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魔剣と聖剣

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 『なあ、カイン』
『どうしたジン。今になって怯んだか?』
『いや……魔剣って何なんだろうなって思ったんだ』
『それは……その、「力」だろう』
『捕食と浄化の?何のためにその力が存在しているんだろうな』
『……考えた事が無かった。ジンはどう考えている』
『ウロボロスの蛇って知っているか?己の尻尾を飲み込んでいる、死と再生とか循環とか完全とかを意味する円環の蛇の事だ』
『それがどう関係してくる?』
『本来なら魔剣と聖剣って同じ剣じゃないかと思うんだ。命を浄化して生み出す聖剣、命を喰らって支配し終わらせる魔剣……恐らくどちらかが欠けてもダメなんだろうって。でも陰陽のように、恐らく神々によって二つに裂かれた』
『神話のようだな』
『この世界には太陽文字と太陰文字があるから、そこから適当に思いついただけだけどな』
『仮に魔剣と聖剣が二つに裂かれたとして、その理由は何だ。どうしてそんな事をする必要がある?』
『世界の創世――それと、再構築のためじゃないか?』
『っ!』
『聖剣によって世界が終わってしまった後、神に生き残りがいた。生き残った神は世界を再構築するために魔剣と聖剣を合わせて力を得て――用が済んだ後に引き裂いた。もしもまた聖剣で世界が滅ぶような目に遭ったら、魔剣の力で対抗できるようにって』
『……ジンは、ディーンとイアソンが揃って世界の滅びを願っているとでも言うのか』
『そうだ。俺から見ると――イアソンの行動がおかしいんだ。異常極まりない』
『何がだ?』
『あのさ、俺達には前世の知識がある訳じゃん。俺はその知識を「刀」とか美食のためとか、割と有意義な目的や欲望のために使った……とは思わないか?』
『少なくとも破滅的な目的のためでは無いな』
『そうだ。でもイアソンの行動は一貫して破滅的なんだよ。
リンドス伯爵家と繋がって、婚約者や先の皇帝を殺させて、デボラを襲わせて、魔幸薬を生み出して、貴族派を腐敗させ堕落させ、魔人族を奴隷にして虐げて殺して……。
俺と同じ金持ち貴族で前世の知識もあるのに、そこからは何も生み出していないんだぜ?』
『……確かに、おかしいな。ジンの下らない知識でさえ、もう少し欲があれば皇帝に成り代わる事も夢ではない程だったのに……』
『「刀」をバカにするんじゃねえ!切腹させるぞ!
……でも、カインの言う通りだ。
知識があるのに披露しないとか――ましてや知識を使って活躍しないなんて、俺達からすれば「異常」なんだよ』
『その理由が、世界を滅ぼすためだと?』
『聖剣の中のディーンはまだ分かるんだ。カインに何もかも壊されて殺されて、もう誰もいないし何も無いから。だけど……イアソンは……まるで……』
『ジン、俺に何を隠している!答えろ!』
『……放火で俺の家族を殺したイチジョウイン・ソウみたいなんだよ』
『話せ、詳しく』

 大金持ちの一人息子で、有名な私立学校一番の優等生だったイチジョウイン・ソウ。かつて兄『セイ』がいたらしいが事故で早くに亡くなっている。だが子供に無関心な親を除く周りからの評判は、『怖い人』『サイコパス』『いじめっ子』……優等生だが、同時に凄まじい問題児でもあったのだ。しかも普通のサイコパスなら社会的に異常な所を隠そうとするのに、『僕を認めない社会が悪い』と何も異常性を隠そうとしていなかった。
人として終わっている、過激で破滅的な性格をしていて、破壊と殺傷行動にしか興味を持たずその他の事はどうでも良いと考えているらしかった。
その割にやたらと勘が鋭くて、法律的に完全に黒になるかならないかギリギリの所をいつも寸前で回避していたようだ。

 『でも……散々に調査した後で捕まえたソウと実際に顔を合わせたら、随分と印象が違って拍子抜けしたんだ』
『その時には法律的に完全に黒になっていたからだろう』
『……分からない。今でも憶測でしか無いけど……ソウは、全部を壊す事に生き甲斐を見いだしていたんじゃ無いかなって』
『そのソウが――何らかの原因か手段かは不明だが、この世界に来てイアソンに取り憑いたとでも言うのか?』
『……「はいそうです」なんて断言は出来ねえよ。とても。考えるだけで頭がどうにかなりそうになって、無理だ……』
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