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どうして貴方が

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 オリンピア嬢とバルトロマイオスを館まで送り届けた後、そのまま俺は執務室にいるデルフィア侯爵に会いに行った。運良くこの数日はオクタバ州の州都でなくて、帝都にいると聞いていたから。
それに、オリンピア嬢は精神的に疲弊しているし、バルトロマイオスは頭に血が上りすぎた所為で完全な興奮状態で、まともな話が出来る有様じゃなかったのだ。

「デルフィア侯爵、失礼します」
俺は簡単に今日あった事と、今日までオリンピア嬢がワガママクソ女から受けていた犯罪やデルフィア侯爵家への真っ赤な濡れ衣について話した。
「……」
デルフィア侯爵は顔色一つ変えないで、頷いた。
「例えそうであろうと、デルフィア侯爵家は貴族派に属している。貴族派を守らねばならないのだ」
やっぱり、そうか。
俺はデルフィア侯爵と俺の周辺だけに結界を展開してから、言った。
「これで盗聴は出来なくなりました」
盗撮の可能性も考えて、デルフィア侯爵の胸ぐらを掴んで顔を寄せる。
オリンピア嬢の件で激怒した俺が、父親であるデルフィア侯爵に罵声を浴びせて恫喝している。
とても周りに聞かれては困るような汚い言葉を使っている。
これで、そう見えるだろう。
「理由を聞いてくれるのか」
「貴方は貴族派として今もなお暗躍なさっている。なのにあの香水瓶を皇后派に渡すにあたって、黙認されましたね。俺達の計画にあえて巻き込んだバルトロマイオスから聞いて知っていたでしょうに。
生粋の貴族派でありながら肝心な所で矛盾する貴方の行動の理由が、僕にはどうも理解できない。どちらにも良い顔をしたいと言う動機でも無さそうです」
観念したようにデルフィア侯爵は口を開いた。
「長い話になるが、どうか……最後まで聞いてくれ」

 「私とイアソン……いや、エヴィアーナ公爵と言えば君もすぐに分かるか。年齢が近しかった事もあり、幼い頃から貴族派の『投票権』を持つ名門の子弟として、私達はリュケイオン学園でもとりわけ親しく付き合っていた。
――その頃、貴族派はまともだった。かつては大帝派と呼ばれていた今の皇太后派、そして今の皇帝派である皇太子派とは立ち位置や考え方こそ違えども、この帝国の未来を真剣に議論し案じる同志だった。現状のように上から下まで腐敗し、悪魔の薬を平民に蔓延らせるほど衰退しきってはいなかったのだ」
「何があったのですか」
「最初に……貴族派の首長であったイアソンの父親がいきなり……『狂った』のだよ。急病に倒れた直後に」
「狂った?」
それなら、跡取りのイアソンがおかしくなった父親から当主の座を奪い、座敷牢に入れたりしなかったのか?
高位の貴族の責任者なら、一族の恥さらしを恐れてそうする事がほとんどだろう。
「まるで別の人間が体を奪ったようだった。理由は未だに不明だ。『ここはニホンじゃないのか』『異世界じゃないか』……他にも色々と訳の分からない言葉を言い、エヴィアーナ公爵として断じてあり得ない奇矯な振る舞いをもした」
……俺みたいに誰かの体の中に転生したヤツが他にもいたって事か。
「当然、イアソンは父親を幽閉した。泣く泣くだが彼は貴族の責務を果たした。……それでこの件は片付いたと私達も安堵したよ」
デルフィア侯爵は静かに目を伏せた。
「だが、次はイアソンだった」
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