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後編
26.部活-2
しおりを挟むまだ授業が始まる時間帯より、かなり早い。
アルヴィドが向かったのは、顧問を務めるベゼルス部の部室である。
扉を開ければ、熱心な生徒たちが朝から盤上遊戯の練習に励んでいた。
「おはよう」
「先生、おはようございます」
各地の学校が一堂に会してのベゼルスの対校試合が、次の休日に開催される。
ルーヘシオンはその創始者たちの逸話から、ベゼルスを学校挙げての重要な競技と位置づけている。他校との勝負は、まさに学校の威信がかかっているのだ。そのため生徒たちも並々ならぬ熱の入れようで、こうして良いのか悪いのか試験勉強より多くの時間を部活に割いている。
出てきている部員は奇数で、一人あぶれて観戦へまわっている。
「私とやるか」
「お願いします!」
その男子生徒は、四年生ながら対校試合の正選手に抜擢されている実力者だ。
声をかけると、いそいそと遊戯盤の前に座った。
先攻後攻を決めて、順番に並んだ駒を動かしていく。
駒の種類によって動ける位置や、できることが違う。
「先生、また剃り残し」
不意に顎下を指さされ、反射的に手で触れる。確かにまた残ってしまっている。
「ああ、またか。苦手なんだ」
まさか生徒に、毎朝鏡を見ずに剃っているなどとは言えない。そのため、苦手と言い張っていた。彼らには、よく髭を剃り残す、ずぼらか不器用な男だと思われている。
だが生徒たちにとって重要なのはアルヴィドの身なりではなく、ベゼルスの腕前と指導能力だ。その点については合格を貰えたようで、一定の敬意を持って接してくれるようになった。
雑談をしながら、順番に駒を動かし、駒を取ったり取られたりしていく。
こうして他愛もない事を話しているが、集中していないわけではない。同時並行で複数のことを考えるのが競技上重要であるため、あえて雑談を交えて練習しているのだ。
「なんだか最初より顔色良くなりましたよね。特に二学期に入ってから」
「そうか?」
「はい。隈もどことなーく、薄くなりましたし、ちょっぴり髪と肌のつやが出てきました」
「よく見てるな……」
アルヴィド自身は気付かない。何せ鏡を見ていない。
「最初の頃は、もうすぐ死にそうな感じでしたよ」
「人より老けるのが早いんだ。今は年相応に見えるか?」
「うーん。二十代にはちょっと……」
「手厳しいな」
笑いあいながらアルヴィドは、変化の理由があるのであれば、イリスだろうと考えた。
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