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 翌日、ルシルとの稽古の後、魔人に付いて調べようと思ったが、手掛かりになる物が全くない。あるとすればギルドだが、ギルドは昨日話を聞いてしまった。

 王都に2人居ると言う人に化けた魔人は、今会うのは不味いだろう。

 あれ?なんかポツンと時間が空いてしまったぞ。

 魔道具屋に行っても多分何も出ないだろうし、セリーとは昨日デートしたしな。本気で農地でも開拓して農業するかな?

 あ、そうだ!折角だから醤油を探しに出てみよう。王都の中央広場へ行けば旅商人が多くいるはずだ。何か情報を得られるかもしれない。

 転移で商店街に飛んでから中央広場を目指す。20分位歩くと馬車の横に店を開いた旅商人が目立って来る。

 売ってる物を確認しながら、調味料関係を探す。10分位ぶらぶらしていると、スパイスを扱ってる人が居たので話を聞く。

「すいません、液体の調味料ってありますか?」

「液体の調味料?一応2種類あるが、探しているのはどんな奴だ?」

「色が黒っぽくて塩っ気の強い物です。」

「ん~、じゃあ、これかな?」

 スパイス売りが馬車の中から1本の小瓶を取り出して持って来た。

 匂いを嗅ぐと生臭い魚の匂い。これは魚醤だなニョクマムにも似ている。

「これ、頂きます。他に調味料を売ってる人を知りませんか?」

「大銅貨1枚ね。うちの他に調味料をあつかってるのは、ほら、あそこの馬車だよ。」

 そう指を指して教えてくれる。大銅貨1枚を払ってそちらへ向かう。

 どうやらこの馬車は砂糖をメインに扱っている様だ。

「済みません。液体の調味料を探しているんですが、心当たりはありませんか?」

「液体の調味料?ショかジャンだな。ショは魚の塩漬けから出来る調味料だ。ジャンは麦から作る。」

「じゃあ、多分ジャンだと思います。今、ありますか?」

「あるにはあるが、壺単位になるぞ。1壺銀貨3枚だ。」

「構いません見せて下さい。」

 見せて貰ったジャンは味噌と醤油の中間の様な粘り気のある調味料だ。味は溜まり醤油に似ている。これはこれで使えるだろう。

「あるだけ下さい。」

「壺5つあるが全部買うのか?」

「はい、お願いします。」

「金貨1枚と銀貨5枚になるぞ。」

 金貨1枚と銀貨5枚を払って壺を5つ受け取る。ストレージに仕舞って行く。

「兄さんアイテムボックス持ちかい?って事は商人仲間かな?」

「まだ見習いですけどね。」

 そう応えて広場を後にする。

 一応醤油らしきものが手に入った。試しに何か作ってみたいな。商店街に引き返し、鶏肉とパンと生で食べられる野菜を購入する。

 屋敷に転移し厨房へ向かい、見習い君を借りる。卵と酢があるのでボウルで攪拌する。更に風魔法で攪拌しながら、ゆっくりとオリーブオイルを注ぐ、あまり一遍に入れると分離してしまうので乳化を確認しながら適度な固さを目指す。攪拌が終わったら塩で味を調えてマヨネーズの完成だ。

 次に鶏肉を少し大きめにカットしてパンのサイズに合わせる。これをフライパンで焼いて行く、じっくり焼いて中まで火が通ったら一度フライパンから取り出し、フライパンを洗う。

 次に調味料を作る。ジャンを料理酒で少し伸ばす、そこに多めの砂糖を入れて味を見る。うん。悪く無い。

 フライパンを温めて調味料を入れ、煮立ったら鶏肉を戻し絡める。照りが出て来たら完成だ。

 ここまでくれば後は簡単。横に切れ目を入れたパンに野菜とマヨネーズを乗せ、その上に照り焼きチキンを乗せて挟めば完成だ。

 4つ作ったので3つは僕が貰う。1つは見習い君に食べさせて、再現してみてねと言って置く。この見習い君年は若いがセンスがある。多分、この後厨房の皆の分を作らされるんだろうな。まあ、厨房は全員で6人しかいないけどね。

 照り焼きチキンサンドを紙で丁寧に包み、ストレージに入れる。あとでセリーとルシルと一緒に食べよう。

 と、そう言えばセリーはどこ行ったんだ?メイド長に聞いたら実家に呼ばれて午後一で向かったらしい。何かあったのかな?

 セリーが家を空けるのは珍しい、大抵何か言ってから出かけるのだが。まあ、セリーの事だ、何かあれば連絡をよこす位の事はするだろう。しかし、そうなると僕が家を空けるのは不味いか?

 等と考えていたら、公爵家の使いと言う者がやってきた。至急屋敷に来て欲しいそうだ。公爵家なら10分も掛からない。

 解ったと言い、すぐに使いの者と一緒に馬車に乗る。

 公爵家に着くと何やら深刻な様子。

「何かありましたか?」

「おお、ゼルマキア伯爵。良く来てくれた。」

「で、何があったんですか?」

「実はな近々大規模なクーデターが起こると言う情報を入手した。」

「クーデターですか?大規模と言うとどの位の規模を言うのですか?」

「おそらくだが、貴族の半分が敵になる。もはや内戦と言っても良いだろう。」

「ほう?そこまで現在の国王陛下は嫌われているのですか?」

「ふむ、そこなのだが、兄上は善政を敷いている、クーデターを起こすほどの不満を持つ貴族がそこまで居るとは思えんのだ。」

「何か裏がありそうですね。」

「うむ、王城にも影と呼ばれる部隊がおる。今、そこが動いている最中だ。」

 ほう?隠密がいるのか?忍者かスパイか解らんが、この世界も結構物騒だな。

「で、僕を呼んだのは、どう言う理由ですか?」

「伯爵はかなり腕が立つと言う話を聞いてな。協力を頼みたい。」

「まあ、今回の件はセリーの身内の話ですからね。協力は惜しみませんよ。」

「ありがたい。助かるよ。」

「あ、そうだ、今回のクーデター。魔人に気を付けて下さい。」

「魔人?魔人が何か関係するのかい?」

「実は人為的に人間を魔人化する実験をしている組織が居ます。既に2人の魔人が現れたのは知ってますよね?その他に2名が魔人として人に紛れて生活しています。」

「なんと?それは事実かね?」

「はい、今の所2名ですが、これから増える事は想像に易いですよね。多分、数が揃った時がクーデターの始まりになるのではないでしょうか?」

「そこまでするとは、誰の差し金だ。」

「クーデターを起こす人物の特定は出来ていないのですか?」

「ふむ、今の現状3侯爵は利権の奪い合いで、3竦み状態だ。もし、可能性があるとしたら、失脚したリッツバーグ侯爵の関係者かもしれん。」

「教会って言う可能性はありませんか?」

「教会?」

「はい、貴族と深い繋がりを持ち、各地に支部があり、更に権力を欲する組織と言うと僕には教会位しか思いつかないんですよね。」

「なるほど、それは盲点だったな。至急教会の動きも調べさせる事にする。」

「あ、魔人の方は僕に任せて下さい。50人位までなら何とか出来ますので。」

 そう言って、僕は席を立つ。セリーは後でゆっくり帰ってくれば良いと言って置いた。僕はちょっとあちこちに情報収集に寄ってから帰ると伝えた。

 公爵邸を出てすぐに魔道具屋に転移する。

「おやおや、どうしたんだい慌てて。」

「知ってる事を話してくれないか?」

「お主が求めてる情報かどうかは知らんが、10日後の夜に大規模な儀式が行われるそうじゃ。」

「10日後か。助かるよ。」

 そう言って家に転移する。部屋に籠ってブラスマイヤーと会議だ。

「10日後にクーデターが起きる。多分、魔人を使ったクーデターだ。事前に止める事は可能だが、そうするとまた同じ事が起きる可能性がある。この際だから、全部出し切らせてから潰したい。可能か?」

「魔人が関わっているなら可能だな。それにな、あの4本の短剣が儀式に使われるのなら、事前に誰が持っているか察知できるぞ。」

 なるほど短剣の事をすっかり忘れていた。

「短剣は今、何処にあるんだ?」

「短剣は一か所にまとめられているな。場所は貴族街にある教会の地下だ。」

 やはり教会か。しかも貴族街の教会ってここからすぐ近くじゃん。

「なあ、教会に地下があるのって普通なのか?」

「ああ、教会は万が一の時には町の人の避難場所になるからな。」

「避難場所って事は結構広い地下なのか?何人位入れる?」

「まあ、詰め込めば100人位は入るんじゃないか?」

 100人の魔人かぁ、あれ?儀式に生贄とか必要じゃ無いのかな?

「ブラスマイヤー、現在教会の地下に人が居るかどうか解るか?」

「今、現在は誰も居ない様だ。」

「この世界に生贄って言う思想はあるか?」

「ああ、あるぞ。」

 ヤバいなぁ。誰かが生贄になる事態は避けたい。一体どんな儀式を行うんだろう?

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