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043 依頼?

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 さて、新商品を追加したのは良いが、俺の暇は相変わらずだ。午前中に食堂の卸と爺さんとの魔法訓練、ルルイとの武術訓練をこなすと、昼飯の時間。その後はローナを迎えに行くまでの時間が丸々空き時間になってしまう。

 最初の頃は新店舗の構想を考えたり、電子書籍を読んだりパッドを弄ったりして時間を潰していたが、3日もすると飽きてしまう。

 13時から17時までの4時間が無駄な時間になって居る。

 この際だから、また露店でも出そうかとも考えたが、それをやると後々面倒な事になりそうなので止めた。

 しかし、仕事もしないでぶらぶらしているのはどうも落ち着かない。

 そこで今日は冒険者ギルドに来ている。ルルイに聞いた所、冒険者ギルドには戦闘系以外の仕事も結構あると言うので覗きに来たと言う訳だ。

 午後のギルドは比較的空いている。夕方になると依頼達成の冒険者達が殺到するらしいが、昼過ぎのギルドは戦闘職よりも日雇いの労働者が多い様だ。

 それでも、4つある窓口は何処も埋まっている。なので、俺はルルイと一緒に依頼を見つける為の掲示板を見ていた。

 コルクボードの様な巨大な掲示板には依頼の紙がピンで留めてある。早朝に来ると大量の依頼の紙が貼り出されているとルルイが言っていた。

 この時間だと、半分以下の枚数しか貼り出されて無いそうだ。早速依頼の紙を端から読んで行くが、どれもこれも力仕事が多い。それから常時依頼と言う常に掲示されている依頼も幾つかあって、それは掲示板から剥がしてはイケないと言う。

 しかし、紙は貴重品なのに冒険者ギルドでは贅沢に使われているんだな。これなら俺の店で雑誌とか本とか販売しても大丈夫かもしれない。

 なんかRPGみたいなお使いクエストも結構ある。どうやら冒険者ギルドと言うのはハローワークも兼ねているらしい。

 折角なら、暇があるので日雇いでは無く、短期雇用の仕事は無いかと探したのだが、そう言うのは土木工事が多い。まあ、体力的には問題無いのだが、やるなら肉体労働より頭脳労働を希望していたのだが、どうやらそっちは商業ギルドの管轄らしい。

 一応商業ギルドのメンバーでもあるので、そっちに行こうかとも考えたが、そうすると冒険者ギルドにしか入って無いルルイがあぶれてしまう。

 何か無いかと色々と探していたら一つ変わった依頼を見つけた。家庭教師だ。もちろん勉強では無く戦闘と魔法の家庭教師らしい。通常こう言う依頼は貴族の子供の為に親が依頼するのだとルルイが言っている。

「となると、この依頼も貴族が絡んでいるのか?」

「いえ、依頼書の依頼人の欄に家名がありませんので、恐らく大きな商会の子供か何かだと思います。」

 なるほど金持ちの道楽か。戦闘はルルイが、魔法は俺がと受け持てばイケるな。報酬も悪く無い。と言うか、この依頼が何で残っているんだ?

 疑問に思った俺はルルイに聞いてみた。

「通常冒険者はパーティーを組んでいます。なので、こう言った少人数向けの依頼は残るんですよ。1人で両方教えられる者は限られますし、そう言う者は他の依頼でもっと稼げます。」

 なるほど、条件の良い依頼だと思ったが、冒険者にとっては中途半端な依頼と言う事か。

 と言う事で俺達はこの依頼を受ける事にした。

 受付に依頼書を持って行き、ルルイの名前で依頼を受けた。ルルイはCランクなので、ギルド的には最低ランクの俺が受けるより良いだろう。

 ちなみにこう言った依頼はパーティーで受けても個人で受けても報酬は変わらないそうだ。討伐系の依頼だと人数が多い方が有利らしい。

 依頼を受けた俺達は早速依頼人に会いに指定された場所へと赴く。場所は商業ギルドの近くの大商会が立ち並ぶ一角だ。ルルイの予想通り金持ちの道楽らしい。これなら楽勝だろう。

 期間は2週間となっているが、出来ればもう少し長いと嬉しい。その辺は交渉次第かな。

 着いた場所は巨大な屋敷だった。てっきり商会だと思ったのだが、貴族じゃ無いよね?

 当然のごとく呼び鈴は無い。代わりに門番が立っている。なんか嫌な予感がするのだが……

 門番に依頼書を見せ、冒険者ギルドから来た事を伝える。暫く待てと言われたので大人しく待つ。待つ事数分で、先程の門番が戻って来て、屋敷へと案内された。

 屋敷に入ると、いかにもな風体の執事が現れる。

「冒険者ギルドで依頼を受けた家庭教師です。もしかしたら、こちらは貴族様のお屋敷でしょうか?」

「いえ、当家はブライエン準男爵様の別邸でございます。厳密に言えばブライエン準男爵様の3男のエリオット様が当主ですので爵位はありません。なので貴族家かと尋ねられればいいえと答える事になります。」

 いやいや、十分それは貴族でしょう?

「そのエリオット様の家庭教師をすれば良いのでしょうか?」

「いえ、エリオット様の次女レイチェル様の家庭教師をお願いしたいと思います。」

 貴族の息子の次女か、まあ、ある意味平民なのだが、なんと言うかこんな屋敷で暮らして来たのであれば、平民の常識とか通用し無さそうだ。

「失礼ですが、魔法学院へ通うと言う選択肢は考えなかったのでしょうか?」

 俺の質問に執事の眉が一瞬だけピクリと動いた。

「当然、魔法学院へ通う事は考えました。しかし、このリストームの町から一番近い魔法学院はドライトス市になります。馬車で3週間は掛かる距離ですし、そこの寮に入るとしてもお嬢様には1人暮らしは難しいのでは無いかと。」

 下級貴族の治める領地は町、上級貴族が治める領地は市と呼ばれる。これは人口には関係無いが、市には魔法学院が必ずある。その為、自然と人口が増える傾向にある。

 また、迷宮都市と言うのもあり、ダンジョンの発生により自然と人が集まって出来た町だが、一定の人数に達すると領主が置かれる。この場合、下級貴族が任命される可能性が高く、人口が多くても町と呼ばれる事が多い。

「なるほど、事情は呑み込めました。それに魔法学院では身を守る戦闘術は教えてくれませんしね。お嬢様は冒険者になる事を希望しているのですか?それとも将来は魔法系の仕事に着きたいのでしょうか?その辺の事情に寄って教え方が変わって来ますので、予め聞いて置きたいと思います。」

 執事は、その辺はお嬢様本人から聞いて欲しいと答えた。

 まあ、お嬢様が戦うとは思えないので、魔法学院代わりに魔法を教えて欲しいと言った所だろうと勝手に推測する。

 応接間に通され、高級なお茶を飲んで待っているとローナと同じ位の歳の女の子がやって来た。

 赤髪に碧眼の整った顔の美少女だ。ただし若干背が低いかな?

「初めましてレイチェルです。家庭教師の依頼を受けて頂きありがとうございます。」

 美少女は貴族風にスカートを少し持ち上げて軽く頭を下げる。って言うか完全に貴族のお嬢様じゃん。どうすんの?

「とりあえず、お座り下さい。家庭教師を受けるに当たって幾つか質問をさせて頂きます。」

 そう言うとレイチェルは向かい側にゆっくりと座る。すかさずメイドが紅茶をテーブルに差し出した。

「レイチェル様は冒険者になりたいのでしょうか?それとも将来は魔法系の仕事に着きたいのでしょうか?」

「まず、様は止めて下さい。お2人は先生なのですから。それから、私は冒険者になりたいと思っています。おかしいでしょうか?」

 予想外の答えが返って来た。これは困ったぞ。冒険者になるのであれば、それなりの訓練が必要だ。当然、怪我をする可能性だってある。お嬢様に怪我をさせたら何を言われるか解らないぞ。

「ちなみに、それはご両親も納得されているのでしょうか?」

「はい。私の目標はSランク冒険者になって爵位を貰う事ですから。」

 いやいや、ハードル高すぎだし。貴族になりたいのであれば、貴族と結婚する方が現実的だと思うのだが。

「本気で冒険者を目指すなら相当ハードな訓練になりますよ?」

「解って居ます。それ程世間知らずではありません。」

 まあ、良い。徐々に厳しくして行って、音を上げたらそこで終わりって感じで行こう。あまり長い付き合いにはなりそうに無いけどね。
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