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13.晩餐-3
しおりを挟むクロスのかかったテーブルの上には食器類の他、蝋燭の灯された燭台や、ガラス容器へ移された葡萄酒と水差しが準備されている。
ヴィオラが手を出す前に、イザークが葡萄酒の容器を取り上げた。そしてヴィオラの前に置かれたグラスへ注ぐ。
「頂戴いたします。……陛下はよろしいのですか?」
続いて自分のグラスへ注ぐかと思えば、イザークは水差しへ持ち替えた。
「しばらく酒は飲んでいない。この程度では酔わないだろうが、どうもグィリクスでのことを思い出すからな」
苦笑して語られた理由に、ヴィオラは二の句を継げなかった。たしかに、あの薬酒とは違うとわかっていても、記憶を失う惨事を経験すればしばらくは飲みたくなくなるだろう。
あの夜に起きたことの詳細は、イザークには明かしていない。近衛兵たちも黙ってくれているようだ。帰国後すぐの休暇から戻ってきても、イザークの様子におかしなところはなかった。あのようなことは知らせなくていい。流石に性行為の痕跡があるのでヴィオラが相手を務めたと説明したが、具体的な話は知る必要のないことだ。
葡萄酒と水で乾杯をして、料理に手を付ける。
料理はどれもヴィオラの好物ばかりで、イザークが考えてくれたのだろうと窺わせる内容だった。葡萄酒は独特の爽やかな風味がして、飲んだことのない銘柄だが料理と上手く調和している。ヴィオラは酔うと眠くなる性質だが、葡萄酒であればひと瓶空けなくてはそうならない。グラスに一、二杯であれば問題ない。
「この温室で共に過ごすのも、久しぶりだな。あの噴水、覚えているか」
食事をしながら思い出話に花を咲かせていると、イザークは少し離れた場所にある噴水へ視線をやった。壁際に設置されたレリーフから水が噴出する形になっている。
彼がふっと口元を緩めたのを見て、ヴィオラは何を話そうとしているか察してしまった。
「私がそなたに突き落された噴水だ」
幼いころ、水の吐き出し口の上に秘密の通路を作動させる仕掛けがあると嘘をついてイザークを上らせ、後ろから突き落した。怒ったイザークともみ合いになり、結局二人とも落ちてずぶぬれになったのだ。
「その節は……、どうぞお忘れください」
くっくと喉を鳴らして笑うイザークに、責める様子はない。ヴィオラは申し訳なさと恥ずかしさで小さくなるしかなかった。
「あのお転婆が筆頭秘書官にまで上り詰めたのだな……」
イザークはナイフとフォークを置き、感慨深げに呟く。
「はじめは私と幼馴染であったがために口さがない連中に文句を言われたものだが、それをそなたは自らの力で黙らせてきた。弱音も吐かずに。並大抵のことではない。……そなたを、尊敬している」
「陛下……」
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