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一章『か弱き生態系の頂点 - 海竜の港町イストポート -』
第7話 戯れる子供たち
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都市イストポート。
大陸の東岸に位置するダラム王国の、そのまたさらに最東端に位置している。
その中心には穏やかな川が流れており、古くから最下流部分が自然港として利用されてきた。
現在では、北方にある島国ニタイ国との交易船や、漁をおこなう漁船がさかんに出入りし、大陸一の港として知られている。
人口も多く、街並みが河口の海側近くまで続いているため、まるで港が都市に取り込まれているかのようである。
まさに『港湾都市』だ。
駅馬車の停留所は、町の南側の入口を入ってすぐのところにあった。
馬車から降りたティアは、すぐに「うー。気持ち悪い」と言って前頭部を押さえ、うずくまった。
「大丈夫?」
「馬車は久しぶりで……。吐くほどではないけど」
二人が着いたときには、馬車の影もだいぶ長く伸びていた。
チェスターの町を出たのは早朝なので、ほぼ一日中、馬車で揺さぶられていたことになる。
慣れていない人間では厳しかったのだろう。
シドウは気分が悪そうに座り込んだ彼女に対し、背中にかかっている黒髪を前によけ、白のタンクトップ越しに背中をさすった……
……が、すぐに「しまった」と思い、手を離す。
「なんでやめるの。さすってよお」
「意識があるときに触られても、怖くないんだ?」
「怖くないよ? 手だけ変身したりしないでしょ」
右手だけ鉤爪に変化する自身の姿を想像したシドウは、
「さすがにそれはないな」
と返して、背中のさすりを再開した。
町の入口から近いせいか、日が傾いているこの時間でも、旅人や商人とおぼしき人間たちが多数行き交っている。
通行人はちらほらとティアを気にするように見ていく。だが、さすがに男が後ろで背中をさすっている状況では、声をかけてくる者はいない。
「どう? ティア。少し落ち着いた?」
「うん。ありがと」
「すぐに冒険者ギルドに行くつもりだったけど、今日はもう宿屋で休もうか」
「あー……わたしは寝るよりも、いったん海の風に当たってスッキリしたいかも?」
なるほど、それは良さそうだ――ということで、移動を開始。
できるだけ早く気持ちの良い空気に当たれるよう、二人はまず川のところまで出て、そこから海の方向へ歩いた。
船着き場は外洋部分にはない。
少し川に入ったところから船着き場が始まっており、上流側に向かって長く続いている。
そのため、歩いている川岸の道には、交易関係のものと思われる赤レンガの建物がびっしり並んでいた。
水量の豊富な大河の場合、川岸はそのままの状態でも船が付けられるくらい良好な船着き場になる。それを生かした港だ。
街の中心に近くなるため便が良い、波の影響を受けにくい、賊などに襲われにくいなど、様々なメリットがあるとされている。
厳重に留められている大小さまざまな船。さらには、自警団と思われる武装集団。シドウの目には、ずいぶんな緊張感であるように映った。
が、もう時間帯は夕方近く。
まあそんなものだろうか? と思いながら、歩き続けた。
そのまま河口まで行き、浜に出た。
右手には遠くまで浜が広がり、左手には河口、そして正面にはひたすら海。
既に日没が近づいているためか、近くに人の姿は見当たらない。
少しだけオレンジがかかってきている日差しを背に、二人並んで、膝を抱えるようにして砂浜に座った。
「ふー、風が気持ちいい」
座るなりそう言うティアの顔色は、すでにだいぶ良くなっているようだった。
潮の香りが混じるこの風は、体調回復のさらなる後押しをしてくれそうだ。
「背中ぁ」
「背中がどうしたの」
「さすってー」
シドウは言われたとおりに背中をさすった。
「はぁー」
ティアが声を漏らす。シドウは視線を前方に戻した。
「ティア」
「なにー?」
「俺に対する君の反応は、一般的……なのかな」
「なんでそんなこと聞くのー?」
「前に言ったとおり、母さんや父さんからは、別に俺が半分ドラゴンであることを秘密にしろとは言われていないんだ。大した問題にならないのであれば、ギルドに出自を言ってしまったほうが、この先を考えると色々楽なのかなと」
シドウからすれば、身内や師匠以外で初めてまともに出自を知られた相手がティアだった。
その彼女が意外にも普通だったので、そのような提案をしたのだが……。
「うーん。まだやめといたほうがいいんじゃないの?」
あっさりと止められてしまった。
「どうして?」
「ドラゴンはモンスターでも一番ヤバかったわけだし、やっぱり怖いものだと思ってる人が多いんじゃない? シドウの一家のことがもっと詳しく知れ渡っていればいいんだけど、まだそこまでじゃないみたいだし。
まー、いちおう冒険者ギルドで少し噂にはなってたことはあるけど……いきなりシドウが『自分はドラゴンの子です』なんて言って変身したら騒ぎになると思うよ?」
「やっぱりそうか」
「シドウのお母さんがもっと有名になったら言えばいいじゃない」
「もっと有名に、か……」
シドウの母親は、山に一番近いぺザルの町では『山神様』ということになってしまっている。普段は町の代表団が定期的に挨拶に来る程度にしか交流がない。
ぺザルが大陸最南端の田舎であることを考えると、シドウの母親の存在や性質が広く認知されるには、まだまだ時間がかかるだろう。
やはり自分の出自は当分秘密か。
シドウがそのように頭の中をまとめたとき……
突然、目の前の穏やかな波打ち際に、ピョンと何かが跳ねた。
「わっ!」
同じく前を見ていたティアが驚きの声を上げる。シドウもさすっていた手を離し警戒する。
その跳ねた何かは、水中へは戻らず、砂浜へ上陸してきた。
「あれ? ウミヘビ……じゃないよね?」
青みがかかった灰色の長い体。
少し体を巻いているが、長さは片腕程度か。
ティアの感想のとおり、外見は「ウミヘビではない“何か”」という感じかもしれない。
よく見ると、骨入りでしっかりとしている胸ビレがついていることがわかる。
頭部も胴体を考えると大きく、丸みを帯びていた。
そしてこちらを見つめるその目は、明らかに海蛇などのものよりも大きく、クリクリのつぶらな瞳だった。
「あ、こっちに寄ってきた」
ティアの言葉にはあまり緊張感がない。
シドウから見ても、「逃げなければ」と思わせるような雰囲気が、その動物からはまったく感じられなかった。
その動物は、少し寄ってきて首を立てると、小さく「ピヨ」と鳴いた。
思わず二人で顔を見合わせる。
そのまま見守っていると、体を器用にくねらせながら、さらにシドウの足元まで寄ってきた。
シドウがしゃがんで胴を掴むと、その動物は首を回してその手をペロリと舐めた。
「鱗がまだ柔らかい。これはモンスターの子供だ」
「へー。すっごいかわいい! 何のモンスター?」
ティアが横から手を伸ばして、その動物の頭をなでる。
気に入ったのか、目を輝かせていた。馬車酔いも吹き飛んだようだ。
「たぶん、シーサーペントだと思うけど」
「ええっ! すごいデカくてヤバいやつじゃないの?」
「ヤバくはないよ。能力が高いから一応モンスターに区分されているだけで、おとなしい動物なんだ」
シーサーペントは海に棲む巨大な海竜である。
高い戦闘能力を持つとされる。
だが基本的には、餌としている海棲生物以外に手を出してくることはない。
人間と遭遇しても何もしてこないし、むしろシーサーペントがいればその付近は危険な海棲モンスターがいないことが多いので、より安全だと言える。
海の世界では頂点に立つモンスターであるが、大魔王とも協力関係はなかったようである。
「へえー。でもなんでここに上がってきたのかな?」
「子供のシーサーペントは浜近くで遊ぶんだよ。近くに親もいるんじゃないかな」
成体のシーサーペントは、普段そこまで沿岸の浅いところに来ることはない。
しかし、子供を産んだときは、その子を特定の浜近くまでよく連れてくる。
浜には捕食者がいない。安全を考えてのことだろう――シドウは師匠からそのように教わっていた。
「あ! ピヨピヨ」
突然、後ろから少女の声がした。かなり幼い声だ。
二人が振り向くと、赤い髪の小さな少女を先頭に、子供たちのグループが現れた。
人数は、六人。
シーサーペントの子供が、その少女たちのほうに移動していく。
少女は「ごめんきょうはおそくなっちゃった」と言って、満面の笑みで抱きかかえる。
他の子供たちもそれを取り囲んだ。
「君たちはこの子を知っているんだ?」
「うん! ピヨピヨはいつもわたしたちがここにくると出てきてくれるの」
「ピヨピヨってのは名前?」
「うん。ピヨってなくからピヨピヨ」
どうやら勝手に名づけられてしまったらしいピヨピヨ。
その少女の高級そうなチェック柄ワンピースを上に登っていき、ポニーテールの赤髪を巻き込まないよう器用に肩首に巻きつく。
そして少女の顔をペロリと一回舐めた。
他の子供たちもピヨピヨに手を伸ばすと、それに応えて舌を出していく。
「よく懐いてるね」
「まえからともだちだから! でもおねえさんとおにいさんのこともすきみたいだよ」
「どうしてわかるんだい?」
「ふだんはわたしたちいがいの人にはよっていかないから」
「わたしたち好かれたみたいだよ。シドウ」
「嫌われるよりはいいかな? でも、こうやって遊んでいて、ピヨピヨの親が出てきてしまったりはしないのかな?」
「たまにのぞいてくる! すごくでかいよ! さいきんはあまりこないけど」
「あははっ。じゃあ親公認の関係なんだ? いいなーそういうの!」
楽しそうにそう言うティア。
シドウはその横で、やはりシーサーペントは賢い動物なのだと感心していた。自分の子供が楽しんでいること、この人間の子供たちが危害を加える存在ではないことがわかっているのだ。
「あ! もうすぐ日がくれちゃう。きたばかりだけどかえるね!」
少女がそう言ってピヨピヨを下ろした。
他の子供たちも交代交代で頭を撫でて、愛くるしい姿のモンスターの子供に別れの挨拶をする。
シドウとティアは、その光景を見て自然と表情が緩んだ。
そして二人で、子供たちに「気をつけて」と声をかける。
「うん! かっこいいかっこうのおねえさんも、ビンボーくさいかっこうのおにいさんも、またね!」
子供たちはあっという間に消えていった。
「……」
「うふふっ、子供はハッキリ言うね。シドウ」
「ということはティアも子供なんだ?」
シドウは肘打ちされた。
大陸の東岸に位置するダラム王国の、そのまたさらに最東端に位置している。
その中心には穏やかな川が流れており、古くから最下流部分が自然港として利用されてきた。
現在では、北方にある島国ニタイ国との交易船や、漁をおこなう漁船がさかんに出入りし、大陸一の港として知られている。
人口も多く、街並みが河口の海側近くまで続いているため、まるで港が都市に取り込まれているかのようである。
まさに『港湾都市』だ。
駅馬車の停留所は、町の南側の入口を入ってすぐのところにあった。
馬車から降りたティアは、すぐに「うー。気持ち悪い」と言って前頭部を押さえ、うずくまった。
「大丈夫?」
「馬車は久しぶりで……。吐くほどではないけど」
二人が着いたときには、馬車の影もだいぶ長く伸びていた。
チェスターの町を出たのは早朝なので、ほぼ一日中、馬車で揺さぶられていたことになる。
慣れていない人間では厳しかったのだろう。
シドウは気分が悪そうに座り込んだ彼女に対し、背中にかかっている黒髪を前によけ、白のタンクトップ越しに背中をさすった……
……が、すぐに「しまった」と思い、手を離す。
「なんでやめるの。さすってよお」
「意識があるときに触られても、怖くないんだ?」
「怖くないよ? 手だけ変身したりしないでしょ」
右手だけ鉤爪に変化する自身の姿を想像したシドウは、
「さすがにそれはないな」
と返して、背中のさすりを再開した。
町の入口から近いせいか、日が傾いているこの時間でも、旅人や商人とおぼしき人間たちが多数行き交っている。
通行人はちらほらとティアを気にするように見ていく。だが、さすがに男が後ろで背中をさすっている状況では、声をかけてくる者はいない。
「どう? ティア。少し落ち着いた?」
「うん。ありがと」
「すぐに冒険者ギルドに行くつもりだったけど、今日はもう宿屋で休もうか」
「あー……わたしは寝るよりも、いったん海の風に当たってスッキリしたいかも?」
なるほど、それは良さそうだ――ということで、移動を開始。
できるだけ早く気持ちの良い空気に当たれるよう、二人はまず川のところまで出て、そこから海の方向へ歩いた。
船着き場は外洋部分にはない。
少し川に入ったところから船着き場が始まっており、上流側に向かって長く続いている。
そのため、歩いている川岸の道には、交易関係のものと思われる赤レンガの建物がびっしり並んでいた。
水量の豊富な大河の場合、川岸はそのままの状態でも船が付けられるくらい良好な船着き場になる。それを生かした港だ。
街の中心に近くなるため便が良い、波の影響を受けにくい、賊などに襲われにくいなど、様々なメリットがあるとされている。
厳重に留められている大小さまざまな船。さらには、自警団と思われる武装集団。シドウの目には、ずいぶんな緊張感であるように映った。
が、もう時間帯は夕方近く。
まあそんなものだろうか? と思いながら、歩き続けた。
そのまま河口まで行き、浜に出た。
右手には遠くまで浜が広がり、左手には河口、そして正面にはひたすら海。
既に日没が近づいているためか、近くに人の姿は見当たらない。
少しだけオレンジがかかってきている日差しを背に、二人並んで、膝を抱えるようにして砂浜に座った。
「ふー、風が気持ちいい」
座るなりそう言うティアの顔色は、すでにだいぶ良くなっているようだった。
潮の香りが混じるこの風は、体調回復のさらなる後押しをしてくれそうだ。
「背中ぁ」
「背中がどうしたの」
「さすってー」
シドウは言われたとおりに背中をさすった。
「はぁー」
ティアが声を漏らす。シドウは視線を前方に戻した。
「ティア」
「なにー?」
「俺に対する君の反応は、一般的……なのかな」
「なんでそんなこと聞くのー?」
「前に言ったとおり、母さんや父さんからは、別に俺が半分ドラゴンであることを秘密にしろとは言われていないんだ。大した問題にならないのであれば、ギルドに出自を言ってしまったほうが、この先を考えると色々楽なのかなと」
シドウからすれば、身内や師匠以外で初めてまともに出自を知られた相手がティアだった。
その彼女が意外にも普通だったので、そのような提案をしたのだが……。
「うーん。まだやめといたほうがいいんじゃないの?」
あっさりと止められてしまった。
「どうして?」
「ドラゴンはモンスターでも一番ヤバかったわけだし、やっぱり怖いものだと思ってる人が多いんじゃない? シドウの一家のことがもっと詳しく知れ渡っていればいいんだけど、まだそこまでじゃないみたいだし。
まー、いちおう冒険者ギルドで少し噂にはなってたことはあるけど……いきなりシドウが『自分はドラゴンの子です』なんて言って変身したら騒ぎになると思うよ?」
「やっぱりそうか」
「シドウのお母さんがもっと有名になったら言えばいいじゃない」
「もっと有名に、か……」
シドウの母親は、山に一番近いぺザルの町では『山神様』ということになってしまっている。普段は町の代表団が定期的に挨拶に来る程度にしか交流がない。
ぺザルが大陸最南端の田舎であることを考えると、シドウの母親の存在や性質が広く認知されるには、まだまだ時間がかかるだろう。
やはり自分の出自は当分秘密か。
シドウがそのように頭の中をまとめたとき……
突然、目の前の穏やかな波打ち際に、ピョンと何かが跳ねた。
「わっ!」
同じく前を見ていたティアが驚きの声を上げる。シドウもさすっていた手を離し警戒する。
その跳ねた何かは、水中へは戻らず、砂浜へ上陸してきた。
「あれ? ウミヘビ……じゃないよね?」
青みがかかった灰色の長い体。
少し体を巻いているが、長さは片腕程度か。
ティアの感想のとおり、外見は「ウミヘビではない“何か”」という感じかもしれない。
よく見ると、骨入りでしっかりとしている胸ビレがついていることがわかる。
頭部も胴体を考えると大きく、丸みを帯びていた。
そしてこちらを見つめるその目は、明らかに海蛇などのものよりも大きく、クリクリのつぶらな瞳だった。
「あ、こっちに寄ってきた」
ティアの言葉にはあまり緊張感がない。
シドウから見ても、「逃げなければ」と思わせるような雰囲気が、その動物からはまったく感じられなかった。
その動物は、少し寄ってきて首を立てると、小さく「ピヨ」と鳴いた。
思わず二人で顔を見合わせる。
そのまま見守っていると、体を器用にくねらせながら、さらにシドウの足元まで寄ってきた。
シドウがしゃがんで胴を掴むと、その動物は首を回してその手をペロリと舐めた。
「鱗がまだ柔らかい。これはモンスターの子供だ」
「へー。すっごいかわいい! 何のモンスター?」
ティアが横から手を伸ばして、その動物の頭をなでる。
気に入ったのか、目を輝かせていた。馬車酔いも吹き飛んだようだ。
「たぶん、シーサーペントだと思うけど」
「ええっ! すごいデカくてヤバいやつじゃないの?」
「ヤバくはないよ。能力が高いから一応モンスターに区分されているだけで、おとなしい動物なんだ」
シーサーペントは海に棲む巨大な海竜である。
高い戦闘能力を持つとされる。
だが基本的には、餌としている海棲生物以外に手を出してくることはない。
人間と遭遇しても何もしてこないし、むしろシーサーペントがいればその付近は危険な海棲モンスターがいないことが多いので、より安全だと言える。
海の世界では頂点に立つモンスターであるが、大魔王とも協力関係はなかったようである。
「へえー。でもなんでここに上がってきたのかな?」
「子供のシーサーペントは浜近くで遊ぶんだよ。近くに親もいるんじゃないかな」
成体のシーサーペントは、普段そこまで沿岸の浅いところに来ることはない。
しかし、子供を産んだときは、その子を特定の浜近くまでよく連れてくる。
浜には捕食者がいない。安全を考えてのことだろう――シドウは師匠からそのように教わっていた。
「あ! ピヨピヨ」
突然、後ろから少女の声がした。かなり幼い声だ。
二人が振り向くと、赤い髪の小さな少女を先頭に、子供たちのグループが現れた。
人数は、六人。
シーサーペントの子供が、その少女たちのほうに移動していく。
少女は「ごめんきょうはおそくなっちゃった」と言って、満面の笑みで抱きかかえる。
他の子供たちもそれを取り囲んだ。
「君たちはこの子を知っているんだ?」
「うん! ピヨピヨはいつもわたしたちがここにくると出てきてくれるの」
「ピヨピヨってのは名前?」
「うん。ピヨってなくからピヨピヨ」
どうやら勝手に名づけられてしまったらしいピヨピヨ。
その少女の高級そうなチェック柄ワンピースを上に登っていき、ポニーテールの赤髪を巻き込まないよう器用に肩首に巻きつく。
そして少女の顔をペロリと一回舐めた。
他の子供たちもピヨピヨに手を伸ばすと、それに応えて舌を出していく。
「よく懐いてるね」
「まえからともだちだから! でもおねえさんとおにいさんのこともすきみたいだよ」
「どうしてわかるんだい?」
「ふだんはわたしたちいがいの人にはよっていかないから」
「わたしたち好かれたみたいだよ。シドウ」
「嫌われるよりはいいかな? でも、こうやって遊んでいて、ピヨピヨの親が出てきてしまったりはしないのかな?」
「たまにのぞいてくる! すごくでかいよ! さいきんはあまりこないけど」
「あははっ。じゃあ親公認の関係なんだ? いいなーそういうの!」
楽しそうにそう言うティア。
シドウはその横で、やはりシーサーペントは賢い動物なのだと感心していた。自分の子供が楽しんでいること、この人間の子供たちが危害を加える存在ではないことがわかっているのだ。
「あ! もうすぐ日がくれちゃう。きたばかりだけどかえるね!」
少女がそう言ってピヨピヨを下ろした。
他の子供たちも交代交代で頭を撫でて、愛くるしい姿のモンスターの子供に別れの挨拶をする。
シドウとティアは、その光景を見て自然と表情が緩んだ。
そして二人で、子供たちに「気をつけて」と声をかける。
「うん! かっこいいかっこうのおねえさんも、ビンボーくさいかっこうのおにいさんも、またね!」
子供たちはあっという間に消えていった。
「……」
「うふふっ、子供はハッキリ言うね。シドウ」
「ということはティアも子供なんだ?」
シドウは肘打ちされた。
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