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25.届く言葉-7

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「陛下は、このようなことも伝えないまま、あなたを閉じ込めているのですね……」

 一転、オフェリアはやるせなげに微笑んだ。なぜそのような、悲しげな、気の毒そうな顔をするのか。

「落ち着いて、よくお聞きなさい。陛下は、あなたを愛しておられます。私が嫁いでくるより遥かに前から……」
「それは――」

 それは、ヴィオラがあの晩餐の夜に酩酊して迫ったからだ。それをきっかけにイザークはおかしくなって、ヴィオラの思いに応えてしまった。
 そう反論しようと思った。だが、そもそもヴィオラの酩酊は、イザークが仕組んだものだった。

 オフェリアは言葉を切って、少しずつ悟り始めているヴィオラから目を逸らした。ヴィオラは言われたことへの理解が追いつきそうで、その事実に息をするのも忘れていた。

 自分だけが、昔からイザークを愛しているのだと思っていた。イザークはヴィオラのことなど、ただの幼馴染で、友人で、職に就いてからは部下だとしか思っていないと。
 だから彼は年初の相手をヴィオラへ頼めた。そして引き受けた七度の行為は、ヴィオラだけが不貞を働いているはずだった。

「あ、あぁ、ああ……」

 情けない声が出てきて、震える両手で口を塞ぐ。

 嘘だと思いたかった。だが、繋がってしまった。
 どうして厳格な王が、泥酔した幼馴染の、真偽も定かでないうわ言に心を動かされ、たった一度で愛情を抱くようになったのか。ずっと分からなかった。答えは単純なことだった。
 全てが、イザークによる、退職を決めたヴィオラを手元へ置くための奸計だった。あの夜の物の弾みではない。

 イザークも、ヴィオラと同じで、思い人を年初の相手に指名するという禁を犯し続けてきたのだ。彼は礼儀として、王妃と同じだけの熱情を持ってヴィオラを抱いているのだと思っていた。しかしあれらは、ただの厄払いではなかった。通じ合わずとも、お互いへ心は向いていた。
 ヴィオラだけではない。二人ともが、七年以上前から、均衡が僅かにでも揺らげば破滅へ至る、この危険な道を歩んでいたのだ。

「陛下はあなたへの思いが過ぎるあまり、このようなことをなさいました。自身が醜聞にまみれ、国を脅かし、本人さえ欺き苦しめようとも、陛下はあなたを手放したくなかったのです。最早、あなたを解放する方法は、陛下にそのお立場から退いていただくか、あなた自身が陛下の心を変えるしかありません」
「私が……」

 オフェリアは、そう信じて疑わないという真っ直ぐな眼差しをしていた。
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