116 / 128
魔剣と聖剣
しおりを挟む
『なあ、カイン』
『どうしたジン。今になって怯んだか?』
『いや……魔剣って何なんだろうなって思ったんだ』
『それは……その、「力」だろう』
『捕食と浄化の?何のためにその力が存在しているんだろうな』
『……考えた事が無かった。ジンはどう考えている』
『ウロボロスの蛇って知っているか?己の尻尾を飲み込んでいる、死と再生とか循環とか完全とかを意味する円環の蛇の事だ』
『それがどう関係してくる?』
『本来なら魔剣と聖剣って同じ剣じゃないかと思うんだ。命を浄化して生み出す聖剣、命を喰らって支配し終わらせる魔剣……恐らくどちらかが欠けてもダメなんだろうって。でも陰陽のように、恐らく神々によって二つに裂かれた』
『神話のようだな』
『この世界には太陽文字と太陰文字があるから、そこから適当に思いついただけだけどな』
『仮に魔剣と聖剣が二つに裂かれたとして、その理由は何だ。どうしてそんな事をする必要がある?』
『世界の創世――それと、再構築のためじゃないか?』
『っ!』
『聖剣によって世界が終わってしまった後、神に生き残りがいた。生き残った神は世界を再構築するために魔剣と聖剣を合わせて力を得て――用が済んだ後に引き裂いた。もしもまた聖剣で世界が滅ぶような目に遭ったら、魔剣の力で対抗できるようにって』
『……ジンは、ディーンとイアソンが揃って世界の滅びを願っているとでも言うのか』
『そうだ。俺から見ると――イアソンの行動がおかしいんだ。異常極まりない』
『何がだ?』
『あのさ、俺達には前世の知識がある訳じゃん。俺はその知識を「刀」とか美食のためとか、割と有意義な目的や欲望のために使った……とは思わないか?』
『少なくとも破滅的な目的のためでは無いな』
『そうだ。でもイアソンの行動は一貫して破滅的なんだよ。
リンドス伯爵家と繋がって、婚約者や先の皇帝を殺させて、デボラを襲わせて、魔幸薬を生み出して、貴族派を腐敗させ堕落させ、魔人族を奴隷にして虐げて殺して……。
俺と同じ金持ち貴族で前世の知識もあるのに、そこからは何も生み出していないんだぜ?』
『……確かに、おかしいな。ジンの下らない知識でさえ、もう少し欲があれば皇帝に成り代わる事も夢ではない程だったのに……』
『「刀」をバカにするんじゃねえ!切腹させるぞ!
……でも、カインの言う通りだ。
知識があるのに披露しないとか――ましてや知識を使って活躍しないなんて、俺達からすれば「異常」なんだよ』
『その理由が、世界を滅ぼすためだと?』
『聖剣の中のディーンはまだ分かるんだ。カインに何もかも壊されて殺されて、もう誰もいないし何も無いから。だけど……イアソンは……まるで……』
『ジン、俺に何を隠している!答えろ!』
『……放火で俺の家族を殺したイチジョウイン・ソウみたいなんだよ』
『話せ、詳しく』
大金持ちの一人息子で、有名な私立学校一番の優等生だったイチジョウイン・ソウ。かつて兄『セイ』がいたらしいが事故で早くに亡くなっている。だが子供に無関心な親を除く周りからの評判は、『怖い人』『サイコパス』『いじめっ子』……優等生だが、同時に凄まじい問題児でもあったのだ。しかも普通のサイコパスなら社会的に異常な所を隠そうとするのに、『僕を認めない社会が悪い』と何も異常性を隠そうとしていなかった。
人として終わっている、過激で破滅的な性格をしていて、破壊と殺傷行動にしか興味を持たずその他の事はどうでも良いと考えているらしかった。
その割にやたらと勘が鋭くて、法律的に完全に黒になるかならないかギリギリの所をいつも寸前で回避していたようだ。
『でも……散々に調査した後で捕まえたソウと実際に顔を合わせたら、随分と印象が違って拍子抜けしたんだ』
『その時には法律的に完全に黒になっていたからだろう』
『……分からない。今でも憶測でしか無いけど……ソウは、全部を壊す事に生き甲斐を見いだしていたんじゃ無いかなって』
『そのソウが――何らかの原因か手段かは不明だが、この世界に来てイアソンに取り憑いたとでも言うのか?』
『……「はいそうです」なんて断言は出来ねえよ。とても。考えるだけで頭がどうにかなりそうになって、無理だ……』
『どうしたジン。今になって怯んだか?』
『いや……魔剣って何なんだろうなって思ったんだ』
『それは……その、「力」だろう』
『捕食と浄化の?何のためにその力が存在しているんだろうな』
『……考えた事が無かった。ジンはどう考えている』
『ウロボロスの蛇って知っているか?己の尻尾を飲み込んでいる、死と再生とか循環とか完全とかを意味する円環の蛇の事だ』
『それがどう関係してくる?』
『本来なら魔剣と聖剣って同じ剣じゃないかと思うんだ。命を浄化して生み出す聖剣、命を喰らって支配し終わらせる魔剣……恐らくどちらかが欠けてもダメなんだろうって。でも陰陽のように、恐らく神々によって二つに裂かれた』
『神話のようだな』
『この世界には太陽文字と太陰文字があるから、そこから適当に思いついただけだけどな』
『仮に魔剣と聖剣が二つに裂かれたとして、その理由は何だ。どうしてそんな事をする必要がある?』
『世界の創世――それと、再構築のためじゃないか?』
『っ!』
『聖剣によって世界が終わってしまった後、神に生き残りがいた。生き残った神は世界を再構築するために魔剣と聖剣を合わせて力を得て――用が済んだ後に引き裂いた。もしもまた聖剣で世界が滅ぶような目に遭ったら、魔剣の力で対抗できるようにって』
『……ジンは、ディーンとイアソンが揃って世界の滅びを願っているとでも言うのか』
『そうだ。俺から見ると――イアソンの行動がおかしいんだ。異常極まりない』
『何がだ?』
『あのさ、俺達には前世の知識がある訳じゃん。俺はその知識を「刀」とか美食のためとか、割と有意義な目的や欲望のために使った……とは思わないか?』
『少なくとも破滅的な目的のためでは無いな』
『そうだ。でもイアソンの行動は一貫して破滅的なんだよ。
リンドス伯爵家と繋がって、婚約者や先の皇帝を殺させて、デボラを襲わせて、魔幸薬を生み出して、貴族派を腐敗させ堕落させ、魔人族を奴隷にして虐げて殺して……。
俺と同じ金持ち貴族で前世の知識もあるのに、そこからは何も生み出していないんだぜ?』
『……確かに、おかしいな。ジンの下らない知識でさえ、もう少し欲があれば皇帝に成り代わる事も夢ではない程だったのに……』
『「刀」をバカにするんじゃねえ!切腹させるぞ!
……でも、カインの言う通りだ。
知識があるのに披露しないとか――ましてや知識を使って活躍しないなんて、俺達からすれば「異常」なんだよ』
『その理由が、世界を滅ぼすためだと?』
『聖剣の中のディーンはまだ分かるんだ。カインに何もかも壊されて殺されて、もう誰もいないし何も無いから。だけど……イアソンは……まるで……』
『ジン、俺に何を隠している!答えろ!』
『……放火で俺の家族を殺したイチジョウイン・ソウみたいなんだよ』
『話せ、詳しく』
大金持ちの一人息子で、有名な私立学校一番の優等生だったイチジョウイン・ソウ。かつて兄『セイ』がいたらしいが事故で早くに亡くなっている。だが子供に無関心な親を除く周りからの評判は、『怖い人』『サイコパス』『いじめっ子』……優等生だが、同時に凄まじい問題児でもあったのだ。しかも普通のサイコパスなら社会的に異常な所を隠そうとするのに、『僕を認めない社会が悪い』と何も異常性を隠そうとしていなかった。
人として終わっている、過激で破滅的な性格をしていて、破壊と殺傷行動にしか興味を持たずその他の事はどうでも良いと考えているらしかった。
その割にやたらと勘が鋭くて、法律的に完全に黒になるかならないかギリギリの所をいつも寸前で回避していたようだ。
『でも……散々に調査した後で捕まえたソウと実際に顔を合わせたら、随分と印象が違って拍子抜けしたんだ』
『その時には法律的に完全に黒になっていたからだろう』
『……分からない。今でも憶測でしか無いけど……ソウは、全部を壊す事に生き甲斐を見いだしていたんじゃ無いかなって』
『そのソウが――何らかの原因か手段かは不明だが、この世界に来てイアソンに取り憑いたとでも言うのか?』
『……「はいそうです」なんて断言は出来ねえよ。とても。考えるだけで頭がどうにかなりそうになって、無理だ……』
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる