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オーガ族の名誉

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 そのまま俺は――乗っていた馬だけ残して拉致されて、オリュンポス城から森と河を挟んで遠く離れた魔人族の抵抗組織『ガイア』の拠点に連れて行かれた。足跡や臭いで追跡されないように、念入りにそれらを消去しながら。
かつてはそれなりの規模の村だっただろう場所が、村ごと『ガイア』の拠点になっていた。
堀に囲まれた拠点の防柵の中には子供達が結構いて、俺がやって来たので物珍しそうに遠巻きにしている。
「まさか爺様ご本人がいらっしゃるとは思わなんだ」
そこの族長であるストラトスはかつての村役所の『執務室』と書かれた部屋に俺達を案内すると、そこの敷物にどっかりと腰を落とした。キプリオスのじいさんは早々にその隣に座って、
「カインの坊ちゃんの領地にあるドワーフ村にワシが居らずとも、問題はまず起きんじゃろうからな」
「話には聞いていたが、そんなに良い場所なのですか」
「飯は美味いし肉が多い、酒も飲み放題に近い。寝床はいつもフカフカで、『刀』を打てば打つほどに金貨が目の前にこれでもかと積まれる。二日酔いで休んでも文句は言われん。許可無く勝手に外に出る事だけ禁じられておるが、あんな良い村なら勝手に出て行く気にもなれんわい」
これを聞け、とじいさんは腹をポーンと叩いて見せた。
「全員、太ったんじゃ!」
「……それは……確かなようですな。まあ貴様も座れ」
俺はストラトスに対面するように座った。
「貴様、我ら『ガイア』に何が望むのだ?」
戦化粧を施された顔が、俺を見据える。
ここが勝負所だ。
俺は切り出した。
「僕の戦力になって欲しい」
「断る。聖剣ネメシスセイバーを奪われた我らの屈辱と、家族を人質に取られてニンゲンに使い捨てられている同胞の苦境を貴様は知っているのか!」
「知らない。だから、知らなきゃいけないんだ」
「ニンゲンの言葉遊びに付き合うつもりは無い!」
「遊びに来たんじゃ無いよ」
ここで、俺は魔剣の中に放り込んでおいたネフェリィを吐き出させた。
「えっ!?どうしてここに!?」
「ネフェリィ、貴様いつの間に!?」
「何の手品じゃ!?」
3人が驚いているが、俺はさっさとネフェリィに聞いた。
「エルフの族長のペトロニウスは何処にいる?」
「誰が貴様なんかに答え――この『ガイア』の拠点の西にある倉庫にいる。
――えっ!?何で私の口が勝手に話しているんだっ!?」
「そうか」
俺は立ち上がって村役所から出て、さっさと村の西にある倉庫群を目指した。待てと叫びながら背後から3人が追いかけてくる。
もう『共感』で知らされていたようで、一番偉そうなエルフの男が俺の前に立ちはだかった。
「ニンゲンが私に何の用だ!」
「『刀』は何処に仕舞ってある?」
もう一度、俺はネフェリィに訊ねた。
「一番奥の――だから何で勝手に口が動く!?」
「ネフェリィ、貴女は何をやっているんだ!?」
ペトロニウスが動揺した一瞬を突いて、俺は倉庫群の一番奥へ歩いて行く。
鍵を闇魔法で壊して、中に入ると――あった。
俺が事前に手配した特別製の『刀』500振が、ぎっしりと積まれていた。
「貴様ァ!」
俺に掴みかかろうとしたストラトスに、俺は『刀』を差し出した。
「受け取って欲しい。これはオーガ族のために作らせた『刀』だ」
「ッ!」
「鞘から抜こうとしても今までは抜けなかっただろう?ドワーフ族に頼んで、施錠してあるんだ。鍵は俺だけが持っている」
鍵を使って解錠し、試しに少しだけ『刀』を抜くと、美しい刃がギラリと輝いた。
「どうか受け取ってくれ」
「……これを振るって、俺がニンゲンの貴様を殺すとは思わないのか」
「オーガ族にとって『武器を贈る』事がどんな意味を持つのかは知っている」
武勇に長けた彼らにとっては最高最大の名誉であり、一人前かつ対等以上の相手として認めた証なのだ。
「ある世界では――かつて、この『刀』は誇りと尊厳の証だった。これを持つ事を許された者は己の命よりも武勇と誇りを重んじる戦士だけだったんだ。
故に、僕は『刀』を貴男達に敬意と共に進呈する」
「ストラトス、駄目だ!いくらキプリオスの爺様がいても、相手はあのニンゲンなのだぞ!」
ペトロニウスがストラトスを止めようとするが、もう手遅れだ。
「カイン……と言ったな」
「僕の戦力になってくれ。オーガ族を誇り高い戦士の一族と見込んで、頼む」
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