上 下
25 / 55

025 新店舗?

しおりを挟む
 翌朝、何時もより早めに市場に行くと既にソリオさんとキリクが来ていた。

「まだ、ライムさんが来てませんが、皆さん店舗の事が気になる様なので、お話しましょう。結論から言いますと、店舗は確保出来ました。移転した食堂の後なので、椅子やテーブル、キッチン周りはそのまま残って居ます。掃除さえすればそのまま開店可能な店舗です。正直条件は悪く無いと思います。ただ、その分家賃が若干高くなります。月に銀貨9枚ですが、十分回収できる金額だと思ったので即決しました。」

 なるほど、すぐに開店可能な店舗を抑えたか、流石はソリオさんだな。店舗なら1日金貨3枚は稼がないとイケないな。

 まあ、キッチン周りがそのままと言う事は魔道コンロがあると言う事だよね?カセットコンロは地味にコストが高いからな。

「じゃあ、今日はその店舗を見に行きましょう。出来るなら掃除もしてしまって、明日には開店出来る様にしたいのですが?」

「そうなると、今日の店はどうします?他はともかくパンの販売はしないと困る人も出るのでは?」

 そこへライムがやって来た。皆で難しい顔をしてたので不審に思った様だ。

「どうしたんですか?」

「いや、新しい店舗が決まったんだが、見に行くと店が留守になるだろう?」

「店舗が決まったんですか?私も早く見たいです。」

 だよな、当然皆早く見たいに決まっている。

 幸い新店舗は市場内にあるので、それ程遠くは無い。ならばここは、交代で見に行くしか無いよね。

「悪いがキリクとローナそしてルルイは店番を頼む。今日はロールパンとチューハイのみの販売にするので、対処は難しく無いだろう。午後になったら交代要員を送るので、午前中だけ我慢してくれ。」

 俺は、その場で厚紙に簡単な地図を書き、キリクに渡す。明日から、ここで店を開くと宣伝して貰う為だ。

 大きめのバッグ5つに150袋のパンを入れて、キリクに渡し、チューハイは氷水の入った桶に入るだけ入れた後、レモンとグレープフルーツを5ケースずつ地面に置いて、ローナに時々補充する様にと伝えて置く。

 不満が出るかなと思ったが、意外に2人共素直に受け入れている。まあ、稼がないと給料出ないしね。

 俺とソリオさんとライムの3人で新店舗へ向かう。ソリオさんが所々ショートカットするので、思った以上に早く着いた。直線距離だとかなり近いのかもしれない。

 店の外観は悪く無い。まあ、少し前まで営業して居たので、古さは感じるが、廃墟感は無い。

 引き戸を開けて中に入ると埃臭い臭いと、食堂独特の匂いが混じり合った匂いがする。

 一通り見て回りながら生活魔法のクリーンで掃除をして行く。何故か、俺のクリーンは他の人より範囲が広いと言われた。魔力の大きさの問題か?

 入ってすぐにテーブルと椅子がずらりと並んでいる。頑丈なのは良いが汚い。クリーンを掛けても染み込んだ汚れは取れなかった。

 まあ、テーブルにはテーブルクロスでも掛ければ少しは見栄えが良くなるだろう。奥にはカウンターがあり、10人程座れる。テーブル席と合わせて30人も入れば満員だ。右奥にレジ?があり、そこから厨房に入れる。

 厨房は思ったより広い。2口の魔道コンロの他に、薪の竈や水がめ等も設置してある。調理台は広めにとってあり、3人並んで調理が可能だ。恐らくここで5人位なら働けるだろう。更に奥にはバックヤードと言うか、倉庫の様な部屋があり、更に仮眠室も付いている。

 トイレは店に1つバックヤードに1つ計2つ付いている。

 当然だが風呂は無い。厨房に外へ出るドアが付いていて、外に出ると小さな庭と井戸がある。庭には香草っぽい物が植わっている。キッチリと柵で分けてあるので雑草では無いだろう。

 正直良い物件だと思う。若干汚いのはアレだが、この配置は長年の経営の末のレイアウトだろう。恐らく、明日から開店しても問題は出ないはずだ。

 厨房が広いので簡易の冷蔵庫を作って置こうと考えて居る。まあ、基本食材は半日持てば良い。更に売れるなら追加で購入すれば良いのだから。

 少し大きめのクーラーボックスを購入して保冷剤を入れて置けば簡易冷蔵庫になるだろう。

「良いですね。これなら明日からでも開店出来そうです。」

「でしょう?ここが空いた時に目を付けていたんです。ただ、その分家賃が高めですけどね。」

 ここで家賃が9万円なら安い方だ。と言うか、家賃をケチって他の店にしたらどんな物件が来たか考えるだけで怖い。多分、開店に1か月とか掛かりそうだ。

「上手くすれば明日には開店出来そうですね。俺が手を入れて置きますので、2人は戻ってキリクとローナをこっちに呼んでやって下さい。」

「解りました。確かに露店をそのまま持って来れば明日にでも開店は可能ですね。明日はここに集合と言う事で皆に伝えて置きます。」

 お願いしますと返事をして、俺は、店に少しだけ手を入れる。基本はこのままで問題無い。簡易冷蔵庫の設置と、テーブルクロスを引く位だ。

 あれ?そう言えば店の名前を考えて居なかったな。今、この店には『黄金の麦亭』と言う看板が掛かっている。

 作業をしながら店の名前を考えるが、そもそもこの世界の店の名前の付け方が良く解らない。

 暫く作業をしていると、キリクとローナがやって来た。

「わぁ。大きなお店ですね。広いですし、ここなら沢山売れそうですね。」

 ローナが無邪気に喜んでいる。キリクの方は色々と眺めながら何やら考えている様だ。

「どうした?キリクは何か不満があるのか?」

「いや、そうじゃなくて。ほら、俺は一時雇いだろう?正規の店員が入ったらお払い箱なのかなと思って。」

 なるほど、そんな事を考えて居たのか。

「心配するな。正規の店員を雇うつもりは無い。雇うのは料理人位だな。」

 日本の飲食店だって、殆どがアルバイトで店を回して人件費を減らしてるからね、この世界で商売するにしても人件費は少ない方が良い。

「料理人を雇うなら、俺にも料理を教えて貰えませんか?」

「ん?キリクは料理人志望なのか?」

「いえ、最初は商人志望だったのですが、タツヤさん達の店で働いて気持ちが変わりました。あの店で出す料理は革新的です。是非自分で覚えて独立したいと思いました。」

 んー、それは難しいかもしれないぞ、何しろ俺が居ないと仕入れが出来ないんだからね。

 でも、まあ、この世界の素材でも調理次第では面白い物が出来る可能性はあるな。

「解った。じゃあ、この店舗が開店したら調理人見習いとして正式に雇用しよう。賃金はソリオさんと相談して決めるから、少し待ってね。」

 キリク少年がガッツポーズを取っている。

 ローナはその様子を微笑ましい光景を見る様な眼差しで見ている。まあ、ローナと俺とソリオさんはオーナー扱いだからな。何もしなくても給料が出るんだよね。

 ローナはそう言う子じゃないと解ってるから良いが、狡い奴なら店舗に移転するついでに追い出す所だ。

「ソリオさんに聞いたと思うが、明日から朝はこの店に集合だ。出来れば明日の朝にはこの店を開店させたい。明日は試験的に色々な商品を出すので何か意見があったらどんどん言って欲しい。」

「「解りました!」」

 さて、エールの置き場所もちゃんとあるし、他に必要な物は無いだろうか?

 そう言えば食堂は、夜には酒場になると言うが、うちはどうしよう?現在は16時で閉店しているが、閉店時間を17時に伸ばして、酒類の売り上げも確保した方が良いだろうか?

「なあ、食堂ってエールとワイン、蜂蜜酒位あれば十分だよな?うちは未成年が多いから夜に酒場をやるつもりは当分の間無いんだけど。」

「そうですね、食堂だけと言うのであれば、お酒はあまり種類は要らないと思いますよ。」

 すぐさまローナが意見を言う。キリクは先程の余韻からまだ覚めて無い様だ。

 なるほど、アルコール類は最低限で、食事のバリエーションを増やすのが良さそうだ。

 日本のファミレス辺りを参考にすれば良いかな?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-

三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。 悠久はチートを要求するが、女神からの返答は 「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」 見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。 しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!? 手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...