上 下
44 / 49
エルト王国編

Report44. 異世界の監視者

しおりを挟む
「なんだよ……何も映ってねえじゃねえか。」

羽倉は目を細めてイサミモニターを凝視したが、その画面は真っ白な背景を映すだけであった。

「結局これどういう状況なんだ?イサミの意識はあんのかよ?」

羽倉の問いにも、日比谷は首をかしげることしかできない。

「わからない。通信が途切れているのならモニターはブラックアウトするはずだ。だが、今現在モニターは何も映しこそしないものの正常に作動はしている……。この状況には何かしらの意味があるはずだ。イサミから私たちに何か伝えたいことがあるのかもしれない。もう少し様子をみてみよう。」

日比谷たちが静観を決め込もうとしたその時、

ザ…ザザ……

「な…なんだ!?」

モニターの音声にノイズが入る。

「しっ!静かに!何か聞こえるぞ!」

『も……き…ま……すか…?』

「女性の声……?」

明らかにイサミのものではない、女性の声がモニターから聞こえてくる。
ノイズまじりの音声は少しずつ明瞭になっていき、やがてはっきりとした女性の声が聞き取れるようになった。

『もしもし?聞こえておりますか?』

どこか優しさを感じる女性の声だ。
日比谷は直感的にそう感じた。

そしてこれはイサミ自身ではなく、恐らく画面越しの我々に話しかけているのだろう。
そう判断した日比谷は毅然とした態度で、画面の向こうにいる女性に応える。

「はい、あなたの声はこちらに届いております。私はイサミの産みの親である日比谷 恭二と申します。」

見知らぬ相手にいきなり本名を名乗った日比谷を見て、羽倉は目を丸くする。
しかし、そんなことはお構いなしにと日比谷はさらに続ける。

「これはイサミのシステムに組み込まれている私とイサミだけをつなぐ通信です。その通信に介入することができるあなたは一体何者なのですか?」

『……そうですね。なんと言えば良いのでしょうか?あなたたちが異世界と呼んでいる、世界の監視者とでも言っておきましょうか。』

「異世界の…監視者?」

日比谷は昂ぶる気持ちを押さえつけるように、呼吸を整える。

「異世界の監視者がなぜ私たちに通信を?」

『イサミを救って欲しいからです。その為に私はあなたにコンタクトを取りました。』

「何故…?あなたにとって、イサミを救うことに何かメリットがあるのですか?」

『はい……彼は世界を平和に導く力を秘めています。だから救ってほしいのです。』

「世界の監視者であるあなたが、こんな個人に肩入れをするような真似をして良いのですか?」

『正直……危険な賭けです。他の監視者に見つかったら、恐らく私の存在は消されてしまうでしょう。』

彼女の声色からも事態は逼迫していることがうかがえる。
自身の存在をかけて発信をしている彼女の誠意に応えない訳にはいかない。

「わかりました、必ずイサミを救います。」

日比谷は、そう力強く応えた。
イサミを救いたいという気持ちは日比谷自身も負けてはいない。

「まずは、どうしたら良いですか?」

『イサミの破損データをそちらに転送します。そのデータを24時間以内に修復してください。』

「24時間以内だって!?何でタイムリミットがあんだよ!?」

羽倉はたまらず画面越しの女性に苦言を呈す。

『申し訳ございません。今現在異世界の時を止めていて、その限界が24時間までと定められているのです。』

「流石に24時間でなんて、いくら日比谷でも……!」

そう言いかけた羽倉を日比谷は手で制する。

「……わかりました、やってみせます。すぐにデータを送ってください。」

『ありがとうございます。それでは今からデータをお送りします。』

そう言った後、日比谷所有のパソコンに一通の通知が届く。

『今、お送りしたのがイサミの破損データです。修復が完了したらモニターに声をかけてください。修復データを私が吸い上げるように致します。それではよろしくお願いしますよ、日比谷 恭二。』

そう言い終わると、女性の声はプツンと途切れる。
そして、白いままだったはずのモニターには、とある数字が浮かびあがるのであった。

23:59:48

その数字は刻々と減り続けている。

「あれがタイムリミットを表してるって訳か……!おい、日比谷!大きく出たはいいがちゃんと時間内に修復できるんだろーな!?」

その羽倉の問いに日比谷は愚問だと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。

「何遍も言わすなよ……この私を誰だと思っている。自他とも認める天才科学者の日比谷 恭二だぞ!イサミは私が必ず救う!それが分かったら羽倉、今すぐエナジードリンクを箱で買ってこい!ダッシュでな!」

イサミを救える道がある。
そしてそれは自分の手に委ねられている。

先程まで死んでいた日比谷の眼には輝かしい希望の光が宿っていた。

「ふっ……やっぱお前はそうじゃなくっちゃな。」

完全復活を果たした日比谷を見て、羽倉は優しく微笑む。
そして日比谷の要望通り、ダッシュでエナジードリンクを買いに向かうのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

私、のんびり暮らしたいんです!

クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。 神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ! しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...