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06.王の振る舞い-2

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 最後に出ていこうとしたヴィオラは足を止め、意を決したように振り返り、再び席へ着こうとしていたイザークの元まで歩いてくる。

「イザーク殿下」

 見上げるヴィオラの眼差しも、少し不安げに揺れている。父王の実質不在な状況での、一大事だ。イザークに十分な王の器量がまだ備わっていないことは、彼女にも分かっているだろう。

 机を回り込んで隣に立ったヴィオラは、イザークの手を両手でそっと取り上げた。

「伯爵夫人……」

 そうして触れたのは、子供のころ以来だった。
 ある程度分別が付いてくると、例え男児のように遊ぶ仲だとしても、そうそう触れ合うことは許されないと理解してくる。二人の体が成長するにつれ、それは顕著になっていった。
 本当に久々に合わせられたヴィオラの手は、イザークよりも頼りないほど華奢に感じた。彼女の父の苛烈な指導で負った、細かい古傷のある、高貴な淑女らしからぬ手。それでも、その指先がしなやかで上品に動く様を知っている。
 ヴィオラの手の温かさと、瞳の穏やかな琥珀色は、苛立ち昂るイザークの心を少しずつ鎮めてくれた。

「殿下だけは、どのような望みも叶うとお考えになって、振る舞われてください」

 責めるような声音ではない。ただただ諭すように、乞うように、切実に訴えかけてくるヴィオラの言葉。

「それは、その力を濫用するということではありません。そのように振る舞うことで、いかなる苦境へ陥っても、殿下なら全て良い方向へ導いてくださるのだと、殿下の選択は正しい道なのだと、泰然として臣下へお示しになるのです。どうか……。皆、殿下を心から頼りにしております」

 その意味を理解したイザークは、息を呑んだ。

 抗戦を訴えるであろう一部の臣下に対し、イザークは自身も腹立たしいと同じ感情を示したうえで、我が国では力不足だと正直に伝えるつもりだった。彼らの心に寄り添うのは、そういうことだと思っていた。
 しかしそれはやむなく何もできないのだと印象付けることになる。上に立つ者がそれでは、この国は何と無力なのかと、むしろ彼らの不安をあおるだろう。
 ヴィオラの言う通り、何か他にも選択肢はある中で、より良い方へ導くためにあえて隣国に対し何もしない道を選ぶのだと、決然の態度を示さなくてはならない。

「そうだな……。不安にさせた。すまなかったな、伯爵夫人」

 イザークが冷静さを取り戻し、そして自分の取るべき行動を理解したと分かると、ヴィオラは不安げながらも微笑んだ。

 父王にもかつて教えられたことだ。このような本当に必要な段階になって、他人の力を借りて思い出した。
 誰にも打ち明けられないが、イザークはまだ王の器ではない。周囲が頼りにしてくれていることは分かっているが、自分の心がまだ追いついていないのだ。今は静養中とはいえ父王の存在を拠り所にしている。また、ヴィオラも傍で支えてくれている。
 皆を頼りながら、自分のできることとすべきことを、していかなくてはならない。

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