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第5章 夏霞
1番近くて遠い存在
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今日も彼女は、ボロボロにった靴を見ながら歩いている。
その姿に彼女はいつか壊れてしまうのではないかと、恐怖を抱いていた。
すぐに樹の元へと駆け寄り優しく肩に手を置く。
「樹、大丈夫?」
その声に振り返り、彼女は私に挨拶をした。
「やぁ、雅。」
力の無い声。
夏にも関わらず着ている長袖。
可哀想に、父親にまた酷く殴られているのだろう。
私は何も出来ない事への腹立たしさを抑えながら、彼女の隣を歩く。
何とかしてあげたい、その気持ちばかりが先を行く。
でも何もしてあげられない。
だから口ばかりになってしまう。
1番辛いのは樹なのに、簡単に現状を変える事なんて出来ないのに。
どうしても口走って、難しい事をあたかも簡単かのように言ってしまう。
「ねぇ、警察に行こうよ。」
ほら、またこうやって簡単に言う。
「行っても変わらない。前も警察に電話をしてくれた人がいて家に来たけど、何も変わらなかった。」
樹も変える気は無い。
少しの勇気があればどうにでもなるはずなのに。
そんな気持ちがさらに腹立たしさを呼び起こして、つい大きな声で「そんな事ないよ!」と言ってしまう。
私の声はいつだって届かない。
彼女は私を見てくれない。
また足元を見て歩き出す彼女の隣に、肩を並べて歩くことしか出来ない。
私は樹の事が大好きだ。
だからこんなにも何とかしたいと思う。
あの家には魔物が住み着いている。
樹を悲しませる魔物。
私はそれから守る事なんて出来ない。
だからせめて、隣を一緒に歩きたい。
1番近くにいるのに、遠くにいる。
少しでも樹に近づきたい。
少しでも支えになりたい。
私の気持ちは樹には届かないと思う。
私の声は暑苦しい蝉の声にかき消されるのだから。
その姿に彼女はいつか壊れてしまうのではないかと、恐怖を抱いていた。
すぐに樹の元へと駆け寄り優しく肩に手を置く。
「樹、大丈夫?」
その声に振り返り、彼女は私に挨拶をした。
「やぁ、雅。」
力の無い声。
夏にも関わらず着ている長袖。
可哀想に、父親にまた酷く殴られているのだろう。
私は何も出来ない事への腹立たしさを抑えながら、彼女の隣を歩く。
何とかしてあげたい、その気持ちばかりが先を行く。
でも何もしてあげられない。
だから口ばかりになってしまう。
1番辛いのは樹なのに、簡単に現状を変える事なんて出来ないのに。
どうしても口走って、難しい事をあたかも簡単かのように言ってしまう。
「ねぇ、警察に行こうよ。」
ほら、またこうやって簡単に言う。
「行っても変わらない。前も警察に電話をしてくれた人がいて家に来たけど、何も変わらなかった。」
樹も変える気は無い。
少しの勇気があればどうにでもなるはずなのに。
そんな気持ちがさらに腹立たしさを呼び起こして、つい大きな声で「そんな事ないよ!」と言ってしまう。
私の声はいつだって届かない。
彼女は私を見てくれない。
また足元を見て歩き出す彼女の隣に、肩を並べて歩くことしか出来ない。
私は樹の事が大好きだ。
だからこんなにも何とかしたいと思う。
あの家には魔物が住み着いている。
樹を悲しませる魔物。
私はそれから守る事なんて出来ない。
だからせめて、隣を一緒に歩きたい。
1番近くにいるのに、遠くにいる。
少しでも樹に近づきたい。
少しでも支えになりたい。
私の気持ちは樹には届かないと思う。
私の声は暑苦しい蝉の声にかき消されるのだから。
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