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第20話:ホーム・スイート・ホーム【完結】
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「ただいま~」
「ルーイ」が扉を開け、灯明トーチライトの魔法を使うと、ぽっ、ぽっ、ぽっ……と玄関と階段に明かりがともっていった。
「よっこいせ。……着いたぞ、ノア」
「アーロン」の背中から下ろされて、ノアが玄関に立つと、アーロンはぐるぐる巻きにしていた毛布や上着をほどいた。
「俺は晩御飯の用意してくるから、先に風呂と着替え頼む」
「そうだな。めちゃくちゃ汚れてるもんな。……ほら、こっち行くぞ」
アーロンと一緒に、あったかいお湯がたっぷり入った大きな木の桶に入って、頭のてっぺんからつま先まで、でっかい手で、わしゃわしゃわしゃわしゃと洗われた。
「あったかい……。それにおっきいね」
ノアが目を丸くして言うと、アーロンは、
「そうだろ! ルーイがお風呂大好きだから、クエストの報酬ででっかい風呂作ったんだ!」
と尖った犬歯を見せて笑った。
ノアにとってお風呂とは、洞窟の中を流れる川で、ちゃぷちゃぷと体を洗うことで、温かいお湯に体をつけるのは、初めてのことだった。
風呂から上がると、柔らかい布でゴシゴシと拭かれた。着替えがないので、とりあえずルーイのシャツとハーフパンツを着せてくれたが、大きすぎてだぶだぶだ。
「俺は、いったん風呂桶洗っちゃうから、先に階段を上がってなんか食べてな」
そう言ってアーロンは、風呂桶のお湯を流し、たわしでゴシゴシと洗い始めた。
「ちゃんと掃除しないと、ルーイに怒られちゃうからな~♪」
階段を上ると、二階は食事を食べる部屋になっていた。
ルーイが鍋に入った煮込みのようなものを出している。
「おっ、さっぱりしたな! ダブダブだけど似合ってるぞ!」
とニコニコして、椅子に座るよう言った。
ノアが、おそるおそる椅子に腰かけると、ルーイは鍋からお椀に食べ物をよそって、スプーンと一緒にノアの前に置いた。肉と野菜を煮込んだもののようで、ほかほかと湯気が立っていた。
ちらりとルーイを見上げると、
「先に食べてていいぞ。お腹空いてるだろ」
と言われたので、ノアは、スプーンでちょっとすくって、おそるおそる口に入れてみた。
「はふっ、あったかい……」
ほっぺの内側がぎゅぎゅっとなってしまうほど、おいしかった。
お肉だと思っていたものはトロトロだった。なのでお肉じゃないのかもしれない。
「ルーイ、お湯が汚れちゃったから、いったん風呂桶洗っておいたぞ~」
言いながら、アーロンが階段を上がってきた。
「ああ、ありがとう。……ってお前、シャツ着ろよ」
は~い、と言いながら、アーロンが小脇にかかえていたシャツをかぶった。
「うんま~っ! 肉やわらか~い!」
「出かける前に火を通しておいて、鍋を毛布でくるんでおいたからな。保温されて長時間煮込んだのと同じ効果が得られるわけだ」
ニッコニコでほおばるアーロンに、ルーイが「えへん」と胸を張った。やっぱりさっきのトロトロは、お肉だったらしい。
「腹減ってたから、思ってたより早く戻れてよかった」
「そうだな。……まさか、こんなちっちゃい子一人だったとはな」
ルーイが、テーブルの反対側から手を伸ばし、ノアのまだ濡れた頭を撫でた。
ノアは、『神様の家族』として生まれた。
ノアよりも大きな男の人は全員「お兄さん」、女の人は全員「お姉さん」、そして偉い「お父さん」と「お母さん」がいた。
みんなで、洞窟の奥にいる「神様」に祈りをささげるのが「家族」のお仕事だった。
「いきち」を捧げると「神様」は喜ぶとお兄さんやお姉さんが言っていた。
時々、知らない人が洞窟に入ってくると、「お父さん」と「お母さん」は、「神様」に「いきち」を捧げた。
ある時、武器を持った人たちがいっぱいやってきた。
ノアは、怖かったので、祭壇の石蓋をずらして開けて中に入り、蓋を閉めて隠れた。
すごい音がいっぱいして、そしてそのうち静かになった。
祭壇からノアが這い出ると、「お父さん」「お母さん」「お兄さん」「お姉さん」は、全員いなくなっていた。
それからノアは、一人で洞窟で暮らした。
食べ物がなくなったので、おそるおそる洞窟の外に出てみた。すると果物がいっぱいついている木がいっぱい並んで生えているところがあったので、むしゃむしゃ食べた。
食べきれないぶんは、洞窟の中に持って帰って食べることにした。
そんなある日、洞窟にまた誰かがやってきた。
怖かったので、やっぱりまたノアは、祭壇の中に隠れた。
絶対に見つからないと思っていたのに、
「なんか匂うなあ~」
「ルーイ、ここ、誰かいる~!」
という声が聞こえてきて、ゴトゴトと石蓋が開けられてしまった。
やってきた二人は、「アーロン」と「ルーイ」と名乗った。
色々聞かれたので、ノアがどうやって暮らしてきたのか話したら、なんだかよくわからないうちに、上着やら毛布やらでぐるぐる巻きにされ、アーロンの背中におんぶされて、この家まで連れて来られてしまったのだ。
「ノア、お前何歳なんだ?」
「知らない」
アーロンの質問に、ノアはお肉をはふはふしながら答えた。
「う~ん、見た感じ、6~7歳くらいかなぁ……」
「明日、母ちゃんのところに連れて行って、俺の小さい頃の服が残ってないか見てみるか~」
「役所やギルドと話さないとな~」
その日の夜は、アーロンとルーイと一緒の布団で寝た。布団も、隣に寝ているアーロンとルーイの体温もあったかかった。
「お布団、あったかい……」
そう言うと、アーロンが、大きな手で頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。ルーイの温かい手が、布団の中でノアの手を握った。
こんなに、ぽかぽかして、おなかがいっぱいで眠るのは、初めてかもしれない。ノアはあっという間に眠りに落ちていった。
◇ ◇ ◇
ノアが眠りに落ちたころを見計らって、アーロンとルーイは、そっと布団から出た。
二階で、温かいお茶を入れると、ルーイは「はぁーーー……っ」と長いため息をついた。
二人が引き受けたのは「邪教の残党の掃討」というクエストだった。
ある洞窟に、通りすがりの旅人を殺しては邪神に捧げる、宗教集団が巣食っていた。
その宗教集団は主導者を「父」「母」、信徒を「兄弟姉妹」ととらえ、「父母」の命令には絶対服従として信徒に人を襲わせていた。
そこで、軍隊主導で大規模な掃討作戦が行われ、主導者含め多数の信徒は死亡、生存者はすべて逮捕又は保護された。
それで解決かと思いきや、それから何か月もたって、近所の果樹農家から「果物が盗まれた。夜に見張っていたら、怪しい人影が果物を盗って、洞窟に入っていった。邪教の残党だったら怖いので掃討してほしい」という依頼があったのだ。
依頼を受けたルーイとアーロンが洞窟を探索したところ、それらしき信徒は誰もおらず、唯一見つけたのが、祭壇の中に縮こまって隠れていた、小さな男の子だったのだ。
ノアと名乗った子供は、ぼさぼさに伸びた髪の毛に、ボロボロの汚い服を着て、身体からは何とも言えない異臭が漂っていた。
たまらず家に連れて帰ってきて、風呂に入れてご飯を食べさせてやったら、土色だった頬や指先がポカポカとピンク色になって、ルーイは胸が苦しくなった。
「あのさ、アーロン……」
「あのさ、ルーイ……」
二人同時にぽつりとつぶやいてしまった。
「先にどうぞ」と譲り合った結果、ルーイが話し始めた。
「もしも役所とかの色んなことがクリアできたら、なんだけどさ……」
ルーイは言葉を区切った。
「あの子のこと、引き取れないかな……」
それでいいのかどうか自信はない。もしかしたら、施設に預ける方が正解なのかもしれない。これから先、他にもかわいそうな子に出会うかもしれない。でも、どうしてもルーイには、放っておくことはできなかった。
寄る辺の無い身の上で、自分がフィンガルやアーロンにもらったものを、手渡してあげたい……。
そう思ったのだった。
するとアーロンは、ぴょこんっと椅子から飛び上がり、
「俺も同じこと考えてた!」
と言ってルーイに抱きついた。
◇ ◇ ◇
大きなお皿を一つ、中くらいのお皿を一つ、小さいお皿を一つ。
お盆に乗せて、シチューの入った小鍋とお玉も乗せる。
後ろから、ノアがパンの入ったカゴを持ってついてくる。
二人は、三階から続く階段を上って、丘の上の屋上庭園に出た。
アーロンが、屋上のランタンに火をともしていた。
雑草が伸び放題だった屋上庭園は、アーロンとルーイが手入れして、今は野菜や香草、錬金素材になる植物などを育てている。
屋上庭園の石段は、並んで腰かけるのに、ぴったりの幅だった。
二人だとゆったり座れて、チューしたり膝枕したりする余裕もある。
三人だと、こうして体をくっつけてぴったり座れる。
「お星さま、流れてないよ? 昨日と同じだ」
ノアが夜空を指さした。
「お空の星が全部流れるわけじゃないんだよ。じっと見ていればそのうち見られるさ」
ルーイがフフッと笑って、お椀にシチューを入れて配った。
アーロンも、パンをナイフで切って、三人に配る。
「ごはん食べながら見ような」
ノアが、シチューのついたパンをかじりながら、
「あっ!」
と言って夜空を指さした。
無数のまたたきの中から、一筋、スッと軌跡を描いて光が流れていった。
「わあ……」
息を呑んで夜空を見上げたノアのプニッとしたほっぺを、ルーイは目を細めて見つめた。
ルーイも夜空を見上げると、また一筋、夜空に小さな光が流れていった。
「ずっとずっと、ずーっと一緒にいられますように……」
ルーイは小さくつぶやいて、ノアの背中に手を伸ばして、さらにその隣にいるアーロンの腕に手を絡めた。
アーロンが、もう片方の手で、その手を包み込むように握った。
「ルーイ……今、最高にいい匂いした」
「……うん、俺、今最高に幸せだから……」
星降る丘の上で、二つの大きな影と、一つの小さな影が、一つになった。
───────
お し ま い
「ルーイ」が扉を開け、灯明トーチライトの魔法を使うと、ぽっ、ぽっ、ぽっ……と玄関と階段に明かりがともっていった。
「よっこいせ。……着いたぞ、ノア」
「アーロン」の背中から下ろされて、ノアが玄関に立つと、アーロンはぐるぐる巻きにしていた毛布や上着をほどいた。
「俺は晩御飯の用意してくるから、先に風呂と着替え頼む」
「そうだな。めちゃくちゃ汚れてるもんな。……ほら、こっち行くぞ」
アーロンと一緒に、あったかいお湯がたっぷり入った大きな木の桶に入って、頭のてっぺんからつま先まで、でっかい手で、わしゃわしゃわしゃわしゃと洗われた。
「あったかい……。それにおっきいね」
ノアが目を丸くして言うと、アーロンは、
「そうだろ! ルーイがお風呂大好きだから、クエストの報酬ででっかい風呂作ったんだ!」
と尖った犬歯を見せて笑った。
ノアにとってお風呂とは、洞窟の中を流れる川で、ちゃぷちゃぷと体を洗うことで、温かいお湯に体をつけるのは、初めてのことだった。
風呂から上がると、柔らかい布でゴシゴシと拭かれた。着替えがないので、とりあえずルーイのシャツとハーフパンツを着せてくれたが、大きすぎてだぶだぶだ。
「俺は、いったん風呂桶洗っちゃうから、先に階段を上がってなんか食べてな」
そう言ってアーロンは、風呂桶のお湯を流し、たわしでゴシゴシと洗い始めた。
「ちゃんと掃除しないと、ルーイに怒られちゃうからな~♪」
階段を上ると、二階は食事を食べる部屋になっていた。
ルーイが鍋に入った煮込みのようなものを出している。
「おっ、さっぱりしたな! ダブダブだけど似合ってるぞ!」
とニコニコして、椅子に座るよう言った。
ノアが、おそるおそる椅子に腰かけると、ルーイは鍋からお椀に食べ物をよそって、スプーンと一緒にノアの前に置いた。肉と野菜を煮込んだもののようで、ほかほかと湯気が立っていた。
ちらりとルーイを見上げると、
「先に食べてていいぞ。お腹空いてるだろ」
と言われたので、ノアは、スプーンでちょっとすくって、おそるおそる口に入れてみた。
「はふっ、あったかい……」
ほっぺの内側がぎゅぎゅっとなってしまうほど、おいしかった。
お肉だと思っていたものはトロトロだった。なのでお肉じゃないのかもしれない。
「ルーイ、お湯が汚れちゃったから、いったん風呂桶洗っておいたぞ~」
言いながら、アーロンが階段を上がってきた。
「ああ、ありがとう。……ってお前、シャツ着ろよ」
は~い、と言いながら、アーロンが小脇にかかえていたシャツをかぶった。
「うんま~っ! 肉やわらか~い!」
「出かける前に火を通しておいて、鍋を毛布でくるんでおいたからな。保温されて長時間煮込んだのと同じ効果が得られるわけだ」
ニッコニコでほおばるアーロンに、ルーイが「えへん」と胸を張った。やっぱりさっきのトロトロは、お肉だったらしい。
「腹減ってたから、思ってたより早く戻れてよかった」
「そうだな。……まさか、こんなちっちゃい子一人だったとはな」
ルーイが、テーブルの反対側から手を伸ばし、ノアのまだ濡れた頭を撫でた。
ノアは、『神様の家族』として生まれた。
ノアよりも大きな男の人は全員「お兄さん」、女の人は全員「お姉さん」、そして偉い「お父さん」と「お母さん」がいた。
みんなで、洞窟の奥にいる「神様」に祈りをささげるのが「家族」のお仕事だった。
「いきち」を捧げると「神様」は喜ぶとお兄さんやお姉さんが言っていた。
時々、知らない人が洞窟に入ってくると、「お父さん」と「お母さん」は、「神様」に「いきち」を捧げた。
ある時、武器を持った人たちがいっぱいやってきた。
ノアは、怖かったので、祭壇の石蓋をずらして開けて中に入り、蓋を閉めて隠れた。
すごい音がいっぱいして、そしてそのうち静かになった。
祭壇からノアが這い出ると、「お父さん」「お母さん」「お兄さん」「お姉さん」は、全員いなくなっていた。
それからノアは、一人で洞窟で暮らした。
食べ物がなくなったので、おそるおそる洞窟の外に出てみた。すると果物がいっぱいついている木がいっぱい並んで生えているところがあったので、むしゃむしゃ食べた。
食べきれないぶんは、洞窟の中に持って帰って食べることにした。
そんなある日、洞窟にまた誰かがやってきた。
怖かったので、やっぱりまたノアは、祭壇の中に隠れた。
絶対に見つからないと思っていたのに、
「なんか匂うなあ~」
「ルーイ、ここ、誰かいる~!」
という声が聞こえてきて、ゴトゴトと石蓋が開けられてしまった。
やってきた二人は、「アーロン」と「ルーイ」と名乗った。
色々聞かれたので、ノアがどうやって暮らしてきたのか話したら、なんだかよくわからないうちに、上着やら毛布やらでぐるぐる巻きにされ、アーロンの背中におんぶされて、この家まで連れて来られてしまったのだ。
「ノア、お前何歳なんだ?」
「知らない」
アーロンの質問に、ノアはお肉をはふはふしながら答えた。
「う~ん、見た感じ、6~7歳くらいかなぁ……」
「明日、母ちゃんのところに連れて行って、俺の小さい頃の服が残ってないか見てみるか~」
「役所やギルドと話さないとな~」
その日の夜は、アーロンとルーイと一緒の布団で寝た。布団も、隣に寝ているアーロンとルーイの体温もあったかかった。
「お布団、あったかい……」
そう言うと、アーロンが、大きな手で頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。ルーイの温かい手が、布団の中でノアの手を握った。
こんなに、ぽかぽかして、おなかがいっぱいで眠るのは、初めてかもしれない。ノアはあっという間に眠りに落ちていった。
◇ ◇ ◇
ノアが眠りに落ちたころを見計らって、アーロンとルーイは、そっと布団から出た。
二階で、温かいお茶を入れると、ルーイは「はぁーーー……っ」と長いため息をついた。
二人が引き受けたのは「邪教の残党の掃討」というクエストだった。
ある洞窟に、通りすがりの旅人を殺しては邪神に捧げる、宗教集団が巣食っていた。
その宗教集団は主導者を「父」「母」、信徒を「兄弟姉妹」ととらえ、「父母」の命令には絶対服従として信徒に人を襲わせていた。
そこで、軍隊主導で大規模な掃討作戦が行われ、主導者含め多数の信徒は死亡、生存者はすべて逮捕又は保護された。
それで解決かと思いきや、それから何か月もたって、近所の果樹農家から「果物が盗まれた。夜に見張っていたら、怪しい人影が果物を盗って、洞窟に入っていった。邪教の残党だったら怖いので掃討してほしい」という依頼があったのだ。
依頼を受けたルーイとアーロンが洞窟を探索したところ、それらしき信徒は誰もおらず、唯一見つけたのが、祭壇の中に縮こまって隠れていた、小さな男の子だったのだ。
ノアと名乗った子供は、ぼさぼさに伸びた髪の毛に、ボロボロの汚い服を着て、身体からは何とも言えない異臭が漂っていた。
たまらず家に連れて帰ってきて、風呂に入れてご飯を食べさせてやったら、土色だった頬や指先がポカポカとピンク色になって、ルーイは胸が苦しくなった。
「あのさ、アーロン……」
「あのさ、ルーイ……」
二人同時にぽつりとつぶやいてしまった。
「先にどうぞ」と譲り合った結果、ルーイが話し始めた。
「もしも役所とかの色んなことがクリアできたら、なんだけどさ……」
ルーイは言葉を区切った。
「あの子のこと、引き取れないかな……」
それでいいのかどうか自信はない。もしかしたら、施設に預ける方が正解なのかもしれない。これから先、他にもかわいそうな子に出会うかもしれない。でも、どうしてもルーイには、放っておくことはできなかった。
寄る辺の無い身の上で、自分がフィンガルやアーロンにもらったものを、手渡してあげたい……。
そう思ったのだった。
するとアーロンは、ぴょこんっと椅子から飛び上がり、
「俺も同じこと考えてた!」
と言ってルーイに抱きついた。
◇ ◇ ◇
大きなお皿を一つ、中くらいのお皿を一つ、小さいお皿を一つ。
お盆に乗せて、シチューの入った小鍋とお玉も乗せる。
後ろから、ノアがパンの入ったカゴを持ってついてくる。
二人は、三階から続く階段を上って、丘の上の屋上庭園に出た。
アーロンが、屋上のランタンに火をともしていた。
雑草が伸び放題だった屋上庭園は、アーロンとルーイが手入れして、今は野菜や香草、錬金素材になる植物などを育てている。
屋上庭園の石段は、並んで腰かけるのに、ぴったりの幅だった。
二人だとゆったり座れて、チューしたり膝枕したりする余裕もある。
三人だと、こうして体をくっつけてぴったり座れる。
「お星さま、流れてないよ? 昨日と同じだ」
ノアが夜空を指さした。
「お空の星が全部流れるわけじゃないんだよ。じっと見ていればそのうち見られるさ」
ルーイがフフッと笑って、お椀にシチューを入れて配った。
アーロンも、パンをナイフで切って、三人に配る。
「ごはん食べながら見ような」
ノアが、シチューのついたパンをかじりながら、
「あっ!」
と言って夜空を指さした。
無数のまたたきの中から、一筋、スッと軌跡を描いて光が流れていった。
「わあ……」
息を呑んで夜空を見上げたノアのプニッとしたほっぺを、ルーイは目を細めて見つめた。
ルーイも夜空を見上げると、また一筋、夜空に小さな光が流れていった。
「ずっとずっと、ずーっと一緒にいられますように……」
ルーイは小さくつぶやいて、ノアの背中に手を伸ばして、さらにその隣にいるアーロンの腕に手を絡めた。
アーロンが、もう片方の手で、その手を包み込むように握った。
「ルーイ……今、最高にいい匂いした」
「……うん、俺、今最高に幸せだから……」
星降る丘の上で、二つの大きな影と、一つの小さな影が、一つになった。
───────
お し ま い
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