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1話

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「アリシア、たった今、君との婚約を破棄することをここに命じる」

婚約者である、ラクマは吐き捨てるように言い放った。

せっかくの、夜会だというのに。残念です。

なんとなくわかってはいました。彼はおそらく妹が好きなのだろうと。

「そうですか。わかりました。私ではなく、本当にいいんですね?」

「ああ。構わん。僕は君ではなく、妹のアルマと婚約を結ぶ」

やはりでしたか……。

「アルマは少々、危険かもしれませんよ?」

「何を言っているんだアリシア。君がショックなのは分かるが、そんな戯言は耳に響かんよ」

私の思った通り、やっぱりこうなってしまったのね。

彼のことを思って、忠告してあげたのに。

そもそもアルマはラクマのことをどう思っているのだろうか。

私の見ている様子では好意など少したりとも感じない。

まあそれもそのはずでしょう。

だって、妹は……。

「--私ですか??」

「あ、アルマ……。聞いていたんだね。なら、話は早い。僕と婚約をしてくれないか?」

「婚約ですか……。そうですね……」と言いながら、アルマはこちらを哀愁を漂わせ見つめる。

「いいですよ」

「ほ、本当に?!」

「ええ。ラクマ様ならば私としても光栄です」

アルマはニヤッと不敵な笑みを浮かべて答えた。

「そうか。ありがとうアルマ‼︎」


ラクマは隠そうともせず態度に出して喜んでいる。

おそらく、それがことを知らずに。

私にはそれがわかります。
だからこそ、とても残念です。

親同士が決めた婚約者とはいえ、全く持って情がないわけではありません。

たしかに、正直なところ彼に恋愛感情はありませんが、それでも思いやる気持ちくらいはあるものです。

だって、妹は……妹は貴方をきっと。


「式をあげるのであれば、なるべく早い方がいいですね。私もすぐにでもラクマ様の妻となりたいので。いつにいたしましょう?」

「そうか……アルマも僕のことを愛してくれていたんだね。知らなかったよ。こんなにも嬉しいことはない。そうだな……来週でも構わん。どのみち、アリシアとも年内に結婚する予定だった訳だし、僕としても早いに越したことはないよ」

「そうですか。では、このことを皆様にも報告するとしましょう」

ああ、もうこうなってしまった以上きっと止まることはない。


妹は……どうしようもなく私のことを好いている。

ラクマは、純粋に婚約を結べたと喜んでいるけれど、それはきっと復讐するための罠なんでしょうね……。

私を裏切ったら、妹は怖いですよ。
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