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23.侵入-2
しおりを挟む王都に居なかったロベルトは耳にしていないが、当初、王とヴィオラが年初の相手同士でありながら、不貞を行っているという噂が流れたそうだ。馬鹿げた話だが、その原因は、王がヴィオラを凌辱する場面を目撃し、それを誤解した者がいたためだった。公爵の見立てでは、ヴィオラを痛めつけて公爵家へ脅しをかけることが目的であったとのことだ。
王がそのような暴挙を働いたとは、すぐには信じられなかった。だがロベルトは、七年前に城の庭園にて、当時王太子だった彼から背筋を刺すような冷たい眼差しを向けられたことを思い出した。あの目と王の公正で厳格な風評は繋がらなかったが、今回の所業と結び付ければ腑に落ちた。昔から、このような非道に手を染められる人間だったのだ。
当初の誤解が城の外へも広がっていけば、被害者であるヴィオラの名誉が取り返しのつかないほど損なわれてしまう。そこで公爵は要求通りに鉱山を引き渡し、かつそれを貴族院議会の場で明らかにした。
不貞という誤った情報を訂正し、ヴィオラの身柄も取り戻すためだ。ところが、王の非道であったことは知らしめられたが、約束は反故にされた。ヴィオラは引き続き軟禁されており、ただ彼女の名誉だけが回復したという苦い結果に終わってしまった。
公爵がロベルトへ謝罪したのは、ヴィオラは現在公爵家の娘ではなく伯爵家の人間であるから、それを助けるためとはいえ一連の行為を伯爵家の意見を聞かずに進めたということからくる。だがロベルトが伝えたように、一刻も早く動かなければヴィオラの名誉は回復できなかっただろう。むしろ感謝すべきだ。
「陛下は道を踏み外してしまわれました。ご自身の名声が地に落ちようと構わないのでしょう。このままでは、ヴィオラの身柄を取り戻すことは叶いません」
鉱山を失おうと、公爵家が強大であることには変わりない。それを御すため、王は引き続きヴィオラを手元に置くだろう。
一体どうすればヴィオラを助けられるのか。公爵家と伯爵家でどうにかできる問題ではない。
「一人、陛下へ何らかの働きかけのできる御方に、心当たりがあります」
頭を抱える代わりに額へ手を当て項垂れていたロベルトは、公爵の言葉にはっと顔を上げた。
娘をこの国の頂点に立つ者に奪われようと、公爵は諦めてなどいなかった。冷静な言動でも、その青い瞳には強い信念が見える。ヴィオラのために紅玉鉱山を手放した人だ。彼女を助けるためならば、あらゆる手段を試みる覚悟があるのだろう。
「それはどなたでしょうか」
「王妃様です」
挙げられた人物は、王妃オフェリアであった。言われてみれば、王妃は一連の騒動の中に登場しない。ほんの少し前までは仲睦まじい夫婦という認識であったが、今回の王の暴挙に彼女は一体何を感じているのか。
「陛下が現状誰かの意見を受け入れる可能性が残っているとすれば、それは王妃様に他ならないでしょう。王妃様は北の国とのかすがいとなる御方です。その後ろ盾があるからには、王妃様の諫言は無視できるものではありません」
たしかに、王妃の協力を得られれば、この事態の解決に繋がるかもしれない。王妃とその後ろに控える北の国との不和は、両国にとって喜ばしいことではなく、彼女にも協力する意義があるはずだ。
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