上 下
16 / 55

016 芋?

しおりを挟む
 さて、大きめの鍋にたっぷりの油を注ぎ、とりあえず1キロのフライドポテトを半分程揚げている。

 冷凍物のストレートカットなので、揚がるまで結構な時間が掛かる。シューストリングならもう少し時短出来るのだが、あれは揚げて数分で冷めて固くなってしまうからな。

 俺的には皮付きの串切りタイプが好きなのだが、皮付きは好みが分れる所だ。じっくりと火を通してきつね色になったポテトを油切りで掬いバットに広げる。素早く塩を振って、軽くかき混ぜるとポテトの良い香りが辺りに漂う。

 日本人なら間違いなく誘われる匂いだが、この世界の住人はどうだろう?

 何人かの人間が俺が何をしているのか伺っている様子だ。作業に集中していたので気が付かなかったが、何時もより若干人が多く集まっているかな?

 トングを使って紙コップにポテトを入れて行く。思ったより紙コップって容量あるね。1つのコップに100グラム位は入る様だ。

 500グラム揚げたから紙コップ5個分だ。

「ソリオさんローナ。出来上がったから味見頼みます。販売は代わりますから。」

 そう言うと2人が後ろに戻って来る。代わりに俺が前へ出た。

 お客さんが数人居たが、どうもパンよりポテトが気になってる様だ。

「なぁ、兄ちゃん。あれは何だ?」

「えーと、芋を揚げた物ですが?」

 この世界に揚げると言う調理法は無い。どう翻訳されているのだろうか?

「芋って、あの芋か?あれを油で煮ただけでこんなに良い匂いがする物なのか?」

 あの芋って言うのは恐らく俺の家の庭に植わって居た芋の事だろうな。

「まあ、厳密に言うと品種は違いますが、あの芋で間違いありませんよ。たっぷりの油で時間を掛けて火を通すととても美味しい揚げ芋が完成します。」

「油をあんなに大量に使うなんて贅沢な話だな。」

 あれ?この世界って油も高いのかな?後でソリオさんに聞かないと。

「なぁ、兄ちゃん。あれを味見させて貰う訳には行かないのか?」

 どうなんだろう?と後ろを振り向いたらソリオさんが紙コップに入ったポテトを両手に持ってこちらへ来た。どうやら、こうなる事を予想していた様だ。

「ここは任せて、タツヤさんはもう少し芋を揚げて貰えますか?」

 その場はソリオさんに任せて、俺は再び鍋の元へ戻る。

「これは美味しいですね。きっと売れますよ。」

 ローナがそう声を掛けてからソリオさんの応援に向かった。

 俺は追加でポテトを1キロ購入して、鍋に入るギリギリのライン。700グラムのポテトを火にかけた油に投入した。

 あまり大量に揚げると温度が下がって時間が掛かるから、これが精一杯かな。

 そうなると1回に揚げられるポテトは7人分になる。まあ、売れる様なら鍋を2つにするとかすればどうにかなるだろう。

 一人分が100グラムなら仕入れ値は30円だ。銅貨1枚で販売しても儲けは出る。紙コップ代を乗せても儲けは60円。商売的にはどうなんだろう?この辺もソリオさんと相談だな。

 前の方では何やら試食会が始まっている。俺は鍋を見て居ないとイケないのでそこには参加できない。

 10分程でカップに7つのフライドポテトが出来上がったのでトレイに乗せて販売台の方へ持って行く。

 すると物凄い勢いであちこちから手が伸び、みるみるうちにフライドポテトが消えて行く。

 美味いと言う言葉とエールが欲しいと言う言葉がかろうじて聞こえた。

「今日の試食会はこれでおしまいです。明日から販売致しますので御贔屓にどうぞ!」

 ソリオさんがそう言うと集まった人たちがはけて行く。あれ?パンは?

 どうやら、ポテトが揚がるのを待つ間に相当な数のパンが売れたらしい。

「明日から販売するんですか?価格とか決めて無いですよね?それに、ポテトは熱い内に食べないと美味しく無いですよ?」

「それは串焼きでも同じ事ですよね?出来たてが美味しいのは料理の基本ですからそれは問題にはなりません。問題は価格ですね。串焼きと同じく銅貨2枚までなら客も出すと言って居ました。これって原価はどの位になりますか?」

 流石ソリオさん試食をさせながら価格のリサーチもしていたらしい。

「1人分の仕入れ値は入れ物も含めて鉄貨4枚と言った所ですね。」

「ほう?すると銅貨2枚で売ればかなりの儲けが出ますね。」

「そこなんですが、儲けが出る程の個数が出ますかね?」

 1個160円の儲けでは相当な数を売らないとイケないのでは無いだろうか?それに芋のフライって真似しようと思えば真似出来るんじゃないかな?調味料も塩しか使って無いし。

 ソリオさんとローナが言うには、市場に出回っている芋ではこの味は出ないとの事だ。恐らく品種の違いだろうが、この世界の芋には若干の粘りと甘みがある。もしかしたらジャガイモの需要が出るかもしれないな。

「それに、この芋を食べるとエールが飲みたくなると言う声が多かったですね。私の伝手でエールの販売も同時にしようと思っています。エールの仕入れは1杯鉄貨5枚で、販売価格が銅貨2枚です。エールならば1杯と言わず2杯3杯と飲む人も居ますので、おのずと客単価が上がりますね。」

 幸い、俺達には3人分のスペースがある。上手く椅子とテーブルを置けば、飲食スペースも取れるだろう。立ち飲み屋と言う手もある。

 そうなると、フライドポテト以外のおつまみも売れそうだ。

 ただ、原価を考えると出せる物は限られて来そうだが。 

 こうなって来ると店が欲しくなって来るな。店ならば、それなりの料理も出せるしね。例えばインスタントラーメンでも、この世界ならば結構な値段で売れそうな気がする。

 電子レンジがあれば色々な料理に使えるんだけど、この世界には電気が無いからなぁ。発電機を購入してもガソリンが売って無いし。車のバッテリーを購入したんじゃコストが掛かり過ぎる。ソーラーパネルじゃそこまでのパワーが無いし。何より目立ってしょうがない。やはり家電は諦めるしか無さそうだ。

 ちなみにネットスーパーで飲み物を買うと冷えたまま届く。ただ、箱買いをすると常温だ。なので、その場で飲むのなら冷えた飲み物も提供可能だ。

 冷蔵庫があればもっと色々と考えられるのだが、これはいずれ魔法で解決するしか無さそうだ。

 とりあえず火は使えるので、そっち方面で何か考えた方が良さそうだな。
 
 揚げ物はカセットコンロを使うとして、出来れば他の物は炭火を使いたい。その方がコストが低い。

 そう言えば、例の串焼き屋は毎日2本ずつ焼き肉のタレを仕入れに来る。軌道に乗った様で、安定して客が来るそうだ。

 串焼きが銅貨3枚で売れるのなら、焼き鳥はどうかな?仕入れを考えると銅貨2枚はキツイかな?

 等と考えて居たら、今日の分のパンが完売した。まだ3時を少し回った所なので、制限が無ければもっと売れてたかもしれない。

 そこへ冒険者らしき4人組が現れた。ソリオさんが今日の分は完売ですと告げたのだが、彼らは何やら別の用事がある様だ。

「あー、俺達はパンを買いに来た訳ではない。いや、パンを欲しているのは事実なのだが、冒険者の携帯食って知ってるか?」

 冒険者の携帯食と言えば、俺のアイテムボックスに入って居たアレだよな?硬くてボソボソしたパンと塩漬けにしてから乾燥させた干し肉。

「干し肉は食べ方で何とかなるんだが、問題はパンの方でな。」

 彼らの話に寄ると干し肉はナイフで薄く削いでからお湯か水で塩抜きするとそれなりに食べられるのだそうだ。だが、依頼の途中でスープが用意出来ない時等はパンを水でふやかして食べるそうだ。聞いただけで不味そうだ。

「そこでだ、保存が効いて柔らかいパンと言うのは手に入らない物だろうか?と相談に来た訳だ。」

 ソリオさんはパンは焼き立てで食べるのが一番だからな。普通のパンは持って2~3日だろうと言って居る。

 そもそもあの固いパンはどうやって作っているんだろうか?それと値段はどの位するのかな?と疑問をぶつけて見る事にした。

「携帯食のパンは水分を極力少なくして焼いていると聞いた事がある。値段は1個銅貨2枚が相場だな。」

「それで、何日位持つんですか?」

「10日位は持つぞ。ただし、雨に濡れたりするとカビが生えるがな。」

 なるほど、乾パン程長期保存出来る訳では無いんだな。だとすればアレがあるけど、普通のパンより高くなってしまうが、どうだろう?

「流石にうちで販売しているパンよりは柔らかく無いですが、そこそこ柔らかくて長期保存が効くパンはありますよ。ただし、値段が若干高くなりますがそれでも構わないと言うのであればお譲りします。」

 確か、自販機販売や災害時持ち出し用の長期保存パンと言うのがゾンアマで売っていたはずだ。プレーンな物なら1個80円位で買えたはず。

「それは、どの位長期間持つんだい?」

「そうですね。1か月位は持ちますよ。」

 冒険者達が大いに驚いている。それが本当なら少しくらい高くても購入すると言う。ならばと1箱12個入りのパンを購入して1つ取り出す。

「これなんですけど、試食してみますか?」

 俺は包丁とまな板を取り出し、パンを4つに切り分けてやる。冒険者達はそれを口にして更に驚く。

「これは、普通のパンより柔らかくて甘いじゃ無いか。これが本当に1か月も持つのか?」

 箱には賞味期限35日と書いてあるから問題無いだろう。俺ははいと答え、値段は1個銅貨3枚で如何でしょう?と言ってみた。

 冒険者達は結構稼いでいる様で1個銅貨3枚は安いと言って1人10個ずつ40個購入して行った。

 彼らが宣伝してくれれば、また新しい商品が増えるかもしれない。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-

三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。 悠久はチートを要求するが、女神からの返答は 「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」 見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。 しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!? 手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

処理中です...