自然地理ドラゴン

どっぐす

文字の大きさ
上 下
6 / 55
序章『不死生物 - 森の町チェスター -』

第6話 二人の旅の、始まり

しおりを挟む
 翌日。
 宿屋の二階の部屋の中で、シドウは報告書をまとめていた。

 林業が盛んなチェスターの町よろしく、宿屋は木造二階建て。
 昼間は十分な光が入るため、窓際にある机での作業も気分よくできる。

「ふぁ~」

 後ろから、間抜けな声が聞こえてきた。
 ベッドで寝ていたティアからだ。

「しど~、おはよ~。……うー、頭痛い……」

 すでにお昼近くになっている時間だが、ティアはずっと寝ていた。
 昨日彼女は酔いつぶれてしまい、今日も二日酔いで起きられなかったのである。

「おはよう。回復魔法って二日酔いには効かないんだ?」
「効かないよぉ~」
「そうか。この町を出るのは明日にするから、今日はゆっくり寝ていてくれ」

「そぉかぁ~。わたしのせいで一日遅れちゃって……ごめん……」
「いや、報告しないといけないこともあって、師匠宛とギルド宛の報告書を作っているから、どのみち今日は……って、また寝てるし」

 会話中にふたたび寝息を立て始めた彼女を見て、シドウは苦笑するしかなかった。

 報告しなければならないことは、あの森に上位種のアンデッドがいたことである。
 アンデッドは自然発生するものではない。非常に高い魔力を持つ者が作り出すものである――シドウはそう聞いていた。かつて存在した大魔王が生成術を編み出したと言われ、自身も多数のアンデッドを生み出したとされている。
 だがすでに大魔王や魔王軍幹部は討伐済みであり、魔王軍も消滅している。すでにアンデッド生成の技術は失われているというのが共通認識だった。

 大魔王存命時代に生成されたアンデッドがまだ残っており、それが迷い込んでいたのか? それとも、他の何者かが生成したのか。
 シドウはギルドに登録している冒険者であるため、イレギュラーな事態については報告義務がある。報告書にまとめてギルドに提出しなければならない。
 そして、ペザルの町にいる師匠からも、何か珍しいことやおかしなことがあれば教えてくれと言われていた。そちらにも手紙を書く予定である。



 * * *



「あー、やっぱり朝の光は最高!」

 丸一日休んだティアは、調子を取り戻したようだった。ベッドの上で元気よく伸びをしている。

「今日は気分がいいんだ?」
「いいよ!」
「それはよかった」

 シドウはお茶を淹れてティアに手渡すと、再び机の前の椅子に座った。

「はー、お茶が気持ちいい! あ、そうだ。一昨日って、シドウが宿屋まで運んでくれたの?」

 どうやら全然記憶がないらしいティアが、そんなことを聞いてくる。

「そうだよ」
「うふふっ、ありがとう。重くなかった?」
「重かった」

 ティアが、お茶が入っていた器をサイドテーブルに置く。
 次の瞬間、シドウの顔に枕が命中していた。

「……どうして俺、枕を投げつけられたの」
「そこは『全然重くない』って答えないと! 女の子は体重を気にするものよ」
「体は全然重くないけど、荷物が重いという意味だったんだけど」
「そういう意味なら最初からそう言う!」

 この理不尽な攻撃も、元気になった証だ。
 ひとまずそう前向きに捉え、最終確認を取ることにした。

「今日このあと、出発するから」
「はーい!」
「お酒は抜けていると思うのでもう一度聞くけど、本当に付いてくるということでいい?」
「あったりまえじゃんー」

 ティアは武闘家らしい軽い身のこなしで、ベッドからぴょんと降りる。
 そして、椅子に座っているシドウの首を横から両手で包み、揺さぶった。

「わたしは自分からパーティを組んだんだよ? シドウがドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようがついていってやるー」
「いや、大魔王はもういないから」

 ドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようが。
 シドウはその言葉に、不思議な安心を感じた。

 もしかしたら彼女との相性は、意外に悪くないのかもしれない。

 揺さぶられている頭に、彼女の飛び出ている部分が当たらぬよう気を付けながら、そんなことを思った。





(序章『二人の出会い - 森の町チェスター -』 終)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...