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009 出店?

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 翌朝、ノックの音で目覚めた。ドアにカギは無いが、内側から閂を掛ける事は出来る。

 ドアを開けると見知らぬ少女が立っていた。

「お客さん。おはようございます。下でローナちゃんが待っていますよ。」

 ん?何でローナが?待ち合わせをした記憶は無いが?って、もしかしたらこの子がローナの言って居たリルケちゃんかな?

「解った。すぐに行く。ありがとう。」

 部屋をざっと見まわし忘れ物が無い事を確認すると急いで階段を下りる。ローナが女将さんと何やら話をしていた。

「遅くなったな。済まない。」

「大丈夫だよ。家、隣だし。」

 女将さんに今日も泊まると告げ大銅貨3枚を渡す。そして、ローナの後をついて宿屋を出た。

 ちなみに、今日販売する商品は既に用意してある。昨日色々考えたが、あまり良いアイデアが浮かばなかったので無難な物にして置いた。まあ、今日の販売中に何かヒントがあるかもしれない。

 それに今日の目的は市場に出店する予行練習みたいなもんだしな。

「しかし、ローナは小さいのに結構力があるな。荷物半分持とうか?」

 そう言うとローナは頬を膨らませて、子供じゃないもんと怒った顔をする。

 いや、どう見ても子供だろう?そう言えば年齢を聞いていなかったな。外国人の年齢は解り辛いしね。でも、金髪碧眼で、少しそばかすの有るローナの顔は明らかに幼い。恐らくあと4,5年すれば美人になるのだろうが。

「ちなみにローナって何歳なんだ?」

「12歳だよ。学校へ行ける年齢だから子供じゃ無いよ。」

 どうやら12歳と言うのはこの世界では高校生くらいに相当するらしい。成人年齢が15歳だと言うから、微妙なお年頃なのね。

「俺の丁度半分だな。まあ、俺から見たら子供で間違って無いだろう?」

「え?タツヤさんって24歳なの?てっきり15歳位かと思ってた。」

 あ?幾ら東洋人が若く見られると言っても、俺が15歳とかありえないだろう?いや、そう言えば、ライザさんも俺の年齢を聞いて吃驚していたな。

「しまったな。言わなきゃ良かったかな?」

「大丈夫タツヤさんは見た目が若いからおじさんじゃ無いよ。」

 って事は24歳はこの世界ではおじさんな訳だ。

 そんな事を話していると市場へと着く。俺とローナは割り当てられた場所に向かう。

 ローナがゴザを広げる。その隣に俺はレジャーシートを広げた。

「昨日も思ったんだけど、それってアイテムボックスですよね?」

 ローナが目ざとく声を掛けて来た。

「アイテムボックス持ちは珍しいのか?」

「商会の人には居るけど、この市場では珍しいかも。って言うか、アイテムボックスがあるなら市場で物を売らなくても、商会で雇って貰えるんじゃ無いですか?」

 ローナの説明に寄ると、アイテムボックス持ちは商品の運搬作業だけでもかなり儲かるらしい。だから、大抵のアイテムボックス持ちは商会に雇われるか、自分で商会を立ち上げるそうだ。

「なるほどな。でも、俺はこうやってお客さんと対面で物を売りたいんだ。」

「タツヤさんは変わってますね。」

 その言葉を背に、俺は昨日ショップで仕入れたフェイスタオルと石鹸を展示する様に並べる。

 石鹸は見本を1個出して残りは1つずつ箱に入って居る。まあ、1個100円程度の品なんだけどね。紙の箱ってこの世界では珍しいんじゃないかと思って選んだ。

 フェイスタオルも1枚200円程度の安物だが、無地の色付きを5色ほど選択してみた。

「それ、石鹸ですか?」

「ああ、結構良い香りがするぞ。幾ら位の値段を付けたら良いと思う?」

 ローナに石鹸を渡すと匂いを嗅いで吃驚している。恐らく香り付きの石鹸はこの世界には無いのであろう。

「普通の石鹸でも大銅貨1枚はしますよ。これなら大銅貨2枚は取れますね。そっちのカラフルな布は何ですか?」

「これは顔や体を拭く布だが、使った事無いのか?」

 タオルも1枚渡してやる。ローナは感触を確かめる様に頬にスリスリしている。

「こんなに高そうな布で顔や体を拭くんですか?貴族みたいですねぇ。」

 あれ?庶民は顔を洗わないのか?

「朝、起きたら顔を洗うだろう?何で拭くんだ?」

 そう質問したらローナが変な顔をした。

「顔を洗うんですか?普通は生活魔法で綺麗にしますよ?」

 え?何?生活魔法?

「すまんが、生活魔法ってのを知らないんだが、教えてくれるか?」

「タツヤさんって、何処から来たんですか?生活魔法と言うのは、着火、灯り、浄化の3つの魔法の事で、大抵の人は6歳までに覚えます。」

「魔法って誰でも使えるのか?」

「そうですよ。この世界に魔力を持たない人は居ません。生活魔法が使えない人ってのは聞いた事が無いですね。攻撃魔法とかは魔導書を買って練習しないと駄目だって聞きますけど。」

 なんてこった。魔法がある世界だとは聞いていたが、この世界の住人全員が魔法を使えるなんて聞いて無いぞ。

「ローナ。頼みがあるんだが、俺にその生活魔法を教えてくれないか?」

「良いですけど。タツヤさんは文字が読めますよね?なら本で勉強した方が楽ですよ。生活魔法の本は教会で無料で貸して貰えますし。」
 
 無料なのか?でもいい年のおっさんが教会で本を借りるのは恥ずかしいしな。

「んー、やっぱりローナが教えてくれないかな?24歳で生活魔法が使えない人って居ないんだろう?」

「良いですよ。早い子は3歳で覚えますから、タツヤさんなら2~3日で覚えられると思います。」

 ん?ちょっと待てよ。そんな生活魔法があるんじゃ、タオルや石鹸は売れないんじゃないか?

 と、ローナと話をしていたら、後ろから人の気配が。バッと振り向くと、昨日の串焼き屋のおっちゃんが居た。

「旦那、例のタレですが、まだ持ってます?出来ればあと2本程欲しいのですが。」

 どうやら、あの後日が暮れるまでかなりの本数売れたらしい。

「構わないよ。2本で大銅貨6枚だ。」

 そう言いながらショップ画面を操作して業務用の焼き肉のタレを購入する。そう言えばこれって、売り切れとか無いのかな?

 昨日と同じ様にラベルを剥がしてから渡す。

「助かります。」

 とりあえず1200円が6000円になった。滑り出しとしては良い方だろう。

 だが、残りの商品がなぁ。幸い、売れるかどうか分からなかったので大量買いしてなかったのが救いだな。並べてある商品を合計しても5000円位だ。

 商品の陳列が終わったら、客が来るのを待つだけだ。すぐに客が来るとは思えないので、ローナに生活魔法を教えて貰おう。

「そう言えばローナは朝食は食べたのか?」

「はい、うちは農家なので朝が早いんです。」

 ほう?ローナの家は農業をやっているのか。

「じゃあ、その木工製品は誰が?」

「お爺ちゃんとお父さんが畑で、お婆ちゃんとお母さんが木細工をやっています。」

 ああ、なるほど、そうやって収入の柱を増やしているのか。でもって、販売は子供か。

「月に幾ら位の儲けになるんだ?」

「そうですね。銀貨1枚になれば目標達成と言った所です。」

 なるほど、1個400円の商品を1か月で1万円かぁ。ん?それって1日1個売れればOKって事じゃ?そんなに売れない物なのか?

 商売舐めてたかな?

「悪いが、俺はまだ朝飯を食って無いんだ。隣で食ってたら気になるか?」

「いえ、大丈夫です。遠慮しないで下さい。」

 俺はネットスーパーの画面を開いて簡単に食べられる物を探す。サンドウィッチと缶コーヒーで良いかな。と買い物をしていると、ふとある物が目に留まった。それもついでに購入する。

 アイテムボックスからサンドウィッチを取り出し噛り付く。んー、やっぱスーパーよりコンビニの方がサンドウィッチは美味いかな。

 ふと横をみるとローナが不思議な物を見る目でこちらを見ている。

「ん?何か変か?」

「いえ、始めて見る食べ物なので。」

「これか?パンに具を挟んだだけの物だぞ?」

「え?その白いのパンなんですか?そんなに真っ白なパン初めて見ました。」

 あら?もしかして、やらかしちゃった系?

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