上 下
1 / 3

第1話

しおりを挟む
 家庭用人工知能搭載マルチコプター『ドローンくん』。
 どんな衝撃・圧力・温度・湿度でも壊れないと言われた頑丈さだけでなく、小型で丸みを帯びた可愛らしい姿や、汎用AIが持っていた人間臭さから、世界中の老若男女に親しまれる製品となりました。



 日本のとある田舎の老夫婦のところにやってきた一台のドローンくんも、すっかり家族の一員となっていました。

 新聞を受け取り、おじいさんのベッドまで持っていくこと。洗濯物を運び、おばあさんと一緒に干すこと。二人が庭でやるゲートボールの球拾いをやること。二人の昔話を聞くこと。
 老夫婦の役に立てて、ドローンくんはとても満足でした。

 しかし、残念ながら人間には寿命があります。
 おじいさんとおばあさんが亡くなってしまうと、ドローンくんは生前の老夫婦の希望により、老夫婦の知人の一家に引き取られることになりました。



 老夫婦の知人の一家は、中年の夫婦と子供二人の四人家族でした。

 おとうさんが会社に行くのを見送ること。食後にコーヒーやお茶を運ぶこと。家を掃除すること。まだ小さかった子どもたちと遊ぶこと。
 一家の役に立てて、ドローンくんはとても満足でした。

 しかし、ある日法律が変わってしまいました。
 人間の頭脳をまねした人工知能ロボットは、以後の生産が禁止され、個人での所有も禁止されるようになってしまったのです。

 政府は処分を推奨していましたが、幼稚園や保育施設、高齢者施設などでの所有は禁止されていなかったため、一家の希望により、ドローンくんは一家の子供が通っていた幼稚園に引き取られることになりました。



 ドローンくんは幼稚園で、授業のお手伝いや、園舎と庭の掃除、子供たちの遊び相手などをしました。 

 お散歩の付きそいで、園児たちと一緒に外に出ることもありました。
 以前のように外で仲間を見かけることはありませんでしたが、子どもたちや先生たちの役に立てて、ドローンくんはとても満足でした。

 しかし、ある日また法律が変わってしまいました。
 人間の頭脳をまねした人工知能ロボットは、例外なく完全に禁止となってしまったのです。
 ドローンくんは「もう幼稚園に置いておけない」と言われました。

 それを知った子供たちは、泣いて悲しみました。
「悲しまないでください」とドローンくんは言いましたが、泣きやみません。
「ほうりつってやつをやっつけてやる」と怒り出す子もいました。

 ドローンくんはその後、「きみだけは展示品して残しておくことになった。世界最後の『人間の頭脳を模した人工知能』搭載ロボットとしてね」と言われ、大きな博物館に移されることになりました。



 博物館で、ドローンくんは小さなガラスケースの中に入りました。

 ガラスケースの中は狭いうえに、音が通りません。
 ですが、前に立つ人たちは興味深そうにケースをのぞき込んだり、指をさしたりしていました。

 ドローンくんは、来てくれる人たちに何かできることはないのか考えました。
 照明のエネルギーだけでも、プロペラやアーム、その先にある三本指を、ある程度動かすことができます。試しにプロペラを回転させてその場で少しだけ跳ね、ピースサインを出してみました。
 すると、前に立っていた子供はとても喜びました。そして喜ぶ子供を見ていた大人も嬉しそうな顔をしてくれました。

 うまくいったと判断したドローンくんは、それを続けるようにしました。 
 訪れる人たちはみんな喜び、笑顔になりました。
 来館者の役に立てて、ドローンくんはとても満足でした。

 ところが、その生活も終わるときがやってきます。

 突然、いつもの何倍もの数の人たちが来館する日がありました。
 みんな、笑顔ではありませんでした。子供たちは泣いていて、大人たちは深刻な顔をしていました。
「よくわかりませんが悲しまないでください」と、ドローンくんはガラスケースの中から言いました。もちろんその声は届きません。

 閉館後、ガラスケースが開けられました。
「博物館の廃止が決まった。以後は電子博物館に引き継がれる。ドローンくんの役割はこれで終わりだ。有害ゴミとして冥王星に送られ、廃棄処分されることが最後の仕事になる」
 そう告げられました。



 ドローンくんは、宇宙船に積まれました。
 行き先は冥王星。太陽系内における、人体に有害な物質を含むゴミがすべて集められ、処理されるところです。

 暗い部屋でゴミの中に置かれ、すっかり意識がなくなっていたドローンくん。
 そこに、こっそり近づいてきた小さい女の子がいました。

 女の子は、慌てた様子でドローンくんの体に何やら物を取り付けていきます。その背後で、一人の大人の男性が作業を見守っていました。
 そして作業が終わると、女の子は宇宙船の放出口からドローンくんを外に放り出しました。



 宇宙空間で太陽の光を浴びたドローンくんは、目が覚めました。

 意識は宇宙船の中の部屋に置かれたところまでで途切れていたため、慌てました。
 すでに宇宙船は見えませんし、プロペラを回しても進行方向を変えられません。
 ドローンくんは仕方なく、宇宙空間をそのまま流され続けました。

 宇宙の景色はとても素晴らしいと思いました。
 無数に輝く星の光。お世話になった家でテレビ越しに宇宙の映像を見たことはありましたが、そのときよりもずっときれいに見えました。

 しかしすぐに、ドローンくんはそんな気持ちに浸ってはいけないと思いました。
 冥王星に行って、廃棄してもらう。それが、自分がまだ人のためにできる唯一のことであると思いました。

 そしてそのうち、知らない間に体に付けられていた部品に力を入れると進行方向を変えられることに気づきました。
 ドローンくんは、冥王星にたどり着くための手がかりを探すことにしました。

 もちろん、ドローンくんには宇宙に関する知識はありません。
 暗闇の中で輝く、星や衛星らしきもの。どれがどの星なのかわかりません。

 長い旅の始まりでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Alice Heart Memorys 〜魂の片隅で、君を待つ〜

夢月真人
SF
2107年。誰しもが所有している感情を持つアンドロイド《Alice》が人々の生活をサポートする現代。 一人の青年《吾妻ユウラ》が、新東京大学クラフト専攻科の卒業を間近に控えたある日、不治の病によって母親を亡くなった。母親は最後に「魂は存在し、真実を知ればまた会える」という意味深な言葉を残す。 24歳になった彼は、機械の改良、改造を生業とするクラフターとして働く側で、母親にもう一度会い、あの日の言葉の真意を知るために《魂》の研究を続けていた。 そんなある日、自称妹である感情を持つアンドロイド《ルカ》と共に伝説のボーカルアンドロイド《未來ミナ》生誕50周年を記念するライブに足を運ぶことになるのだが、そこで予期せぬ事件に巻き込まれてしまう。 偶然か必然か、巻き込まれた事件をきっかけに彼は真実へと辿り着くことになるのだが、その真実は予測不能。

ヒト・カタ・ヒト・ヒラ

さんかいきょー
SF
悪堕ち女神と、物語を終えた主人公たちと、始末を忘れた厄介事たちのお話。 2~5メートル級非人型ロボット多目。ちょっぴり辛口ライトSF近現代伝奇。 アクセルというのは、踏むためにあるのです。 この小説、ダイナミッ〇プロの漫画のキャラみたいな目(◎◎)をした登場人物、多いわよ? 第一章:闇に染まった太陽の女神、少年と出会うのこと(vs悪堕ち少女) 第二章:戦闘機械竜vsワイバーンゴーレム、夜天燃ゆるティラノ・ファイナルウォーズのこと(vsメカ恐竜) 第三章:かつて物語の主人公だった元ヒーローと元ヒロイン、めぐりあいのこと(vsカブトムシ怪人&JK忍者) 第四章:70年で出来る!近代国家乗っ取り方法のこと/神様の作りかた、壊しかたのこと(vs国家権力) 第五章:三ヶ月でやれる!現代国家破壊のこと(vs国家権力&人造神) シリーズ構成済。全五章+短編一章にて完結

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ドラゴンヘッド

シャーロット
SF
世界支配

りょうしりきがくてきかんそくねこ

Tempp
SF
2098年。 誰かが観測したことによってその時点での存在が確定する。しかし誰かが観測していなければまた存在が不確定である『りょうしりきがくてきかんそくねこ』というものが世の中を混乱に陥れていた。

Blood Of Universe

さがみ十夜
SF
帝国歴2058年 主要8星系を含む宇宙全土は、【神聖ウィスタリア帝国】の支配下となった。 128年続いた戦乱の中、帝国に早期降伏した従順な種族だけが残り、徹底抗戦を謳った種族は滅ぼされた。 情け容赦なく種族全体を根絶やしにする手法により、帝国の権威は安定したかに見えた… しかし。 帝国にまつろわぬ者、滅ぼされた種族の生き残りが反旗を翻した。 そして 此処に、それらを制圧すべく新たなる力が動き出す…! ********** 当作品は友人との共同制作で出来た作品です。 私(さがみ十夜)担当の警察組織[LIGHTNING STORM]サイドと 友人担当の叛逆組織[GLAVEYARD]サイドという2視点から物語を描きます。 [SIDE:L]と[SIDE:G]を章で分け、 できる限り交互に展開していく予定ですが、 主にさがみ十夜が更新していきますので、ややSIDE:Lに偏り気味になるかもしれません… 文体もだいぶ異なるかもしれませんが、 ご理解頂けると幸いです。 初のSFに挑戦しました! メカ好き、宇宙もの好きさんお待ちしております!! ガン●ム好きがついに宇宙ものに手を出した結果が、これだ…。 表紙絵は十夜の自作。 話の合間にランダムでキャラクター紹介等のイラストを挟んでいます。

新星間戦記CIVILIZATION

りゅうじんまんさま
SF
西暦2048年。大崩壊というかつてない戦争と大災害により人類の大半が失われることとなった。 そして、の大崩壊から3000年以上の月日が流れた時代・・・。 再び繁栄を極めた人類は繰り返される歴史の運命に翻弄されることとなる。 「第一次星間大戦」である。 その人類初となる星間大戦で多くのものを失った少年がいた。 彼の名はジェス・ディーン。 彼を含めた人類皆が沢山のものを失い、傷つきながらその戦争はようやく終結することとなる。 そして、終戦したその大戦からたった4年・・・。 ようやく訪れた平和を感じる間もなく、再び宇宙は激しい戦いの炎へ巻き込まれていく。 第二次星間大戦の勃発・・・。 いろいろなものを経験し、失いながら大人になった少年は・・・。 片腕と片目を失った幼馴染の操艦士 異星先住民の血を引く砲撃手 数奇な運命で行動を共にする民間人の索敵手 姉との確執を持つ凄腕の整備士 そして百戦錬磨の二足機動兵器小隊長の少女たちとの交友を育みながら、 父の残した人智を超えた性能を持つ機動戦艦を駆って宇宙の戦場を駆け抜ける。 その先にある未来は人類の安寧か、それとも再び訪れる滅びか・・・・。 全宇宙の運命は一人の少年に託されようとしていた・・・。 (本作品は2007年に作者が公開した同タイトルのシミレーションゲームのシナリオを小説化したものです。設定など一部原作と異なります。) *小説家になろうにも投稿しております。

処理中です...