上 下
106 / 128

どうも、俺です。俺ですよ?オレオレ詐欺じゃありませんからね?

しおりを挟む
 物資はあるが俺達には時間的な制限があった。
本格的な冬将軍が到来してしまう前に、オリュンポス城を孤立無援にする必要があったのだ。
この極寒のヤヌシア州において、野営で冬を越すと言うのは自殺行為なので――いくらマリウス卿でも、雪が降る直前に一時撤退か、兵舎代わりの建物のある州都テーバーイまで軍を下げるだろう。
「多めに時間を見積もっても……後2週間が勝負だ」
ストラトスが地面に伏せながら呟いた。俺は枝越しに根城を見つめて、頷く。
「あの拠点も、今日中に落とさないとね」
今度は昼間の襲撃だ。
勝算は、ある。
あの根城で奴隷にされているのがエルフ族ばかりなので、それを使うのだ。
「――では、行くぞ」
「ああ!」
ペトロニウスとネフェリィが『共感』を始めた。
外で働かされていたエルフ族の女子供が、ハッと辺りを見回す。
警備の人間が苛立った様子で、
「手を止めるなと言ったはずだ!」
と振り上げた鞭が……ポロリと落ちた。
「――っ、何だ、この大声はっ!?」
全員、頭を抑えて、もだえ苦しむ。
その間にも、外にいる全てのエルフ族の女子供は目を閉じて手を合わせて――。
俺は叫んだ。
「今だ!」
そして我先に魔幸薬に使われている薬草畑を踏み荒らしながら突撃した。
「――キィエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 「『共感』には特定の波がある。エルフ族のみに聞こえる音波のようなものだと思ってくれて構わない」
とペトロニウスは話してくれた。
『へえ、脳波みたいなものか』
『距離を一瞬で超える所が異なっているようだがな』
「その波を大勢のエルフで一時的に増幅させて、根城のニンゲン共に『当てる』。頭の中で凄まじい音が響くようなものだ、大半のニンゲンは一時……動けなくなる」
『超音波で体の中の結石を砕く感じか……』
『後が、痛そうだな』
「それは間違って俺達に当たったりしないのか」
ストラトスが怯えながら言うと、
「それが問題なのだ。乱戦の真っ最中に多数の敵のニンゲン共の、正確な位置をどうやって把握するか。それが出来なければ、奇襲をただ知らせるだけになってしまう」
「それはいかんのう……」
キプリオスのじいさんも顔をしかめた。
ここで行き詰まるかと思った時、俺は気付いた。

『待てよ。魔剣ドゥームブリンガーの索敵機能が使えないか?』
『使えるが、どうやってエルフ共に伝えるんだ』
『ネフェリィがいる』
『そうか!あのエルフの女は確かに俺達の支配下にある』

「あの、それなら僕が出来るよ。闇魔法でネフェリィに伝えるから、それで何とかならないかな」

 ……案の定、制圧が完了した俺達の前に引きずり出されたのは、元エヴィアーナ公爵令嬢のガラテアを始めとする元・貴族共だった。
美形のエルフの男をはべらせてさぞかし楽しい思いをしていたようで、全員、何と下半身が素っ裸である。
男も女も。老いも若きも。
無性に俺はオリンピア嬢に会いたくなった。
この醜い生き物と比べられないくらいに、彼女はとても美しい人だから。
――その美しいオリンピア嬢を、そうだ、このガラテアって女はかつて存分に虐げてくれたんだ。
これはしっかりと拷問のフルコースで歓迎しなきゃいけないな。
「覚えている?どうも、僕です。僕ですよ?オレオレ詐欺じゃありませんからね?」
ちゃんと魔法の詠唱が出来ないように顎を外してあるので、寒さに震え、涙を流して呻いているだけだ。
「カイン、終わったぞ。全員を助けた」
うん、根城が瓦礫の山になって薬草畑が再起不能に踏み荒らされていて、忌まわしい景色がとってもスッキリしたな。
本当は燃やしたいけれど、今は我慢だ。
「私達はこのまま皆を連れて戻る。後は……頼むぞ」
中継地点としてとても頑張ったネフェリィは疲れてしまったようで、ペトロニウスに背負われていた。
「うん、このまま落としてくるよ」
「成功を、願う」
「必ず」

それから少し用意をして……、
「よし、じゃあ行こうか!」
俺達は素っ裸の元・貴族達を全員――丸太で作った即席の十字架に磔にして、オーガ族に担いで貰いながら次の拠点を目指すのだった。
今日は2つの拠点を一気に落とすつもりだったので、最初の拠点を燃やした煙で先に気付かれる可能性は無くしたかったのだ。
しおりを挟む

処理中です...