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19.新たな取引-3

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「私が、夫である陛下の不義を責めないと、我が祖国へ弁明するのですか。正気でしょうか?」

 しかしイザークの計画には、当初よりこの提案も組み込まれていた。オフェリアの反応も想定通りだ。

「ああ。そなたの祖国が、嫁がせた王女が軽んじられたと怒りをあらわにしても、既に子がおり責務を果たしている以上、両国の盟約を反故にはできない。そしてそなたが納得しているというのであれば、あちらは矛を収めるしかないだろう。可能であれば、矛を出される前に動きたいが」

 今回の件は、オフェリアの王妃の地位が保たれ、産んだ子が王太子である現況に影響しない。ヴィオラは妾に過ぎず子供もできない。従って、血によって両国を繋ぐ義務は引き続き果たされているし、将来的にも保証されているといえる。
 そうして盟約に背かない以上、オフェリアの祖国がこちらへ抗議するとすれば、残る材料は体面を汚されたという点に尽きる。
 だがそれさえも、この醜聞が城の外へも漏れ彼女の祖国へ伝わる前に、早急にオフェリアの手で牽制できれば浮上しない。今は噂が届いていないため、何も起きていない。

「そうでしょうね。しかし、私がそこまでして差し上げる理由はありません。両国は対等な同盟国です。私は陛下のもとに降ったのではなく、国と同じく、対等な妻として嫁いできました。私はこの国の王妃ですが、今も変わらず祖国の代表者でもあります。その私が陛下の暴挙に忍従すれば、祖国を軽んじられたことを許容するも同然です」

 彼女の言う通りだ。あくまでイザークが国家元首であるため、この国の枠組みの中では上下が存在するものの、その身柄は無下にできる存在ではない。イザークはこれまでも、彼女を対等に扱い尊重してきた。それは有事を任せられる人柄であるからだけでなく、オフェリアの後ろには重要な同盟国が控えているためであった。
 従ってオフェリアは、イザークがヴィオラを囲うことに物申せる立場であるし、そうしなくては彼女の祖国の面子に泥を塗らせてしまうだろう。
 ただしそれは、イザークの行いを唯々諾々と受け入れた場合の話だ。

「対等に許す方法はいくらでもある。私と接することが苦痛になったから、他で済ませることを許したとか。あるいは、そなたも同じことをするからだとか」

 オフェリアの嘲笑が、消えた。イザークの取引の全容を薄々気付き始めている。一方で、そのあまりの不道徳さが、理解を拒んでいるようだ。

「そなたへの対価をまだ話していなかった。……子供が欲しくはないか」
「欲しいも何も、私たちが後継者を儲けることは義務です」

 結果として現在王子と王女が一人ずつ生まれ、健康に育っている。果たし終えた義務を今さらなぜ持ち出すのかと、オフェリアはイザークの言葉を一笑に付そうとして、し損ねている。口元の笑みがぎこちない。
 いつぞやかオフェリアはイザークへ問いかけた。自分たちは年に一度の交わりで十分幸せだが、少年の頃にはヴィオラと結婚する未来を思い描いてしまったイザークが、それだけでこの先も満足できるのか、と。だがイザークは、オフェリアが一歩引いた場所からこのような言葉をかけておきながら、年を重ねるほどにグスタフと今以上を望むようになってしまったと知っている。彼女が心の奥底へ押し込めている願望を、共犯者だからこそ、悟っている。

「私ではない。そなたの騎士との子だ」
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