【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件

面接

　家に帰ってデボラに相談したら、どのみち採用面接が必要だと言うことで、レクスの母親とデボラとで、その隠し子と俺の家で会うことになった。
そーっとそーっと足音を忍ばせて『面接部屋』に近づき、俺はこっそりと扉の隙間から覗き見る。
「――ゾエ・ステュニア・パロと申します」

　あっ、カインの愛人だった女性だ。
フェニキア公爵家の家庭教師になったんだけれど、年下のカインを愛してヴァリアンナを娼館に墜とす時に手伝ってくれた。だが、その後でカインに無残に捨てられて自害した、加害者兼被害者の一人でもある。
きっと彼女も俺が変な事をしなけりゃ家庭教師として平穏に生きていけたはずなのだ。
カインに無理矢理迫られて（ヴァリアンナ狙い）、でも口だけの愛を囁かれたことでキャラが変わっていくからな。

　『何だ、俺の愛人の一人じゃないか！』
『黙れ変態野郎！マジでキモいぜ』
『貴様……何だと！？』
『大体さ、年上の女を最初の愛人にする辺りマザコンっぷりが酷いんだよ。変態性癖オールインワンの光源氏と良い勝負だぜ？』
『貴様……貴様ァ！』
『でも残念でした、デボラはそこで面接中ですぅー。何なら「ゾエをぼくのあいじんにして」って可愛らしくオネダリしてやろうか？ハッ、汚物を見るような視線がオマエを待っているぜ！』
『ぐっ……！』

　「話は聞いているでしょうけれども、これは貴女の採用面接でもあります」
「……はい。よろしくお願い申し上げます」
「調べたところ、貴女は貴族として適切な教育は受けていらっしゃるようね」
「祖父が土地を売ってリュケイオン学園に通わせて下さいました」
「ええ、成績も上々ね――だからこそ訊きたいわ。どうして貴女は卒業まで1年と言うところで中退したのかしら？貴女の成績ならば返済不要の奨学金を貰うことも出来たでしょう」
「祖父が……亡くなって身元の保証人がいなくなったからです」
「男爵家を継いだお母様がいらっしゃるのに？」
「私生児を産んだ母は……保証人として不適切だと判断されました。また、土地を売ったことで……元々、経済的にも困窮しておりましたから」
「そうね。残念だけれども貴女のお母様は領地経営者としては相応しい方では無いと私は思います。一月前……カッサロ男爵家の領民の不満の声が帝国城にまで届いています」
普通だったら、そんなことは無い。
貴族の領地にいる代官が直訴でもしない限りは、あり得ないんだ。
代官が帝国城に訴えるなんて行動に出るのは、領主である貴族を見限り、己の処刑も覚悟の上で――それほどに追い詰められた時だけだからだ。
――代官にさえ見限られたなんて、貴族にとっては恥とか屈辱とかそう言う段階をふっ飛ばして『終わり』なのである。
きっとカトー公爵を追いかけるのに夢中だったんだろうな……。
「はい……」
「話を変えましょう。貴女が家庭教師を務めるとしたら、何を最も優先的に教えたいですか？」
「マナーを何よりもお教えしたいと思っております」
「理由は？」
「振る舞いが人を決めます。無様な振る舞いをする者には、同類しか集まりません」
ゾエは顔を真っ直ぐにデボラに向けて、強い声でそう言った。