモンロードを上回れるんだろう?」

「なるほど、考えたな。時空魔法を特訓に使うとは、お主の発想には時々驚かされるわ。」

「ヒントは時越えの魔法だよ。アレが無ければ思いつかなかった。」

「本当にあの本がお前の人生を変えたな。」

 それから数時間かけて、庭に時空魔法を付与した。入り口は僕しか開けられない様にした。広さ見た目は全く庭と一緒、だが時間の流れが違う空間が出来た。ここの中での1年は外の世界では1か月だ。単純計算で12倍の速度で成長出来るって訳だ。

 毎日ここに2時間入れば、24時間特訓できるって事だ。

 ブラスマイヤーの考えたメニューで毎日ここで特訓をする。休む時もこの中を使えば更に効果が高い。

 およそ1週間でルシルの強さを越えた。ルシルは思いっきり悔しがっていたので、きっと更に上を目指すだろう。

 流石に最初の1週間は疲れが取れなくて大変だったが、ようやく慣れて来た。中級悪魔狩りも再開した。

 こうやって普通の暮らしをしながら、1日に2時間だけあの空間に入る。それだけで僕はどんどんと強くなっていく。

 今では中級悪魔なら瞬殺だ。上級悪魔とは戦って無いが、互角以上の戦いが出来るだろうと思って居る。

 そして1か月が経った。まだデーモンロードに勝てるとは言えないが、体に見違える様な変化がある。しなやかで柔軟な筋肉と実践で鍛えた体は美しさと同時に身体能力の向上と持久力を与えてくれる。

 初めてベッドでルシルに勝った。

 上級悪魔までなら対処出来るだろうとブラスマイヤーのお墨付きも貰った。

 これまでに狩った中級悪魔は32体。冒険者や騎士団が狩った下級悪魔が18体。既に悪魔の半数は減らしている。特に中級はあと何体も残っていないはずだ。下級悪魔は放って置いて良い。残るは上級悪魔とデーモンロードのみと言った所だ。

 しかし、このタイミングでデーモンロードを相手にするにはまだ早い。そこでセリー達に頼み1週間の時間を貰った。1週間、例の空間に籠る。籠って、デーモンロードに勝てる能力を身に着けるまで特訓をする。

 外の1週間は中では12週間3か月だ。この3か月でブラスマイヤーの特訓でデーモンロード超えを目指す。ストレージに3か月分の食料を入れて、セリーに後を頼む。

 そして地獄の3か月が始まった。人の身で悪魔に挑むのだ、並の修行では話にならない。毎日死ぬ寸前まで自分を追い詰め体を虐める。これにより悪魔に並ぶ頑丈な体と驚異的な再生能力を身に着けた。

 更に剣術を学び、武術を学び、魔法を磨いた。

「技術も大事だが精神力も鍛えろよ。闇落ちしたらシャレにならんぞ。」

 確かに今の僕が闇落ちしたら人類最悪の敵になってしまうだろう。

 そして3か月の修行は終わった。

 外へ出た僕は殆ど何も変わっていない庭に立ち。周りを見渡す。サーチを掛ける。王都に居る悪魔の数が全てわかる。デーモンロードが居るのも捉えた。上級悪魔は4体。中級が2体。下級が36体だ。

 さて、狩りの始まりだな。

 出かけようとしたらルシルが現れた。

「お主何をした?見た目はあまり変わっていないが中身が別物だ。これ程の気、魔神以来だぞ。」

「少し特訓をね。まだ、魔神には勝てるかどうか解らないが、対等に戦える位にはなってるんじゃないかな?」

「人族とはここまで強くなれる物なのか?」

「多分僕は特別じゃ無いかな?ルシルと一緒さ。」

「我と一緒?人を超えたのか?」

「悪魔に勝つためにね。でも、人を捨てた訳では無いよ。」

「ふっ、つくづく面白い男よのぅ。」

 それ以上ルシルは何も言わず見送ってくれた。

 転移で一番近い上級魔族の近くまで飛ぶ。サーチで追いかけ、特定する。不自然にならないようすれ違いざまに聖水を掛ける。流石に油断していたのか、跳ね返す事もなく、正体を現す。

 初めての上級悪魔との戦いだが、不思議と危険察知のピリピリ感が無い。

 悪魔に先手を取らせ、わざと攻撃させる。うん。十分見切れる。これなら中級とあまり変わらないな。

 ヘルファイア一発で頭を灰にして瞬殺だ。呆気ない。そのまま泡状に溶けて行く。再生も追いつかないみたいだな。

 自分の実力を試せたので今日はこれで帰る。セリー達が心配している事だろう。

 しかし、この上級悪魔退治が悪魔たちに危機感を与えてしまった事にこの時の僕は気が付いていなかった。

 家に帰るとセリー達3人がじゃんけんをしていた。この世界にもじゃんけんがあるんだな、と変な関心をする。

「って、何をしてるんだ?」

「あの、今日の夜のお相手を決めてます。」

 どうやら婚約者たちは平常運転の様だ。まあ、彼女たちが平和なら僕は何も言う事は無い。

 久しぶりの風呂を堪能し。4人揃っての食事を楽しむ。

 その後、部屋で寛いでいると、セリーがやって来た。

「じゃんけんに勝ったのか?」

「いえ、ここはやはり正妻の私がと権力で押し切りました。」

 久しぶりに抱くセリーの体は強く抱きしめたら折れてしまうのでは無いかと思うくらい、華奢に思えた。変わったのはセリーじゃ無くて僕なんだけどね。

 精一杯優しくしたつもりなのだが、激し過ぎます~と2ラウンドでセリーが失神した。

 翌朝目が覚めると同時にブラスマイヤーが語り掛けて来た。

「悪魔の動きがおかしいぞ。」

 僕もサーチで悪魔の様子を探る。どうやら1か所にかなりの悪魔が集まっている様だ。

「今までに無い動きだよな?何があったんだ?」

「お前が昨日上級悪魔を倒したのが原因では無いかと思う。」

「どう言う事だ?」

「人間に上級悪魔が敗れると言うのは異常事態だ。奴らがこの後どういう手段に打って出るか見当がつかん。」

「迂闊だったかな?でも、いずれは退治しなければならない相手だし、避けて通れない道だよな?」

「ふむ、すぐに対処できる位置に陣取り様子を見るのが良いだろう。」

「そうだな、ここは何処かの貴族の家だよな?貴族にも悪魔の手が伸びていた様だ。確か、この辺は下級貴族の館が多い、空き家もあるはずだ。とりあえず行ってみよう。」

 転移で下級貴族街へ飛び、サーチで空き家を探す。運よく、悪魔が集まっている家の2軒隣が空いていたのでそこに忍び込む。

「ここなら様子は解るが、出来れば声を拾いたいな。出来るかブラスマイヤー?」

「やってみよう。」
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