上 下
115 / 116
おまけ

IF:絶対に起きえなかった奇跡の話-2

しおりを挟む

 後日、約束を取り付けて庭園で顔を合わせたヴィオラは、恥ずかしそうにしていたが、騒がせたことや気絶して別荘まで運ばせたことなどを謝罪した。イザークはそれをなるべく気にしないよう、それとなく話を逸らした。

 しばらく庭園に出した横長の椅子へ並んで掛けて談笑してから、手振りで侍従たちを遠ざける。
 イザークはこの日、ヴィオラに重要な話があった。

「ヴィオラ。私は父王に、ある提案をしようと考えている。だが、先にそなたの意向を聞いておきたい」
「私の、ですか?」
「ああ。そなたの友として、率直な言葉が欲しい。だからそなたも、私が王太子であることは忘れてくれ。どのような答えでも、私はそなたの意見を尊重する。公爵家にも何の影響もないようにする」
「……かしこまりました」

 不思議そうにしていたヴィオラは、イザークの念入りな前置きに表情を曇らせた。

「もうじきに、私の婚約者を選ぶ頃合いが来る」
「はい」
「私は……。私は、そなたを妻に迎えたいと、思っている」

 喉でつっかえながらようやく吐き出すと、ヴィオラは一瞬言葉を失い、そしてすぐに持ち直した。

「国内でお相手を探すとなれば、当家は爵位等を勘案して、恐れながら、妥当かと考えます。ですが……」
「違う、ヴィオラ」

 冷静な友の顔で話し始めたヴィオラを、止める。そんな言葉を聞きたいのではない。

「妥当であるからそなたを選ぼうとしているのではない。そなたを、愛しているからだ。友としてではない。一人の男としてだ」
「え……」

 その困惑の表情に、先ほどから覚えていた胸の痛みが重く、強まった。

「戸惑うのはもっともだ。そなたは私を友としか思っていないだろう。だが私はもう何年も……。それにそなたは……、つい先日まで、体の事情で、普通の結婚をする心積もりをしていなかった」

 イザークと友としか思っていないし、同年代の誰かと普通の結婚をできるつもりも無かったはず。それが、子供を生める可能性が出てきた。

「すまない。先日そなたが倒れた折に、公爵から聞いた。命じて、無理強いした」
「いえ……。殿下の目の前で倒れたのです。事情をお尋ねになるのは当然のことです」

 事情を知って、イザークは恐怖した。イザークは、ヴィオラが将来自分の妃に望まれているから引き合わされたのだと考えていた。実際は、イザークに指導的な友をという父王の考えと、まともな結婚ができないなら官僚にという彼女の父の意向が噛みあっただけだった。イザーク以外は、彼女の体のことを承知していた。
 しかし、もう今さら忘れられないほど、イザークはヴィオラに恋していた。当然のように、婚約者はヴィオラを、と父王に伝えるつもりだった。もし彼女を妃に迎えることは叶わないと告げられていたら、どうしていたのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。

「そなたは王に並び立つ、為政者としての力を備えている。だが、体のことを思えば、苦難の道となるおそれがある。私は、そなたにその道を共に行かせるか、正直なところ、躊躇っている」

 奇跡的に可能性が出てきたと知っても、イザークはこれでヴィオラと結婚できるなどとは喜べなかった。あくまで可能性であって、後継者を残すという重要な役目を果たせるか、まだ分からないのだ。
 子が産めなければ、直系ではない王族から継承者を選定することになる。しかしそうなればその権利を持つ者は複数名になり、王位を求める争いが起き国が乱れるおそれがある。イザークが矢面に立とうとも、ヴィオラも責められるだろう。

 ヴィオラが目を伏せ、涙をこぼした。
 やはり、これは叶わない恋だったのだ。早いうちにわかってよかったと、イザークは自分に言い聞かせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のお兄様【WEB版】

ハジ
ファンタジー
悪役令嬢の兄に転生した男子高校生が可愛い妹の為に頑張るお話です。 本作は電子書籍(kindle unlimited)として出版しています。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m

【第二章開幕】男子大学生は二度召喚される

皇める
BL
  「シュウ……やっと会えた。もう二度と離さない。ずっと俺の側に居てくれ……」 「え……?待って、本当にユリウスなの!? 俺、どうやってまた異世界へ来れたの?」 今、俺を逃がさんとばかりに抱きしめている男の名はユリウス。一度目の異世界転移で出会った時はまだ5歳の子どもだったのに、目の前に居るユリウスは俺と同じくらいの歳の姿になっている。 どうして俺は二度目の異世界転移をしたんだ? ◇◆◇ 俺、葛城秋也は異世界ものの物語が大好きな、ごく普通の大学生1年だった。 しかしある日突然、異世界転移しそこで出会ったのが幼い獣人のユリウス。 母親を亡くしてひとりぼっちのユリウスとしばらく一緒に暮らしていた。 孤独と愛情に飢えていたユリウスに俺はたくさんの愛情を注いだ。 しかし、ある出来事がきっかけで俺は元の世界に帰還した。 ユリウスとの突然の別れ……またひとりぼっちにさせてしまった後悔と罪悪感。そしてもう二度と会えないと知り絶望した。 そんな中、まさかの二度目の異世界。 再会できたユリウスは大人になっていて、俺をめちゃくちゃ溺愛してくる。 え?俺を愛してる?恋人になって本当の家族になってほしい?? ちょっと待って?何が一体どうなってるの?? 溺愛激重めの執着束縛系獣人×押しに弱い綺麗系男子大学生 溺愛要素は第二章からの予定です。 少しヤンデレ要素ありの溺愛激重の攻めです。 【第一章・完結】 【第二章・連載中】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めての作品で至らない点や拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願いしたします。 ●第11回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけたら嬉しいです。 ●この作品は作者独自の設定と世界観のお話でご都合世界です。 ●なんちゃって貴族の世界なのでおかしいところがあってもスルーしてください。 ●誤字脱字は投稿前に確認してますが、見落としがある可能性があります。その時は教えていただいたら助かります。 ●この作品は一部残酷・過激な表現があります。ご注意ください。 ●R指定要素には※がつきます。 ●男性妊娠や出産などの描写があります。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

ひとりよがりなFalse Face

水戸けい
BL
 相模原恭平は幼馴染の小西譲に恋をしていた。そして譲もまた、恭平に想いを向けている。けれどそんなことを言えば関係が崩れてしまうのではと、互いに想いを隠して生活をしていた。  そんなとき、ひょんなことから恭平は女装をして譲と疑似恋人になることになった。乗り気の譲。戸惑いながらも、これがチャンスと考える恭平。  うまくかみ合わないふたりの気持ちは――。

処理中です...