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序章『不死生物 - 森の町チェスター -』
第6話 二人の旅の、始まり
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翌日。
宿屋の二階の部屋の中で、シドウは報告書をまとめていた。
林業が盛んなチェスターの町よろしく、宿屋は木造二階建て。
昼間は十分な光が入るため、窓際にある机での作業も気分よくできる。
「ふぁ~」
後ろから、間抜けな声が聞こえてきた。
ベッドで寝ていたティアからだ。
「しど~、おはよ~。……うー、頭痛い……」
すでにお昼近くになっている時間だが、ティアはずっと寝ていた。
昨日彼女は酔いつぶれてしまい、今日も二日酔いで起きられなかったのである。
「おはよう。回復魔法って二日酔いには効かないんだ?」
「効かないよぉ~」
「そうか。この町を出るのは明日にするから、今日はゆっくり寝ていてくれ」
「そぉかぁ~。わたしのせいで一日遅れちゃって……ごめん……」
「いや、報告しないといけないこともあって、師匠宛とギルド宛の報告書を作っているから、どのみち今日は……って、また寝てるし」
会話中にふたたび寝息を立て始めた彼女を見て、シドウは苦笑するしかなかった。
報告しなければならないことは、あの森に上位種のアンデッドがいたことである。
アンデッドは自然発生するものではない。非常に高い魔力を持つ者が作り出すものである――シドウはそう聞いていた。かつて存在した大魔王が生成術を編み出したと言われ、自身も多数のアンデッドを生み出したとされている。
だがすでに大魔王や魔王軍幹部は討伐済みであり、魔王軍も消滅している。すでにアンデッド生成の技術は失われているというのが共通認識だった。
大魔王存命時代に生成されたアンデッドがまだ残っており、それが迷い込んでいたのか? それとも、他の何者かが生成したのか。
シドウはギルドに登録している冒険者であるため、イレギュラーな事態については報告義務がある。報告書にまとめてギルドに提出しなければならない。
そして、ペザルの町にいる師匠からも、何か珍しいことやおかしなことがあれば教えてくれと言われていた。そちらにも手紙を書く予定である。
* * *
「あー、やっぱり朝の光は最高!」
丸一日休んだティアは、調子を取り戻したようだった。ベッドの上で元気よく伸びをしている。
「今日は気分がいいんだ?」
「いいよ!」
「それはよかった」
シドウはお茶を淹れてティアに手渡すと、再び机の前の椅子に座った。
「はー、お茶が気持ちいい! あ、そうだ。一昨日って、シドウが宿屋まで運んでくれたの?」
どうやら全然記憶がないらしいティアが、そんなことを聞いてくる。
「そうだよ」
「うふふっ、ありがとう。重くなかった?」
「重かった」
ティアが、お茶が入っていた器をサイドテーブルに置く。
次の瞬間、シドウの顔に枕が命中していた。
「……どうして俺、枕を投げつけられたの」
「そこは『全然重くない』って答えないと! 女の子は体重を気にするものよ」
「体は全然重くないけど、荷物が重いという意味だったんだけど」
「そういう意味なら最初からそう言う!」
この理不尽な攻撃も、元気になった証だ。
ひとまずそう前向きに捉え、最終確認を取ることにした。
「今日このあと、出発するから」
「はーい!」
「お酒は抜けていると思うのでもう一度聞くけど、本当に付いてくるということでいい?」
「あったりまえじゃんー」
ティアは武闘家らしい軽い身のこなしで、ベッドからぴょんと降りる。
そして、椅子に座っているシドウの首を横から両手で包み、揺さぶった。
「わたしは自分からパーティを組んだんだよ? シドウがドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようがついていってやるー」
「いや、大魔王はもういないから」
ドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようが。
シドウはその言葉に、不思議な安心を感じた。
もしかしたら彼女との相性は、意外に悪くないのかもしれない。
揺さぶられている頭に、彼女の飛び出ている部分が当たらぬよう気を付けながら、そんなことを思った。
(序章『二人の出会い - 森の町チェスター -』 終)
宿屋の二階の部屋の中で、シドウは報告書をまとめていた。
林業が盛んなチェスターの町よろしく、宿屋は木造二階建て。
昼間は十分な光が入るため、窓際にある机での作業も気分よくできる。
「ふぁ~」
後ろから、間抜けな声が聞こえてきた。
ベッドで寝ていたティアからだ。
「しど~、おはよ~。……うー、頭痛い……」
すでにお昼近くになっている時間だが、ティアはずっと寝ていた。
昨日彼女は酔いつぶれてしまい、今日も二日酔いで起きられなかったのである。
「おはよう。回復魔法って二日酔いには効かないんだ?」
「効かないよぉ~」
「そうか。この町を出るのは明日にするから、今日はゆっくり寝ていてくれ」
「そぉかぁ~。わたしのせいで一日遅れちゃって……ごめん……」
「いや、報告しないといけないこともあって、師匠宛とギルド宛の報告書を作っているから、どのみち今日は……って、また寝てるし」
会話中にふたたび寝息を立て始めた彼女を見て、シドウは苦笑するしかなかった。
報告しなければならないことは、あの森に上位種のアンデッドがいたことである。
アンデッドは自然発生するものではない。非常に高い魔力を持つ者が作り出すものである――シドウはそう聞いていた。かつて存在した大魔王が生成術を編み出したと言われ、自身も多数のアンデッドを生み出したとされている。
だがすでに大魔王や魔王軍幹部は討伐済みであり、魔王軍も消滅している。すでにアンデッド生成の技術は失われているというのが共通認識だった。
大魔王存命時代に生成されたアンデッドがまだ残っており、それが迷い込んでいたのか? それとも、他の何者かが生成したのか。
シドウはギルドに登録している冒険者であるため、イレギュラーな事態については報告義務がある。報告書にまとめてギルドに提出しなければならない。
そして、ペザルの町にいる師匠からも、何か珍しいことやおかしなことがあれば教えてくれと言われていた。そちらにも手紙を書く予定である。
* * *
「あー、やっぱり朝の光は最高!」
丸一日休んだティアは、調子を取り戻したようだった。ベッドの上で元気よく伸びをしている。
「今日は気分がいいんだ?」
「いいよ!」
「それはよかった」
シドウはお茶を淹れてティアに手渡すと、再び机の前の椅子に座った。
「はー、お茶が気持ちいい! あ、そうだ。一昨日って、シドウが宿屋まで運んでくれたの?」
どうやら全然記憶がないらしいティアが、そんなことを聞いてくる。
「そうだよ」
「うふふっ、ありがとう。重くなかった?」
「重かった」
ティアが、お茶が入っていた器をサイドテーブルに置く。
次の瞬間、シドウの顔に枕が命中していた。
「……どうして俺、枕を投げつけられたの」
「そこは『全然重くない』って答えないと! 女の子は体重を気にするものよ」
「体は全然重くないけど、荷物が重いという意味だったんだけど」
「そういう意味なら最初からそう言う!」
この理不尽な攻撃も、元気になった証だ。
ひとまずそう前向きに捉え、最終確認を取ることにした。
「今日このあと、出発するから」
「はーい!」
「お酒は抜けていると思うのでもう一度聞くけど、本当に付いてくるということでいい?」
「あったりまえじゃんー」
ティアは武闘家らしい軽い身のこなしで、ベッドからぴょんと降りる。
そして、椅子に座っているシドウの首を横から両手で包み、揺さぶった。
「わたしは自分からパーティを組んだんだよ? シドウがドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようがついていってやるー」
「いや、大魔王はもういないから」
ドラゴンに変身しようが大魔王に変身しようが。
シドウはその言葉に、不思議な安心を感じた。
もしかしたら彼女との相性は、意外に悪くないのかもしれない。
揺さぶられている頭に、彼女の飛び出ている部分が当たらぬよう気を付けながら、そんなことを思った。
(序章『二人の出会い - 森の町チェスター -』 終)
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