上 下
37 / 45
第8章 パパとボク

空白の場所

しおりを挟む
私達は白い空間の中にいた。
階段をどれくらい登ってきたのだろうか。
不思議と疲れは感じなかった。
辿り着いた先には何も無く白い空間だけ。
当たりを見渡すが他には何も無い。
どこに行けばいいのか分からないような場所へと来てしまった。
「ここ、どこだろう。」
隣で不安そうにしているレンタロー。
「歩いていても、道標も無ければ道も無い。つまり、どこを歩いているのか分からないという事だね。」
私はレンタローに説明するように話す。
私達がこの先どうすれば良いのか分からず困っていると、
「貴様ら何者だぁ?」
少し低い声が聞こえてきた。
その声にレンタローは驚き、体をビクつかせていた。
私は警戒し、声の主を探したが姿は見当たらない。
「誰だ!」
私が叫ぶと白い空間の中から少しずつ、その主は姿を現した。
そこには綺麗な金髪を揺らし、紳士を感じさせるような服装をした男がいた。
「それはこっちのセリフだぁ。」
見た目とは違い、気だるそうな話し方をする男。
「お前は何者だ!」
「ワタクシですかぁ、ワタクシはここの番人をしてますぅ。」
「この白い空間は何?ここは人があの世に行ける場所じゃないの?」
「えー、あの世に行けるようにワタクシがその方達を案内してるんですよぉ。」
男は頭をかきながら私達に近寄って来たが、さっきまで気だるそうだった顔は、不思議なものを見る目へと変わった。
「お前たちぃ、ちゃんとした死者じゃないですねぇ。そこの小さい坊ちゃんは自殺者ですねぇ。そしてその隣のお嬢ちゃんは死者の魂を送る存在ではありませんかぁ。」
この男は私たちを見ただけで、どんな存在なのかを把握した。
相当出来る男であると私は確信した。
「この何もない空間は何?どうやってここから次の場所に行くの?」
「そんなに質問責めしないで下さいよぉ、質問したいのはワタクシの方なんですからぁ。」
私と男の間には緊張感が漂っていた。
それを感じ取ったように、レンタローが私の服の袖を掴んだ。
「私たちはある死んだ人間に会いに来た。この子どもの父親だ。あんたなら分かるんだろう?この子の父親がどこにいるのか。」
「なるほどぉ、これは面白い。本当はワタクシ共の職務放棄になるのですが、面白そうなのでお教えしましょう。」
男は笑いながら私たちにそう伝えると、空を切るように手を動かした。
私たちは周りを警戒しながら、何が起きるのか待った。
すると空の上から大きい扉がドスンと音を立てて落ちてきたのだ。
「さぁて、お入りなさい。ここからどうするかはお前たちが決めなさい。」
ニヤニヤしている男の後ろの扉はギギギ…と音を鳴らして開いていく。
「この扉は何?」
「坊や、お父様はここにいると思いますぅ。」
男はレンタローに話しかけ、レンタローも開いていく扉に釘付けになっていた。
「パパ…。」
小さく呟く声。
レンタローは扉に向かってゆっくり歩き出し、私はそんな彼を追うように、隣を歩く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

猛獣・災害なんのその! 平和な離島出の田舎娘は、危険な王都で土いじり&スローライフ! 新品種のジャガイモ(父・作)拡散します!

花邑 肴
ファンタジー
自分の意志とは関係なく、遠く、海の向こうの王都に強制移住させられることになってしまったミリア。 失意のまま王都行きの船に乗るも、新しくできた友だちから慰め励まされ、決意も新たに王都での新生活に思いを馳せる。 しかし、王都での生活は、なれ親しんだ故郷とはかなり勝手が違っていて――。 馴れない生活様式と田舎者への偏見、猛獣騒動や自然災害の脅威etc…。 時に怒りや不安に押しつぶされそうになりながらも、田舎仲間や王都の心優しい人たちの思いやりと親切に救われる日々。 そんな彼らとゆっくり心を通わせていくことで、引っ込み思案なミリアの人生は大きく変わっていく。 これは、何の取柄もない離島の田舎娘が、出会った田舎仲間や都人(みやこびと)たちと織りなす、穏やかであっても危険と隣り合わせの、スローライフ物語(恋愛あり)

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

天使と死神

茶野森かのこ
ファンタジー
怠け者な天使と優秀な死神、二人が仕事でバディを組むお話です。 天界にある、世界管理局。そこでは神様の下、天使と死神がこの世界の為に働いていた。 天使と死神には、それぞれ役割があり、持つ力が異なる。 死神は奪う力を持ち魂を天界に連れ、天使は天界の管理や神様のサポート等をこなしていた。 ある日、下界にある鞍生地町の神社から神様が失踪した。神様の邪魔が入らないと分かると、悪魔は次々と人を襲い始めた。悪魔は人の負の感情を好み、それを奪い尽くされると人は命を落としてしまう。 早く神様を探さなくてはならない。 そこで白羽の矢が立ったのが、天界では優秀と有名な死神の青年フウガと、怠け者で有名な天使の青年アリアだった。 二人は、神様探しの傍ら悪魔に対抗すべく、共に仕事をこなす事に。 森のような神社、神様と桜の人、変わっていく町の中で変わらないもの。 次第に、自分の存在理由を感じ始めるアリアと、与えられた役割以上の気持ちを知り始めるフウガ。 そんな二人のお話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

半透明を満たす光

モアイ
恋愛
(生きる意味って何だ?) 矤上 透真【やがみ とうま】 22歳。 透真は漠然とした不安と、社会生活に対する恐怖感を心に抱えていた。 衝動的な挑戦と逃走を繰り返し、ついにお金もプライドも尽きた中、不動産を所有していた叔父の情けである土地のある住居に引っ越すことになった。 そこは自由の国、アメリカ。 衝動的にまた突拍子もなく、英語が得意でもないのに、透真は自身の何かを変えたくて、自由の国に旅立った。 案の定、うまくいかない事に焦り始めた生活を送っていた時、偶然、日本語を話せる少女に出会う。 アメリカ育ちの綺麗な彼女は、どこか人懐っこさが感じられて、とびっきりの明るい笑顔を透真に向けながら、ハッキリした物言いで、こう言った。 「おにーさん、日本人なんだ?」 「ちょうど良かった、私をおにーさんの家に泊めてくれない?」 ──彼女と出会い、灰色の世界が変わり始める。 続きは本編で!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...