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038 戦い方?

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 さて、新店舗が決まったのは良いのだが、少しばかり予定が狂った。

 ソリオさんに紹介して貰った業者と色々と打ち合わせをしたのだが、改装費に金貨30枚掛かると言われた。まあ、これは問題無い。今までの店の売り上げで十分に賄える金額だ。ソリオさんも、2号店を予想していたらしく、ちゃんと儲けから人件費を抜いた分を商業ギルドに貯金していた様だ。

 ちなみに什器はスチール製でも木製でもあまり値段が変わらなかったので、業者に頼む事にした。

 問題は、改装に2か月程掛かると言う事だ。俺の予想では1か月程度で改装は終わると考えて居たのだが、現代日本のリフォーム屋とこの世界の大工では技術もスピードも違う様だ。

 まあ、俺の描いた図面がこの世界では珍しい物だったと言う事も原因の一つに挙げられる。

 そう言う事で、既に食堂は俺が居なくても回る様になりつつある状況で、なんと2か月の暇が出来てしまった。

 もちろん、食堂に卸す調味料や飲み物等もあるし、新店舗の改装の様子見等、少しは仕事があるのだが、それ程時間が掛かる物でも無いし、毎日の仕事では無い。

 ちなみにローナも抜ける予定だったのだが、仕事をしないでお金を貰う訳には行かないと言うので新人のレジ指導に回している。

 こうなると、もう一人暇な人間が出る訳で、ルルイに俺の護衛と言う役割を与えた。

 まあ、食堂に行かなくてもお金は入って来るのだが、どうも暇なのは精神的に苦痛だ。ブラック会社時代の感覚がまだ残っているのだろうか?

 そこで俺は、空いている時間をルルイとの戦闘訓練に充てる事にした。

 ルルイは冒険者だ。前衛として、短剣と格闘術を使うと言う。武器は持ちたくないので、格闘術を教えて貰う事にした。

 場所は爺さんの家の庭を使わせて貰っている。まあ、すぐに風呂に入れるしね。

 と言う事で、今日が初日だ。

 俺は格闘とか全くの初心者なので、基礎の基礎から教えて貰おうと思ったのだが、獣人であるルルイは人に教えると言う事が苦手な様だ。理論立てて物を考えるよりも実戦で覚えるのが獣人スタイルだと言われた。

 一般的に獣人は人族より知能が低いとされているらしいが、これは誤解だそうだ。爺さんに聞いたのだが、獣人でも知能の高い者は居るし、脳の仕組みそのものが人族と獣人では違うのだと言う。

 同じ様に2足歩行で見た目もそれ程変わらず、話も通じるので勘違いしがちだが、獣人は亜人で、エルフやドワーフ等と一緒で、その起源からして人族とは違っている。

 この誤解から、獣人の扱いは悪く、差別的な扱いをされて居る者も多いと言う。国に寄っては迫害されている者も居るし、奴隷として扱われて居る者も多いと言われている。

 この国の獣人の扱いはまだ良い方らしいが、それでも獣人と言うだけで謂れのない差別を受ける事があるそうだ。

 ちなみに、この国にも奴隷制度はある。殆どが犯罪奴隷だが、中には騙されて奴隷になる獣人も多いらしい。

 犯罪奴隷と言っても、大した犯罪を犯した訳では無いと爺さんは言っていた。大罪を犯すと死刑になるので、奴隷に落ちるのはまだマシな方らしい。

 話が横道にズレたが、そう言う事で、理論を教わらずにいきなり組手をする羽目になった。まあ、手加減はしてくれるそうなので、何とかなると思いたい。

 庭でルルイと対峙すると、何処からでも掛かって来て良いと言う。そう言われてもどう攻撃すれば良いかも解らない。昔見たカンフー映画を思い出しながら、とりあえず、足を掬う様にしゃがんで回し蹴りを仕掛けてみた。

 次の瞬間何故か俺の足が掬われて居た。何がどうなったか全くわからない。

 Sランク冒険者との戦いでは体が勝手に動いたが、今回はそれも無かった。気が付くと俺は空を見上げている状態だ。

 ゆっくりと起き上がって、体の埃を払う。

 これって、練習になっているのだろうか?今夜にでも格闘映画でも見て勉強した方が良いかもしれない。

「なぁ、ルルイ。これじゃあ、訓練にならないよ。もう少し、子供でも解る様に教えて貰えないか?」

「今のは子供でも避けられる速度で軸足を蹴っただけですが?」

 あー、子供の頃から獣人って身体能力高いのね?

「じゃあさ、ゆっくり攻撃を仕掛けるから、ルルイもゆっくりそれに対応して貰えるかな?」

 ルルイが頷くのを確認してから仕切り直す。

 何と言うか、端から見たらダンスでも踊って居る様な稽古が始まった。これは人には見せられないな。

 それでも1時間もやっていると何となくこの世界の武術と言うのが解って来る。ルルイもそれが解ったのか、徐々にスピードを上げて来た。

 なんとなく形になって来たのでは無いかと思う。

 結構長い時間体を動かしていたのだが、思ったより疲れない。これもステータスのおかげだろうか?これなら明日筋肉痛に悩まされる事も無さそうだ。一旦休憩にして、2人で甘い物を食べる。飲み物は冷たい紅茶にしてみた。

 30分程休んでから、再び訓練を始める。だいぶ戦い方に慣れて来たので、今度はこちらからも攻撃を繰り出してみる。まあ、見事に避けられる訳だが、これはこれで練習になるだろう。

 やはり獣人の身体能力は人間のそれよりも遥かに優秀だ。考えるよりも先に体が反応している節がある。

 30分程攻防を繰り返していた所、誤って俺の攻撃がルルイに掠った。その瞬間、今までとは段違いに鋭い攻撃がルルイから飛んで来た。恐らく反射的に出た攻撃だろう。

 今の俺が避けられる攻撃では無い。だが、またしても俺の体が勝手に動き、その攻撃を躱していた。

 我に返ったルルイがごめんなさいごめんなさいと謝っている。いや、練習だし攻撃が当たる事もあるだろうに。

「大丈夫だ。問題無い。それよりも、今から10分間俺を殺す気で攻撃してみてくれないか?」

「殺す気でですか?でも……」

「問題無い。俺の考えが正しければルルイの攻撃は当たらないはずだ。」

 そう、恐らく、体が勝手に動くのは身に危険が迫った時では無いかと思う。今までの経験から、それを確認しておきたい。

 対峙したルルイの腰が引けているが、構わないから全力でやってくれと言う。

 少し迷った後、ルルイが意を決したように俺に飛び掛かって来た。思った以上に早い。まあ、Sランク冒険者の様に消える訳では無いが、それでも眼で追うのがやっとだ。

 攻撃が来る。と思った瞬間ルルイが横にスライドした。フェイントか?見えているだけに逆に引っかかってしまう。そこからの攻撃には対処できない。そう思った俺の体が勝手に動き、ルルイの攻撃を躱していた。

 俺もルルイも驚いている。が、ルルイの方が立ち直りが早い、更に技を変化させて追撃に出る。俺の体は、それにも反応していた。俺は暫く自分の体の動きに逆らわない様にして、どう動くのか観察していた。

 そして、7発程ルルイの攻撃を躱した頃、俺の体が、ルルイの攻撃の後の隙を狙いやすい場所に移動している事に気が付く。なるほど、躱しながらも攻撃に転じられる様に動いている訳だ。

 しかし、攻撃の隙は見えているのに、俺の体は躱すばかりで攻撃を仕掛けない。もしかしたら、俺がルルイを倒そうと考えて居ないからかな?もし、相手が完全な敵なら、俺からも攻撃が出るのかもしれない。

 とりあえず、今はこの動きに慣れる事に集中しよう。動きに慣れれば、自分で戦えるようになるはずだ。恐らく『武術の心得』と言うギフトはそう言う物だと俺の感が言っている。

 『剣士の素質』と言うギフトもあったが、そっちは使うつもりは無い。まあ、必要があれば別だが、今の所武器を扱う事はしたくない。現代日本人としては殺すと言う行為に対して禁忌がある。

 武術で敵の動きを封じられれば十分だろう。

 暫くは暇があるので、ルルイに付き合って貰おう。

 稽古は2時間程で終わりにした。昼食を食べた後は、市場調査にでも出るかな?17時になったらローナを迎えに行くついでに食堂に顔を出さなくては。
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