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 毎朝のルシルとの稽古は最早日課になっているので欠かせない。だいぶルシルの立体的な動きに付いて行けるようになったが、多分、ルシルは本気では無いだろう。条件が変わればまた違う動きをするはずだ。まだまだ上があると言うのは悔しい反面励みにもなる。

 午後はここの所さぼっていた魔道具作りを再開した。付与は後回しにして立体的なドラゴンのデザインを取り入れた指輪と腕輪を100個ずつ作った。

 その後エンチャント作業に入るのだが、今回は物理防御、魔法防御、状態異常回復、防汚の4つを付与した。刻印魔法は使って居ない。まだ付与魔法と刻印魔法のどちらが効果が高いのかの見極めが出来ていないからだ。

 今日は20個程付与して終わりにした。指輪や腕輪はコピーできるが、付与は1個1個施さなければならないので結構疲れるのだ。

 夕食の時間になる。広い食堂で僕とセリー、ルシルの3人で食事を取る。家族が居ないのでこういう状態なのだ。

 余談だが、ルシルは暗黒竜と言うだけあって綺麗な黒髪をしている。初めてここへ来た時にあまりに髪の毛がぼさぼさだったのでメイドが整えようと鋏を入れたら鋏が折れたらしい。それ以来、メイドが綺麗に髪をすいて後ろで束ねている。

 そう言えば、セリーも髪の毛は長く、後ろで束ねている。僕も同じような髪型だ。この世界ってあまり髪型とか無いのかな?周りを見るとメイドも似た様な髪型が多い。中には短くしている子も居るが、長い子は皆束ねている。パーマが無いのは解るが、ツインテールとか三つ編みとか無いのかな?

「ところでセリー、貴族のデートって普通はどういう所へ行くの?」

「そうですね、王道は舞台劇や歌劇ですね。」

「ほう?劇場があるんですか?」

「はい、王都には大小様々な劇場があります。唯一の娯楽と言っても良いでしょうね。」

「娯楽って少ないんですか?」

「大衆娯楽は少ないですね。劇場へ行くか、甘い物を食べるくらいですね。貴族になると、コットスと言うカードゲームがあります。これは非常にルールが難解な為、一部の貴族の間だけで流行ってますね。」

 ん~、娯楽かぁ。ここで地球の娯楽を持って来るのはこの世界に悪影響を及ぼしそうだな。

「貴族と言えばお茶会と言うイメージがあるのですが、セリーは呼ばれた事ある?」

「えっと、母に付いて何度か行った事がありますが、あまり愉快な物ではありませんよ。」

「ん?それはどういう事ですか?」

「大抵の場合派閥の話になります。派閥は足の引っ張り合いをしていますので、そう言った悪だくみを話し合う場の様ですよ。」

「お茶会って女性の交流の場ですよね?そこでも派閥争いの話題になるんですか?」

「そうですね、男性よりも女性の方が陰湿ですよ。」

 なんだろう、貴族のイメージが崩れて行く。僕のスローライフは大丈夫なのか?

「ところで、婚約発表から2週間位立ちますよね?そろそろ来ますよ。」

「え?何が?」

「お見合いの話です。」

「なんで、婚約したのにお見合いの話が来るの?」

「上級貴族は3人位は妻を娶ります。エイジさんは15歳で伯爵に上り詰めた新興貴族です。しかも、公爵家の娘を婚約者にしてるとなれば、将来有望と見て娘を売り込んで来る貴族は多いと思います。また、メイドを送り込んで来る家もあるかもしれません。商人等はあからさまに娘を妾として売り込んできます。」

「防ぐ方法は無いの?」

「売り込みは自由ですからね。ただ、こう言う時は派閥に助けを求めるのが一般的です。私としてはあまり沢山の妻を娶るのは歓迎しませんが、ある程度は覚悟しています。」

 ん?覚悟しているって言う事はハーレムOKって事?

「今の所セリーさん以外の妻を娶るつもりはありません。ただ、王様がどう動くかが心配ですね。僕はどうやら国王の派閥らしいです。」

「叔父様の派閥ですか、まあ、公爵家の派閥と叔父様の派閥は仲がが良いですから、この2つの派閥からの見合いは止められるでしょう。エイジさんは貴族の事にあまり詳しく無さそうなので、この家の事は私と執事のルーメンさんで何とかします。問題は、エイジさんが外に出ている時ですね。極力気を付けて下さい。」

「解りました。これからも色々貴族の事を教えて下さい。身近に貴族が居ないもので聞くに聞けない事が多くて。」

 その日はそれでお開きとなった。自室に戻り考える。

 ん~、本人に、婚約中に手を出すのはOKかNGかって聞けないよな。至急貴族の友達を見つけないとな。

「そう言えばブラスマイヤー。ドラゴンの血ってどうやって使うの?」

「ドラゴンの血はそのまま飲んでも万能薬の効果があるが、上級ポーションと混ぜるとより効果が高くなるぞ。エリクサー程強力では無いが、大抵の病気は治せるし、部位欠損も半年以内なら治せるはずだ。」

「ちなみに上級ポーションって作れるの?」

「材料があれば可能だな。」

「材料って高いの?」

「いや、材料は基本的に薬草だ。普通に町で買えるぞ。問題は製法だな。」

「製法が難しいの?ストレージでは作れない?」

「基本ポーションと言うのは初級、中級、上級どれも作り方は一緒だ。問題は素材の能力を何処まで引き出せるかになる。ストレージで作ると一律中級ポーションになる。」

「となると錬金魔法の出番かな?」

「そう言う事だな。」

「ちなみに上級ポーションって買うと高いの?」

「ああ、その時の相場もあるが、金貨2~3枚はするぞ。」

「よし、明日試しに作ってみるよ。」

 翌日の午後、薬屋へ行き、加工する前の薬草を分けて貰う。良く解らないが、ポーションに使う薬草は4種類。ポーション10本分くれと言ったら、金貨8枚取られた。高いのか安いのか分からない。ついでに小瓶も10本買った。

 部屋に籠り早速作業にかかる。

 ブラスマイヤー曰く、まず魔力水と言うのが必要だそうだ。これは魔法で作った水に更に魔素を加えて、一時的に非常に魔素の濃度を高くした水だそうだ。薬草の薬効成分を溶け出しやすくする効果があるらしい。

 次に薬草をすり鉢ですり4種類を混合する。この時の割合によって同じポーションでも薬効に違いが出るそうだ。僕はブラスマイヤーに言われるがままに分量を調節して行く。

 このすり潰し混合した薬草を魔力水に入れて、薬効成分を溶け出させる。目安は4時間位だそうだ。あまり長くても短くてもイケないらしい。4時間経ったら魔力水を布で濾して、安定させる。ここまでが下準備だ。

 最後の工程が一番重要だ。出来上がった魔力水にハイヒールを掛ける。ハイヒールを魔力水が80%以上吸い込めば上級それ以下だと中級になるそうだ。更に30%以下なら初級ポーションだ。これは通常のヒールと同等の回復力だ。

 思いっきり濃厚なハイヒールをお見舞いしてやる。鑑定してみると81%ギリギリハイポーションが出来た。

「意外に難しいもんだな。やっぱり、薬草の配合は慣れが必要って事かな?」

「そうだな、慣れも必要だが、薬草の鮮度も関係するぞ。使う薬草が解ったなら自分で採取した方が安いし新鮮だぞ。」

「なるほど、そう言うものか、ちなみに万能薬って幾ら位するんだ?」

「効能にもよるが、良く出来た物なら白金貨3枚位はするな。」

「高いなぁ。まあ、ドラゴンの血液自体が高いからその位になっちゃうんだろうな。」

 それから、2週間位、薬草採取と上級ポーション作りを続けた、最後には何とか90%超えの上級ポーションが完成した。まあ、この辺で満足しよう。

 指輪と腕輪も100個ずつ完成してるし。万能薬が10本出来たので、お婆さんに売りに行く。今日はルシルも連れて行く。

 魔道具屋に入ると、またしても誰も居ない。何処だと探していると不意に声が掛かる。

「おや、久しぶりだね。3週間も来ないから、もう来ないかと思ったよ。」

「ちょっと色々とあってね。今日は変わった物を持って来たよ。」

「ほう?見せて貰おうかね。」

 まず、立体ドラゴンの指輪を見せる。

「これは、また面白い物を作ったねぇ。これは買う人を選ぶが需要はありそうだ。4重付与と言うのもなかなか良いね。金貨20枚だそう。腕輪もあるんだろう?」

 ああと言って、腕輪も見せるこちらも立体だが飛んでいるドラゴンをモチーフにしている。

「このデザインは良いね。これは売れるよ。こっちは金貨30枚出そう。」

 指輪と腕輪100個ずつなので白金貨50枚だ。さらに万能薬を10本出す。

「これは幾らで買い取って貰えますか?」

「これは万能薬かい?100年ぶり位に見るね。効能も高いねぇ。良い仕事をする。これは全部で10本かい?」

「はい、満足できる製品は今の所これだけです。」

「解った、1本、白金貨5枚で買うよ。」

 全部で白金貨100枚だ。この店にそれだけ出せる金がある事に驚く。

 王様に貰ったのと同じような箱が出て来る。どうやら白金貨は1000枚で一箱と言う扱いの様だ。つまり箱で出てくれば1000枚あると言う事だ。

 お婆さんは箱から1列白金貨を取り出す。つまり100枚だ。僕がそれを受け取ると、なにやらお婆さんは考えて

「これが作れると言う事は素材を持ってるって事だね?もし目玉があるなら売ってくれないか?」

「構いませんよ。」

 そう言ってドラゴンの目玉を2つ出した。

「おお、2つもあるのかい。じゃあ白金貨30枚出そう。それでいいかい?」

「問題無いです。」

 白金貨130枚をストレージに入れて店を後にした。

 ドラゴンの目玉を何に使うんだろう?
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