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040 ラザリン村?

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 と言う訳で、翌朝早くに食堂の卸を済ませて、その足でラザリン村に向かう。村までは9時間。なんとか明るい内に着く事が出来そうだ。

 ルルイがついて来ると言って居たが、プライベートな用事なので、時間があるなら食堂を手伝ってくれと言って置いた。

 それから、今日は帰れないと思うので、爺さんと食事をする様にと銀貨を2枚程渡して置く。爺さんが居れば風呂も入れるので大丈夫だろう。

 9時間の道程は問題無く過ぎた。まあ、未だにこの世界で魔物を見た事が無いのだが、何処に行けば会えるのだろう?

 やがて見えて来るのどかな村の風景。懐かしのラザリン村だ。そう言えば1か月位帰って無かったな。果たして、俺の事を覚えている人は居るのだろうか?

 さて、村の中央を抜けて南に向かう。俺の家は最南端にある。とりあえず家に戻ってから、何処に行くか考えよう。

 あの家はこの世界に来て初めて出た場所だ。調べたら何か判るかもしれない。そう思い、我が家へと急ぐ。

 暫く歩くと、バルザックさんの家が見えて来た。ここまで来ればもう家は近い。

 通り過ぎようとしたら、声を掛けられた。

「もしかして、タツヤさん?」

 この声は恐らくライザさんの物だろう。声の聞こえた方に顔を向ける。

 街道の方へ駆けて来るライザさんが見えた。俺の姿を見て慌てて駆けて来たのかな?

「お久しぶりですライザさん。お元気でしたか?」

「タツヤさんこそ生きてらしたんですね。良かったです。」

 あれ?俺は死んだと思われて居たのか?

「バルザックさんはお元気ですか?」

「父なら畑で仕事をしていますよ。時間があるのなら会って行って下さい。」

 まだ、暗くなる時間では無いので少しだけと言ってお邪魔する。

「おお、タツヤじゃないか、生きていたんだな。」

 みんなして勝手に殺さないで欲しい。

「お陰様で、リストームで商人の真似事をさせて貰っています。」

 新店舗で出す予定のお菓子を出して、冷たいミルクティーを勧めてみた。

「甘いお菓子ですね。もしかして砂糖を使ってるんですか?」

 少しだけねと誤魔化して置く。

「タツヤさんはリストームの町で稼いでいるのですね。」

 ライザさんがしみじみと言う。

「いや、忙しくはしてますが、稼ぐって程ではありませんよ。」

「そういや、お前さんの家。今は別の奴が住んでるぞ。何処へ行くつもりだったんだ?」

 え?何?どう言う事?バルザックさんの言葉に軽くパニックになる。この世界って不動産の扱いが適当なのか?

「もしかして、家って占有期限とかあるんですか?」

「占有期限ってのは良く解らんが、何も言わず2週間も帰らなければ死んだ者と思われても仕方が無いな。旅に出るなら村長にどの位の期間で帰ると言って置かないと駄目だぞ。」

 マジか、あの家を取られるとは思って居なかったよ。ボロ家だし、辺鄙な場所だったしね。まあ、1か月以上家を空けた俺が悪いのか。今日は、宿に泊まるしか無いかな。

 しかし、困ったな。あの家は多分あの空間と繋がっている。何かヒントになる様な物があるかと期待していたのだが、人が住んでいるんじゃ調べる訳に行かない。

 こうなると、この村の存在価値が一気に下がる。俺にとっては出身地と言う以外の意味が無い。正直、もう2度とこの村には来ないかもしれない。

 一度だけ行った事のある宿屋に泊まる事にしたが、やはりと言うか覚えては居なかった。

 村に1件だけあると言う商店は相変わらず賑わっているが、今の俺には何の価値も無い。この村で学ぶ物はもう無いな。明日の朝一番でリストームの町に帰ろう。

 宿屋の部屋でカップ麺を啜りながら考える。バルザックさん親子には世話になったが、他に知り合いも居ない。むしろあまり知り合いが出来る前に町に出て正解だったかもしれない。下手に知り合いを作るとそれが柵になる事もある。

 なんとなく故郷を捨てる様で多少感傷的になるが、町に帰れば多分忘れてしまう程度の事だろう。

 折角来たのにと言う思いはあるが、今の俺には意味の無い事に費やす時間は無い。少しでも時間があるのなら未来に続く何かを考えた方が建設的だ。

 翌朝、早朝に宿を立ち急いでリストームに向かう。しかし、途中で思わぬトラブルに見舞われる事になった。

 交通事故だ。

 2台の馬車がすれ違う時に衝突したらしく、馬車が横転して道を塞ぐ形になってしまっていた。

 この辺の街道は横幅が4メートル位しかない。そこに大型の馬車が2台も横転していると完全に道を塞がれる。

 また、馬が6頭衝突のショックで暴れていると言うカオスな状況だ。周りの人間も迂闊に手を出せない。馬が大人しくなるまで、馬車の中の人間も救出出来ない。

 横転した馬車から自力で出て来た商人と思われる男も、その場から動けない状況だ。

 さて、どうしよう?ここで下手に魔法を使うと目立ってしょうがない。だが、放って置くと何時間待たされるか解らない。これは、何か考えないと不味いぞ。

 まずは鑑定の魔法で6頭の馬を見る。殆どが『恐慌』『忘我』等のバッドステータスになっている。中には『狂暴』等と言う厄介な奴も居る。

 実を言えば、精神魔法の一種で『沈静』と言う魔法を最近爺さんに習った。恐らくこれを使えば何とかなると思うのだが、理論だけは習ったのだが、実際に使用した事は無い。

 と言うか、人前でまともに魔法を使った事が無いのだ。

 ぶっつけ本番でなんとかなるだろうか?まあ、これ以上事態が悪化する事は無いだろう。思い切って使ってみよう。

 ちなみにこの世界の魔法には詠唱が無い。元々識字率の低い世界だ、魔法を覚えるのも口伝が多い。魔法は理論を覚え理解すれば発動する。後はイメージが重要になる。同じ魔法を教わっても受け取る側が違えば発動する魔法も違った物になる。

 寄って、知識さえあれば魔法を自分で作る事も可能だ。幸いにして、俺はこの世界の文字が読める、そして現代日本の知識がある。そう言う意味では、この世界の賢者である爺さんが使えない様な魔法を創り出す事も可能だ。

 俺は、遠巻きに集まっている野次馬の中から、1頭の馬に向かって『沈静』の魔法を使ってみた。

 急に馬が大人しくなる。どうやら効果がある様だ。それを確認すると同時に他の馬にも鎮静の魔法を掛けて行く。

 6頭の馬が大人しくなると、身動きの取れなかった商人が、恐る恐る馬車から這い出て、こちらにやってくる。それを合図にした様に、周りの男たちが他の乗員の救護に向かう。

 助け出されたのは6人、最初に逃げ出した商人と合わせて7人が2台の馬車に乗っていた様だ。

「これで全員か?」

 冒険者風の男が叫ぶ。見た感じ皆怪我を負っているが、重傷者は居ない様だ。助け出された者達が周りを確認して、行方不明者が居ない事がすぐに判る。

「大きな事故の割に被害が少なくて良かったな。」

 野次馬たちの声が聞こえる。

 馬が6頭と言う事は4頭立ての馬車と2頭立ての馬車がぶつかったと言う事だ、普通なら2頭立ての方は大破してもおかしくないらしい。

 馬車の幅は1.8メートルと決められているらしいので、4メートル道路なら通常はすれ違う事が可能だ。だが、この世界の道は舗装道路では無い。小さな石や轍が馬車の進路を曲げてしまう事は良くある事だ。

 恐らくどちらかの馬車の速度が速すぎたのだろう。すれ違う時にふらつきぶつかってしまったと言うのが事故の顛末らしい。

 一方は荷馬車一方は客を運ぶ定期便だ。保険の無いこの世界で事故を起こしたらどう言う風になるか気にはなったが、明るい内に帰りたかったので、その場を後にして先を急ぐ。

 重症の怪我人が居たら回復魔法を使う準備をしていたのだが、幸い軽症者ばかりなので、冒険者の持っている初級ポーションで対応できるだろう。

 事故のせいで1時間近く時間を無駄にしてしまったが、なんとか明るい内にリストームの町に着いた。この時間なら夕食に間に合うだろう。今日は疲れたから爺さんとルルイと3人で食堂で温かい煮込みでも食おう。

 あ、風呂も入りたい。
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