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本編
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「君と別れてからいろいろと考えたんだ。僕はアリスがいないとこんなにも何にもできない人間なのかと、少々落ち込むこともあったくらいだよ」
私は別に聞いてもいないのに、勝手にアルト王子が話しだした。
彼が落ち込もうがどうだろうが私の知ったことではない。
彼との関係はすでに終わっているからだ。
「思えば君はいつだって、僕のために尽くしてくれたね。美味しい手料理を振る舞ってくれたこともあったし、僕が体調を崩した時には執事に代わって君が介抱してくれたこともあったよね」
今更そんなことを言われると、なんだかむず痒く感じて、吐き気さえしそうだ。
どうしようもない彼のために必死で尽くしていた当時のことは思い出したくもない。
「結局、何が言いたいんですか? もしかして、ヨリを戻そうとでもおっしゃるつもりです?」
私が問うと、アルト王子は目をパチクリさせて動揺を見せた。
そんな……まさか……自分から振っておいて、ヨリを戻そうだなんて、何がなんでも虫が良すぎる。
「勿論、これは僕が決めたことだ。だから、君の意思次第で構わない。僕と再度婚約をしてほしい。僕には君しかいないんだよ!」
「嫌です。断じて嫌です」
「嫌ですって……言葉の綾であって、拒否していいとは一言もいってないんだけどなぁ。王子である僕に逆らうとは君もなかなか釣れないなぁ」
この男は昔からこうだった。
道徳心の強い、人道的な者を装い、中身はどうしようもないクズ。
優しいふりをして他人に近づき、自分に都合のいいように相手を取り込む。
いわば詐欺師のような人だ。
それに私は今彼が大嘘をついていることにも気がついている。
正確には知っているの方が正しいのだろうか。
「いいんですか? 一昨日、別の女性に振られたからといって、私に告白なんかして」
「どうしてそのことを……耳が早いな。この際だから言っておくけれど、彼女のことは好きでもなんでもない。ただ向こうが自分に気があると勘違いして、お世辞としての発言をプロポーズと思ったらしいんだ。だからこうして、僕が振られたような噂が出回ってるのさ」
間違いなく嘘だろう。
おそらくアルト王子が婚約依頼か何かをして、実際に振られてしまっただけ。
こんな言い訳をするなんて、王子として恥じるべき……いいや人として恥じるべきだ。
もうこの際だから私もはっきりしておきたい。
私は彼のことが心の底から嫌いなのだ。
二度と私と関わらないように、思いを直接伝えることにしよう。
王子だからといって、私が容赦する必要もない。
なぜなら、私は他国の姫なのだから。
「はっきり言わせて貰いますが、それってあなたの感想ですよね?」
「へ????? 僕の感想??? なんの話をしているんだい」
「言い訳とかすごくダサいので辞めた方がいいと思いますよ。振られた事実を認めてください。そして、振られたからとりあえず私と婚約しとこうって考えも捨ててください」
「クッ……どうしてそんなことが言えるんだ君は」
「いいですか? そもそも私を先に振ったのはあなたですし、もしあなたが振らなくても私があなたを振ってました。どのみち婚約破棄は成立してたということです。それを今更、ヨリを戻すとか気持ち悪いことするの辞めてもらっていいですか? 私はアルト王子のこと大嫌いですし、他にも求婚者はいくらでもいるので、帰ってもらってもいいですか?」
「どこまで生意気な態度をとるつもりかな? 流石の僕も怒っちゃうよ?」
「そういう気持ちの悪い怒り方も辞めてもらっていいですか? もし怒るんならはっきりと怒りを露わにしてほしいです。なよなよした感じでこないでいただきたい。私の覇気に動揺して、ビビってるんですかねぇ?」
「いや、そんなことは……」
「うるさいです。とっとと視界から消えてください」
「は、は~い。ごめんね~なんか、そうだよねぇ……僕のこと嫌いだよね……えええええええええんお母様にだって気持ち悪いだなんて言われたことないのにいいいいい生まれて初めてそんなこと言われたよ。ええええええええん。ぴえんぴえん」
アルト王子は、泣き喚きながら私の元を去った。
なんともオチのつかない話である。
私は別に聞いてもいないのに、勝手にアルト王子が話しだした。
彼が落ち込もうがどうだろうが私の知ったことではない。
彼との関係はすでに終わっているからだ。
「思えば君はいつだって、僕のために尽くしてくれたね。美味しい手料理を振る舞ってくれたこともあったし、僕が体調を崩した時には執事に代わって君が介抱してくれたこともあったよね」
今更そんなことを言われると、なんだかむず痒く感じて、吐き気さえしそうだ。
どうしようもない彼のために必死で尽くしていた当時のことは思い出したくもない。
「結局、何が言いたいんですか? もしかして、ヨリを戻そうとでもおっしゃるつもりです?」
私が問うと、アルト王子は目をパチクリさせて動揺を見せた。
そんな……まさか……自分から振っておいて、ヨリを戻そうだなんて、何がなんでも虫が良すぎる。
「勿論、これは僕が決めたことだ。だから、君の意思次第で構わない。僕と再度婚約をしてほしい。僕には君しかいないんだよ!」
「嫌です。断じて嫌です」
「嫌ですって……言葉の綾であって、拒否していいとは一言もいってないんだけどなぁ。王子である僕に逆らうとは君もなかなか釣れないなぁ」
この男は昔からこうだった。
道徳心の強い、人道的な者を装い、中身はどうしようもないクズ。
優しいふりをして他人に近づき、自分に都合のいいように相手を取り込む。
いわば詐欺師のような人だ。
それに私は今彼が大嘘をついていることにも気がついている。
正確には知っているの方が正しいのだろうか。
「いいんですか? 一昨日、別の女性に振られたからといって、私に告白なんかして」
「どうしてそのことを……耳が早いな。この際だから言っておくけれど、彼女のことは好きでもなんでもない。ただ向こうが自分に気があると勘違いして、お世辞としての発言をプロポーズと思ったらしいんだ。だからこうして、僕が振られたような噂が出回ってるのさ」
間違いなく嘘だろう。
おそらくアルト王子が婚約依頼か何かをして、実際に振られてしまっただけ。
こんな言い訳をするなんて、王子として恥じるべき……いいや人として恥じるべきだ。
もうこの際だから私もはっきりしておきたい。
私は彼のことが心の底から嫌いなのだ。
二度と私と関わらないように、思いを直接伝えることにしよう。
王子だからといって、私が容赦する必要もない。
なぜなら、私は他国の姫なのだから。
「はっきり言わせて貰いますが、それってあなたの感想ですよね?」
「へ????? 僕の感想??? なんの話をしているんだい」
「言い訳とかすごくダサいので辞めた方がいいと思いますよ。振られた事実を認めてください。そして、振られたからとりあえず私と婚約しとこうって考えも捨ててください」
「クッ……どうしてそんなことが言えるんだ君は」
「いいですか? そもそも私を先に振ったのはあなたですし、もしあなたが振らなくても私があなたを振ってました。どのみち婚約破棄は成立してたということです。それを今更、ヨリを戻すとか気持ち悪いことするの辞めてもらっていいですか? 私はアルト王子のこと大嫌いですし、他にも求婚者はいくらでもいるので、帰ってもらってもいいですか?」
「どこまで生意気な態度をとるつもりかな? 流石の僕も怒っちゃうよ?」
「そういう気持ちの悪い怒り方も辞めてもらっていいですか? もし怒るんならはっきりと怒りを露わにしてほしいです。なよなよした感じでこないでいただきたい。私の覇気に動揺して、ビビってるんですかねぇ?」
「いや、そんなことは……」
「うるさいです。とっとと視界から消えてください」
「は、は~い。ごめんね~なんか、そうだよねぇ……僕のこと嫌いだよね……えええええええええんお母様にだって気持ち悪いだなんて言われたことないのにいいいいい生まれて初めてそんなこと言われたよ。ええええええええん。ぴえんぴえん」
アルト王子は、泣き喚きながら私の元を去った。
なんともオチのつかない話である。
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