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25.届く言葉-1
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隣室のバルコニーから飛び移ってきたロベルトは、侍女の目はやり過ごしたが、その直後に王妃の護衛騎士に見つかってしまった。
双方一瞬硬直し、同時にすぐさま動き出す。騎士は出入り口のガラス扉を開け放ちつつ、腰の剣の柄を握った。屈んでいたロベルトは反射的に立ち上がるが、後ろは柵で逃げ場はなく、今さら隣のバルコニーへ飛び移る余裕はない。
(斬られる……!)
鞘から滑り出る剣身の反射光が目に飛び込んできて、ロベルトは恐怖に身を固くし、とっさに相手を制するように手を前に出したが、それで止まってくれる騎士などいない。
時間稼ぎできる言葉は、何か、無いのか。
「ベラーネク……っ、伯爵家の……!」
待ってくれとか、誤解だとか、そういった弁明ではなく、ロベルトが無意識に選んだのは、名乗り、懐の手紙を差し出すことだった。
だが、そもそもロベルトは仕立て屋に伴ってもらうにあたり、身分と名前を偽っている。無我夢中で取ったこの選択肢は、即座に身分詐称が露呈するものであった。迷い込んだだけという言い訳をして切り抜ける道を、自ら完全に断ってしまったのだ。
そのことに気付いたロベルトは、頭が真っ白になった。このまま後ろへ倒れ、柵を乗り越えて階下へ落ちてしまった方がいいのではないかと、絶望が頭を過る。
ところが、騎士は剣を鞘から抜く手を止めていた。
瞠目し、ロベルトの差し出す手紙を見つめている。
「……王妃様に宛てたものか?」
抑えた声で尋ねられ、ロベルトは過剰に頷いた。嘆願書だと、悟ってくれている。
「預かる」
「あ、ああ! 感謝する!」
「静かに……!」
安堵で思わず声が大きくなったロベルトを叱咤しつつ、騎士は手紙を受け取って上着の中へ収めた。
そこへ、女性の声が部屋の中から届く。
「グスタフ様、いかがでしたか?」
先ほど隣のバルコニーへ出てきた侍女の声だ。隣の物音をまだ気にして、こちらの部屋の側から確認しようとしていたのだ。
「猫だったようだ! もう下へ飛び降りていった! ……すぐに戻れ」
焦ったように室内へ向けて声を張ってから、グスタフという騎士はロベルトにそう言い残し、侍女がバルコニーへ出てきてしまう前に急いで戻っていった。
ガラス扉が閉められ、カーテンも元通り引かれる。
もしあの侍女が、居合わせた彼に頼まず、自分で確かめに来ていれば同じ結果にはならなかったかもしれない。
失敗したかに見えたが、思わぬ協力者を得られて成功したことに、ロベルトは気が抜けて束の間放心した。そしてすぐに持ち直し、元の部屋のバルコニーへ戻っていくのだった。
双方一瞬硬直し、同時にすぐさま動き出す。騎士は出入り口のガラス扉を開け放ちつつ、腰の剣の柄を握った。屈んでいたロベルトは反射的に立ち上がるが、後ろは柵で逃げ場はなく、今さら隣のバルコニーへ飛び移る余裕はない。
(斬られる……!)
鞘から滑り出る剣身の反射光が目に飛び込んできて、ロベルトは恐怖に身を固くし、とっさに相手を制するように手を前に出したが、それで止まってくれる騎士などいない。
時間稼ぎできる言葉は、何か、無いのか。
「ベラーネク……っ、伯爵家の……!」
待ってくれとか、誤解だとか、そういった弁明ではなく、ロベルトが無意識に選んだのは、名乗り、懐の手紙を差し出すことだった。
だが、そもそもロベルトは仕立て屋に伴ってもらうにあたり、身分と名前を偽っている。無我夢中で取ったこの選択肢は、即座に身分詐称が露呈するものであった。迷い込んだだけという言い訳をして切り抜ける道を、自ら完全に断ってしまったのだ。
そのことに気付いたロベルトは、頭が真っ白になった。このまま後ろへ倒れ、柵を乗り越えて階下へ落ちてしまった方がいいのではないかと、絶望が頭を過る。
ところが、騎士は剣を鞘から抜く手を止めていた。
瞠目し、ロベルトの差し出す手紙を見つめている。
「……王妃様に宛てたものか?」
抑えた声で尋ねられ、ロベルトは過剰に頷いた。嘆願書だと、悟ってくれている。
「預かる」
「あ、ああ! 感謝する!」
「静かに……!」
安堵で思わず声が大きくなったロベルトを叱咤しつつ、騎士は手紙を受け取って上着の中へ収めた。
そこへ、女性の声が部屋の中から届く。
「グスタフ様、いかがでしたか?」
先ほど隣のバルコニーへ出てきた侍女の声だ。隣の物音をまだ気にして、こちらの部屋の側から確認しようとしていたのだ。
「猫だったようだ! もう下へ飛び降りていった! ……すぐに戻れ」
焦ったように室内へ向けて声を張ってから、グスタフという騎士はロベルトにそう言い残し、侍女がバルコニーへ出てきてしまう前に急いで戻っていった。
ガラス扉が閉められ、カーテンも元通り引かれる。
もしあの侍女が、居合わせた彼に頼まず、自分で確かめに来ていれば同じ結果にはならなかったかもしれない。
失敗したかに見えたが、思わぬ協力者を得られて成功したことに、ロベルトは気が抜けて束の間放心した。そしてすぐに持ち直し、元の部屋のバルコニーへ戻っていくのだった。
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